ニュースを見てみると、誘拐された造船会社社長代田育雄のニュースばかりだった。蘭が「どの局もこのニュースばっかりだね…」と言うと、園子が頷いた。蘭が代田育雄の事件について園子に話すが、園子は「へー…―――って、今はそれは置いといて紙飛行機野郎のニュースを…」と困ったような表情をしてニュースを見た。遙はニュースを眺めた後に、昴を横目で確認する。昴がその視線に気付いて遙と目を合わせると、ふっと口元を微かに緩めた後に、蘭と園子を見た。
「いや…無関係じゃないかもしれませんよ…」
「え?」
「誘拐され、何処かに監禁されたままだったのなら…夜な夜な犯人の目を避けてSOSの紙飛行機を飛ばしているのも頷けます…」
「じゃあこの代田社長が紙飛行機野郎!?」
「ええ…可能性は高いですね…元船乗りなら船舶の非常用通信手段として使われていたモールス符号を使っていてもおかしくない…」
「でも、だったら何で監禁されてる場所をこんな暗号じゃなくちゃんと文字で書かないわけ?」
「多分、ヘタな真似をすると家族に危害を加えると脅され、それを信じているんでしょう…恐らく誘拐犯が自殺した今現在も…」
「そっか!だからこんな模様だったんだ!これなら仮に犯人に拾われたとしても子供のイタズラだって思わせられるから!」
昴が、蘭の言葉に頷く。遙は感心しきって、昴の話を聞いていた。
「一昨日と昨日回収されたその2機は、2機共同じ雑誌のページを切り取って作られた物のようですから、もしかしたら代田社長は監禁場所に何かでつながれ、あまり身動きが取れずその雑誌しか手に取れない状況かもしれませんね…」と続けると、ニュースで紙飛行機野郎についての続報が流れ始めた。今朝紙飛行機が発見された米花タワーマンション前で機体の模様を確認していた。反対側に丸が一つと欠けた丸が4つ左右対称に描かれていて、怪しげな折り目もついており、謎は深まるばかりだとのことだった。蘭と園子が「折り目?」「テレビじゃよく見えないね…」と会話している後ろで思案気な昴が、ポケットから手帳を取り出すと、紙を一枚破いてソファに座ると、それを折りはじめた。遙は、はっと昴の行動の意味に気付くと、自分も昴の手帳から紙を破いて一緒に折りはじめた。もくもくと折っては破き折っては破きを繰り返す昴と遙を見ていた蘭が「あ、あの…昴さん?遙さん?」と問いかけると、園子が「紙飛行機っていえばさー、色々な折り方があったよねぇ?」と蘭に話しかけると、昴がはっとした表情になり、新しく折りはじめた。そして、最後にペンで丸を描いて黒く塗りつぶすと、にっと微笑んだ。遙は昴の折った紙を見て「昴、その3つの黒丸ってどういう意味…?」と聞くと、「べ、ですよ」とすぐに返事が返ってきた。園子が「その3つの黒い丸って『べ』っていう意味なの?」と昴に聞くと「ええ…恐らくは…」と昴が答えた。蘭が「じゃあそれはモールス符号の『B』と『E』だったんですね!」と告げると、昴が首を振って「いや、これはアルファベットじゃなく和文モールス符号…短点1つで『へ』…短点2つで濁点を示していて…合わせると『べ』になるんです…」と返すと蘭が感心したように頷いた。園子が「でもその『べ』が何のメッセージだってわけ?」と問うと昴が折った紙を「この形を見てもわかりませんか?」と蘭と園子に見せた。
「形って…」
「イカ?」
「あ、昴…!俺わかった…!」
考える二人より先に理解した遙が、嬉々とした表情を昴に向けた。すると、園子が「なーんで遙兄が先にわかるのよ…なんか悔しいわね」とガン飛ばしてきた。昴は優しげに笑みを浮かべて遙に頷くと、まだ理解出来ていない二人に「今の『べ』と繋げればベ・イカ…つまりこの紙飛行機はこの米花町を意味しているという訳です!」と答えた。園子がそれに拍子抜けしたように「ダ、ダジャレ…?」と呆れたような表情をした。
「まあ、暗号なんて突き詰めればただのダジャレのようなものですし…恐らくはこの紙飛行機は、誘拐されどこかに監禁されている代田社長が飛ばした物…仮に犯人に拾われたとしても、犯人にさえ解けなければダジャレでもなんでもOKだと踏んだんでしょう…」
「でも代田社長はどこにいるんですか?確か最初の紙飛行機は『SOS』で…次の紙飛行機が『携帯の電波が入らない場所』でしたよね?」
昴の言葉に蘭がそう告げると、「さっきのも合わせると『米花町の圏外の場所に囚われているから助けて』になるけど…」と園子が呟くように言った。それに蘭も頷いて「米花町で地下以外にそんな場所あるのかなあ?」と言うと遙と昴が「高層の建築物…」と同時に告げた。
「携帯電話の基地局っのアンテナって人口密度の高い地面の方に向けられてるから高い所ってつながりにくいんだよ」と遙が告げると「しかもつながればつながったで、その高さゆえに複数の基地局の電波を拾ってしまい…携帯電話が少しでも電波強度の強い基地局に切り替えようとするため、頻繁にローミングして結局圏外になってしまう…米花町には高層ホテルと高層マンションがありますが、ベッドメイクなどで部屋に部外者が出入りするホテルは監禁しにくい事を踏まえると…」と昴が言葉を続けた。
「代田社長が囚われているのは…おそらく米花タワーマンションだと…」
「ウソ!結構近くじゃん!」
「まあ圏外というヒントは監禁場所が高層マンションだと暗示しただけで…実際には犯人は代田社長の携帯は取り上げられているでしょうけど…とにかくこの事を早く警察に!」
昴の言葉に園子が頷いたのを見た遙が、そういやコナンの方はどうなってるかな…とポケットから携帯を取ろうとしたが、入っているはずの電話がなかった。一拍おいた後、携帯の所在を思い出した遙はさあっと顔を青くした。携帯俺の部屋に置いたままじゃんか…!この間もコナンに携帯を携帯してないの怒られたばっかなのに…!絶対怒られる案件だろこれは…と溜息を吐いていると、視界の端で携帯に出る蘭の姿が見えた。その表情が少しの照れと嬉しさが交じっているのに、遙は誰からの電話なのか瞬時に理解した。嗚呼、あれは絶対にコナンだ、と。
「え?じゃあ解けたのね、紙飛行機の暗号!」との蘭の言葉に「さすが!」と遙が笑った。会話は続いているようで「でも、そこからだとマンションの片側しか見えないよ?」と困ったように返している。遙は嫌な予感がして電話を代わってもらおうとした所で「うん!わかった!!―― 園子!後は頼んだわよ!」と行って園子の呼び止める声も気にせず部屋を飛び出して行った。遙が「っ蘭!?」と焦って追いかけようとしたが、腕を昴に掴まれて阻まれた。「ちょ、っと!昴…!?」と遙が腕を離してもらおうと抵抗を見せたが、昴はそれを気にした様子もなく、腕を掴む力が僅かに強められた。園子が「じゃあ警察に連絡するのは昴さんに任せて、わたしも蘭と行っていい?暗号説明するの大変そうだし…」と告げたのを「いや…通報するのは警察と面識のある君の方が適任かと…まあ現場は彼女と彼に委ねましょう…推理好きの金一君に…」と昴が眼鏡を軽く指先で上に上げながら答えたので、園子が「じゃあ電話してから蘭のとこついていきますね!」と足早にリビングから出て行った。
遙はまだ腕を離さない昴に、一度離してくれというように腕を動かした。そうして視線が、交じりあった。「あのですね、昴さん…俺も蘭が心配なんで行きたいんだですが…」と告げると「駄目だ」と即答された。
「大丈夫ですよ…彼女には金一君がついている。先程園子さんにも言いましたが、現場は彼と彼女に任せましょう…それに、あなたはまだそちらの腕の痛みはなくなったとはいっても、痣が完全には消えていないでしょう。僕は正直、彼女より遙の方が心配だ…また、新たなストーカーが現れるとも限らない。――…あまり傍から、離れるな」
「何その過保護…!?」
しかも変装しているとはいえ中身は赤井秀一…!赤井さんってこう、自分のパーソナルスペースを許した人には心配性なの!?そうなの!?教えてジョディさん…!!と遙が葛藤していたが、昴の表情は真剣そのものだ。瞳からも有無言わさぬ重圧を感じて、何故だか冷や汗が流れた。遙はそんな昴にふっと困ったような表情を見せた後に、眉を下げて笑って、昴の目元を落ち着かせるように指先で優しく撫でた。
「分かったよ…あんまり、離れないようにするからさ」
そう答えると、やっと昴が安心したように腕から手を離した。「…次は僕がコーヒーを淹れましょう。座っていてください」とキッチンに入っていったのを見送って、遙はふっと息を吐いて深くソファに座った。いつの間にかお天気情報になっていたニュース番組を、遙は昴がコーヒーを持って来るまで、ぼーっと見ていた。
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コナンからのお叱りの電話を受け、蘭が監禁された部屋に単身乗り込んで行ったと聞いて肝を冷やした遙は、昴に「おやすみ…」と告げると、疲れたように早々に部屋に戻って行った。
――…昴は書斎で一人、グラスを傾けていた。深いブラウンが、昴の喉を潤していく。ゆっくりと書斎を後にすると、階段を上って遙の部屋の扉をノックしたが、返事がない。音を立てないようにドアノブを開けて中に入ると、遙はベッドの中で眠っていた。「んん……」と小さく呻いたかと思うと、寝返りをうち、人一人寝られそうな空間が出来た。昴がバーボンの入ったグラスを絵の練習の紙や資料で覆われている机に置いて、さらりとした遙の黒髪に指を入れて軽く解かした。白い項が、サイドテーブルの明かりで照らされて昴は目を奪われた。
――― 眠るか
昴は、ふとそう思うと吸い込まれるかのように遙の眠るベッドに体を滑り込ませて、項に額を近付けた。そうしてぐっと軽く力を入れて遙の体を自分の方へ引き寄せると、ふにゃっと遙が口元を緩ませた。すっぽりと自分に収まった遙の温もりと優しい香りに安堵を溢すと、昴は静かに瞼を閉じた。