この男も君を守る

「ねえ、最近あなた…ここに来るのが遅いんじゃないかしら?」
「え……きゅ、急に何を言い出すのかな、哀?」

お気に入りのゲームソフトを手に、ほくほくとした様子で博士の家に足を踏み入れた。ゲームがド下手の遙が奇跡的にクリア出来たRPGゲームだ。もう何回クリアしただろうか、そのゲームソフトを彼は持ち歩いては博士の家で勤しんでいた。博士はひとつも気にしたことはないのだが、哀だけは呆れ顔で溜息を吐きながら、その様子を毎回コーヒー片手に見守っていた。今日もそのゲームをクリアしようと満面の笑みでテレビ前に向かい、もうセットし終えようかという遙を阻むかのように、苛立ちを露にした哀が睨みをきかせた。

「いつもは、すぐここに来るのに、ここ最近は来るのが2時間も遅いわ…何か、私に隠してることがあるんじゃないかしら?」
「いやいやいや!いやいやいやいや!そんなことないよ!哀!」
「怪しいわね…遙、私に嘘つくつもり?」
「そんなことは!そんなことはないよ!ほんと、なんもないから!やましいことはなにも!」
「本当かしら?…嘘ついてたら、フサエ・ブランドの新作バック買ってもらうけどいいのね?」
「うっ……」

据わった瞳が、ぐっと遙に圧力をかけてくる。苦しげな声を上げた遙が、ゆっくりと頷いて答えると、灰原はフンッと鼻を鳴らしてまだ不機嫌そうにしながら、ソファに座った。もう、この話はおしまいにしてくれたのだろう。遙は昴とコナンの顔を思い浮かべながら心の中で深い溜息を吐くと、少し重い気持ちのままゲーム危機の電源を入れたのだった。一拍置いて流れ始めた軽快なリズムに胸躍ることなく、遙は気まずい気持ちを抱えつつ、ゲームコントローラーを握り締めた。

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灰原と一悶着あった次の日、遙は昴の家に向かっていた。在宅の仕事が早めに終わったので、一緒におやつ食べないかなと思ったからだ。ついでに昨日の灰原との冷や汗モノの話を聞いてもらおうと考えたのだ。昴にコーヒー淹れてもらうかー!と口元を緩ませて木馬荘を見た瞬間、目を見開いた。…昴の住む木馬荘が、無くなっていたからだ。呆然と眺めた後、慌てて走り出して角を曲がった瞬間、人だかりが出来ており、パトカーが止まっているのが見えた。その中に昴の姿を見つけた遙が、「すばる…!」と駆け寄ろうとしたところで、「遙…!?」と声が聞こえたので、ふと視線を下に向けると、哀の姿があった。そのすぐ隣には、コナンが不機嫌そうに立っている。少年探偵団の3人組もいて「こんにちはー遙お兄さん!」と元気の良い声で挨拶した。

「あ、哀…!?なんで…って、コナンはなんでそんなに不機嫌そうなんだ!?あと、少年探偵3人組はこんにちは…」
「おい、おめー携帯忘れたろ。さっき連絡いれたんだけど留守電になったぞ」
「え、あ……げっ…!」

簡易バックの中を確認するも、携帯の姿は見当たらず、カーディガンのポケットも確認したが、そこに携帯はない。ガクッと項垂れた遙は、酷く申し訳なさそうにコナンに頭を下げた。そしてすぐに、はっとした表情になって昴に駆け寄った。横目に、全焼している木馬荘が映り、遙は昴に顔を近付けるやいなや、顔、首、腕に触れる。

「すばる…!怪我は!?」
「遙、落ち着いてください。この通り、僕は大丈夫ですよ」

不安そうにあちこちを触って怪我していないか確かめる遙の様子に、昴がふっと微笑んで遙の手を取ると、優しく頭に手を置いた。宥めるように数回撫でる昴に、ようやく遙は落ち着きを取り戻したようで、ふうっと大きく息を吐くと、「良かった」と眉を下げながら微笑んで昴を見ているとコナンがコホン、と咳払いをしたのが聞こえたので遙は後ろを振り向いた。コナンが、「じゃあ、話の続きだけど…」と好戦的に微笑むのに、遙は自分がコナンの推理中に入ってきてしまったことに気付いて気まずげに頬を指で掻いた。

「この3人の中の誰が黄色い放火犯かってことは…もうわかってるからさ!」

コナンの言葉に、黒人のような男性が「な、何だと!?」と驚きを露にし、昴は「それは是非聞かせて欲しいね…」と興味深そうに答え、小太りの眉間に皺を寄せている男が「誰なんだよ?黄色い人って…」と告げる。スーツを着た人相の悪い男が、「お、おいボウウズ…」と一つ汗を浮かべてコナンに目を向けたのに、コナンが「もちろんボクもすぐに黄色い人ががわかったわけじゃないよ!開人くんの日記には赤い人や白い人も出てくるから…その赤い人や白い人が誰なのかがわかって、やっと黄色い人がわかったってわけさ!」と快活に答えていると、黒人のような男が「あ、赤い人や白い人もいるのかよ?」と呆れたような表情で問いかけたのでコナンは頷いて「日記にはこう書いてあるよ!」と告げると、遙手招きして日記を指で示した。読めということだろう。昴の隣から素早く移動してコナンから日記受け取ると、遙はコナンの示した日付の日記を読み始めた。

「えっと、…今日は朝からやな天気…ボクは早く学校に行かなきゃいけないけど…赤い人は寝坊できるかもね…編の人も今日はゆっくりかも……編の人?」

コナンが、「編の人はおめーのことだ」と告げた後「これって赤い人は毎朝何かをやっていて、この日は雨が降るから、その何かをやる必要がなくなったってことだよね?」と言うと、後ろにいた少年探偵団に「それって何かわかるか?」と問いかけると思案顔で「普通は洗濯物を干すぐらいですが、男の一人暮らしで毎日は…」「運動会は雨だと中止だぞ!」「大人は運動会やらないよ!」となんとも面白い解答が飛び出て、遙は肩を震わせて気付かれないように声を出して笑うのを我慢した。すると、灰原が小さく「花の水まき…」と答えたので、それに遙が、ばっと顔を上げて昴を見た。昴は、いつも花の水まきをしていたのだ。まさか、赤い人って…?と昴を見つめていると、「そっか!小林先生言ってたね!お花の水は朝と夕方にやりましょうって!」と歩美が言うと、コナンが「ああ!だから毎日アパートの植物に水をあげてたっていう冲矢さんが、赤い人ってわけだよ!」と昴を見つめながら答えたので、遙は「やっぱり!」と呟いた。

しかし納得がいかないのか、スーツを着た人相の悪い男が「だがよボウズ…何であの兄ちゃんが赤い人なんだ?顔色からすると赤ってより白だが…」と聞いてきたのに、コナンは素早く「ホラ、開人くんの部屋の辺りにミニカーがたくさんあったでしょ?きっと開人くんは車が大好きだったんだ!車で赤っていえば真っ先に思いつくのは…」と言葉を続けているコナンにピンときた少年探偵団が「消防車!」と元気よく声を揃えて答えたので、スーツを着た人相の悪い男がにやり、と口元を引き上げて「なるほど…」と呟いた。

「開人くんはこの兄ちゃんがホースで水をまいてる様子を見て、「あの人は消防車、赤い人だってあだ名をつけたわけか…」

「うん!」と頷いたコナンの後ろで「…だとしたら白い人も車の色ってことですよね?」「けど白い車なんかいっぱいあるぞ?」「歩美のお家の車も白だし…」と少年探偵団が話し合っているとコナンが「あるだろ?いつも決まって白い車が…」と告げたのに、遙と灰原が同時に「救急車…」と呟いた。灰原が「日本じゃ白いわね、あの車…」と続けると「ああ…道路運送車両法で車体の色は白と決められているからな!」と頷くと「でも誰なんですか、救急車って…」と光彦が言った言葉に、コナンが「救急車は何をしてくれる?」と質問した。

「ケガ人を運んだり…」
「車の中で手当もしてくれるよ!」

と答えた元太と歩美に、光彦がはっとなった後「そうか絆創膏です!さっきボクがヒジを擦りむいた時絆創膏をくれたあの細井って人が白い人ですね!よく怪我をするから絆創膏はいつも持っているとも言ってましたし!」と黒人のような男性に向けてそう告げた。遙はあの人日本人なのか…と繁々と見つめた。

「そういやあ日記にも書いてあったな…「学校から帰ったら玄関で転んで、白い人が出かける所でよかった」と…」
「ああ…ヒザから血が出てたからよ、持ってた絆創膏をボウズにやったんだ…まあ、その前にもあのボウズには何度か絆創膏をやってたんだが…まさかこの色黒の俺に白い人なんてあだ名をつけていたとはな…」

と意外そうな表情で言った細井に、スーツを着た人相の悪い男が「…とまあ残るは黄色い人だが…」と考え始める。遙はずっとこの男が木馬荘の人間か違うのか考えていたが、言動や状況、パトカーがあることからして、多分この男は警察官なのだろうなと答えを導き出した。そんな遙の傍で、「黄色い車っていえば…」「タクシーは黄色いぞ!」「でも白や緑のもあるよ!」と少年探偵団が話していると「車両系の建設機械!ありゃー事故を防ぐために確認しやすい明るい黄色で塗装される場合が多いな…」と警察官の男が呟くように言うと「けんせつキカイ?」と歩美が聞いてきたので、少し優しげな表情をして「ブルトーザーとかショベルカーとか土を掘ったりならしたりする車だよ…」と答えた。それにコナンが少し険しい表情をして「そう…つまり、指の爪に土が入っていた…真壁さん…あなたがこのアパートを放火した、黄色い人ってわけさ!!」と小太りの眉間に皺を寄せている男に向けてそう言い放った。

真壁は、狼狽えながら「な、何言ってんだよ!?言っただろ?この爪の泥はサバイバルゲームで山の中を駆けずりまわったからだって…」と答えるが、コナンは「確かに派手にやられてペイント弾の色が落ちなくて服がダメになったって言ってたよね?」と畳み掛けるようにいうと真壁は気圧されるように「あ…ああ…」と頷く。

「日本でやってるサバイバルゲームで使われているのはBB弾を発射するエアソフトガン…ペイント弾を使うのはペイントボールって別のゲームだよ!ルールはほとんどサバイバルゲームと同じだけどね…」

コナンがそう発言すると警察官の男が「ホォー…」と感心したようにコナンを見たあと、真壁の方を見た。真壁は冷や汗を浮かべながら「あ、いや、子供にも分かりやすいようにサバイバルゲームって言っただけさ!本当はそのペイントボールをやってたんだよ!」と矢継ぎ早に言葉を口にするとコナンがなんてことないように微笑んで「でもペイント弾って水溶性インクで出来ていて、服に着いても洗い落とせば綺麗に落ちるってテレビでやってたよ!」との言葉に警察官の男が「ホ、ホォー」とじとっとした視線を真壁に送る。

「それに真壁さん、好きな色は迷彩柄のネイビーグリーンって言ってたよね?ネイビーの名前がつく色は、海軍の服でよく使われているネイビーブルーっていう藍色だけ…迷彩服によく使われているのはオリーブドラブっていう緑だと思うけど?」

コナンの言葉に警察官の男が「お前さん…本当にそのなんとかゲームをやったことがあるのか?」と疑うように投げかけると「あ、あ、じ、実はこの前から始めたばっかりで…聞きかじった名前を適当に言っただけで…」と更に焦り出した真壁がそう口にするが、コナンの「まあ、アパートの庭があった所を調べてみればいいんじゃない?」と言葉に驚愕したような表情になった。

「黄色い人が夜な夜な怪しい事をしてたっていう開人くんの言葉と、真壁さんが爪に入った泥を嘘までついてごまかそうとしていることを合わせたら…真壁さんは夜、人目を忍んで庭を掘り起こしていたって事……―― だから埋まってるはずだよ!真壁さんが誰にも見せたくない大事な何かがね!」

半眼になって呆れた表情のコナンが「埋まっているのはもしかしたらデイトレードで儲けたお金とか…だったりして…」と告げれば、真壁は「あ、ああ…アタッシュケース二個分…ざっと2億は貯まったかな?」と答えると、今まで存在を感じていなかった太眉の青年が「に、二億!?」と驚いた声を上げたのに、遙はびくっと肩を震わせてその青年を見つめた。「い、いたの全然気付いてなかった…」との小さな呟きが、遙の口から思わず零れた。