「どこでそんな大金を?」と警察官の男が尋ねると真壁は「だからデイトレードだよ!いいシステムを思いついちゃったからね…」と答えた。
「税金を払いたくないから、100万貯まる度に銀行からおろして庭に埋めてたんだけど…夜中、映画から帰って来たら大家さんがそのトランクを持って僕の部屋の前で待ってて…「この金は何だ!?」ってしつこく聞くから…イラっときて突き飛ばしたら大家さん、玄関から転げ落ちて動かなくなっちゃって…」
「んで?怖くなって火を付けて逃げたってか?」
「う、うん…燃えちゃったら何もかもリセットできると思ってさ…もちろんトランクは元の場所に埋めたよ…後で掘り起こすつもりで…」
そこまで答えた真壁に、警察官の男がキレて真壁の胸倉を掴みあげて「リセットだとォ!?わかってんのか!?お前がやったことはゲームに負けたから電源を切るのとはわけが違う!何十年も培ったこのアパートとその思い出を一夜にして黒こげにしちまったんだ!」と怒鳴った。「リセットなんかさせやしねえぞ…お前さんの人生ゲームはまだまだ終わっちゃいねえ…たっぷりと償わせてやるから覚悟しとけ!巻き添えを食った大家親子の分もなァ!」と蒼白の真壁に叫ぶと、太眉の青年が「あ、弓長警部!その親子のことなんですが…たった今米花総合病院から連絡があって、大家さんの手術は無事成功し、開人くんも意識を取り戻したそうです!」と告げると、警察官の男、弓長と少年探偵団は「おおそうか!」「良かったー!」と喜びの声を上げた。
「まあマネーゲームでしこたま貯めたその金でアパートを立て直してやるんだな…」との弓長の言葉に真壁が「は、はい…」と萎れた声音で答えたのだった。
「でも一つ謎が残りましたねえ…」「ああ…コナンが白黒君って呼ばれてたヤツだろ?」「黒と白の車なんてあったっけ?」とテンポよく交わされる少年探偵団に弓長が「フン…そいつはきっと…俺たち警察の車…パトカーのこった!」と答えてくれた。歩美が「そっかー!」と晴れやかな声を出すと、弓長がコナンの頭を撫でて「警察顔負けのこのボウズのあだ名にゃうってつけってわけだ!」と言うと、コナンが得意げに微笑んだ。遙が大人しく撫でられているコナン…中身高校生の新一くんかわいいですなあとにやにやとしていたことは、誰にも内緒である。
弓長たちが去った後に、「そういや…」と遙はコナンに「編の人っての、俺のことだって言ってたけど…コナン、なんで俺なんだ?」と聞くと、コナンが「ああ」と遙のカーディガンの裾を引っ張った。
「おめーいつもカーディガン着てるだろ。多分、昴さんのことに行くときも、その灰色のカーディガンばっかり着ていってたんじゃねーか?」
「……ご名答。だって羽織りやすいんだよ、このガーディガン…」
「おめーのそのカーディガン、手編みっぽいデザインだからな。そのデザインで、開人くんは昴さんの家に遊びに来る遙のことを、『編の人』ってあだ名にしたんだろうな」
くいくい、と裾を引っ張り続けながらそう言ったコナンに、遙は他の服も見に行くか…と近日中にデパートに出掛ける算段をつけていると、少年探偵団が「それじゃあこれから開人くんのお見舞いに行きますか!」「さんせー!」「その病院遠いから博士に車で連れてってもらおーぜ!」と和気藹々と話していると、昴が「博士?君たちの知り合いに博士がいるのかい?」と尋ねた。
「うん、いるよー!」
「いつもくだらねえゲームばっかり作ってるけどよ!」
「一応、工学部の博士号を取ったと言ってました!」
少年探偵団の言葉に、昴が微笑んで「それは奇遇だなあ…僕も工学部の博士号を取ろうと大学院に通っている身でね…家はこの近くなのかい?」と聞くと、光彦が「はい!すぐそこです!」と答えて笑った。「その博士に会ってみたいんだけど…」と昴が言えば、「いいよー案内してあげる!」と歩美が嬉しそうに笑った。「それはありがたい…」と歩美に答えた昴の姿を見ていた灰原が、蒼白な表情でコナンの後ろにいた遙のカーティガンの裾を強く握りしめ、もう片方の手でコナンの腕を強く掴んでいた。コナンが灰原にちらっと視線を送ったが、声をかけることはしなかったので、遙は「哀、今日は何食べたい?」と言葉をかけた。前を歩き出す昴と少年探偵団たちより、少し距離を開けて歩きながら遙は灰原を安心させるようにと優しげに目を細めた。冷や汗を浮かべて、少し顔色の悪い灰原が「…なんでも、いいわ…」と苦い声音でそう答えたので、「じゃあ今日はチーズインハンバーグにするか!半熟の目玉焼きもつける!」とぎゅっと灰原の小さな手のひらを握り締めながらそう告げると「ねえ…遙、あなたあの男と知り合いなの?」と呟くように問いかけられたので、遙は一度、周りの景色に視線を向けた後、うん、と軽やかな声で答えた。「最近知り合ったんだけど、意気投合しちゃって!いい奴だよ、昴は…哀もきっと、彼を気に入るさ」と昴の背中に目を向けて答えてから、立ち止まった。遙と手を握っていた当然灰原も立ち止まる。急に足を止めた遙に、灰原が怪訝そうな表情で「…遙?」と声をかけると同時に、するりと灰原の体に腕を回した遙は灰原の軽い体を抱き上げると、ぎゅううっとそれは力強く抱き締めたのだ。
「っちょ、ちょっと遙!?下ろしなさい!」
「やーだ!」
「バカね、いきなり何を…!」
灰原の声に、その場にいたみんなが何事だと振り返った。歩美の「あー!哀ちゃんいいなあ!遙お兄さんにだっこしてもらってる!」と羨ましげな声が、遙の耳に聞こえた。勿論、それは灰原にも聞こえているので、恥ずかしいのだろう、さっきの表情とは一変して、顔を真っ赤にしていてとてもかわいい。『あの子、照れた顔も可愛いわよね!』と明美が笑っているのが思い出された遙が、灰原を見つめて穏やかに微笑む。
「哀の照れた顔も、俺たち大好きなんだよなあ」
「え、…」
「よっし!博士の家まで競争だ!走れ走れー!」
目を丸めてきょとん、とした表情の灰原を片腕にしかと抱き直すと、遙は拳を掲げて走り出した。昴の手を去り際に掴んで、昴も一緒に走り出す。「俺が案内するよ、博士ん家!」と後ろを振り返って笑顔を向けた遙に、昴がふっと優しげに笑んでから「よろしく頼むよ、遙」と返すと、満足そうに頷いて前を向きなおした。「負けねえぞー!」「歩美もー!」「僕も負けませんよ!」と元気な声を上げて一斉に走り出す少年探偵団と、呆れたような表情をしたコナンが「しょうがねえな…」と少年探偵団に続いた。
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博士の家に一番に着いたのは、コナンだった。少し遅れて遙と灰原と昴、そして歩美と光彦。更に遅れてゴールしたのは、息切れして今にも倒れそうな元太だった。その元太に「博士に水もらおっか!」と遙は声をかけながら、博士の家の中に入った。
「おお、みんないらっしゃい!」
「あ、博士ー!あのね、歩美たち、博士に会いたいって人連れてきたの!」
この人だよ!と紹介する歩美の先に、昴が「突然すみません…」と断った後に、微笑んだ。
「私も工学部の博士号と取ろうと思いまして、大学院に通っているんです。あなたの話を子供たちから聞いて会いたいと思いまして…」
「ホォー…工学部の博士号を…」
うんうんと頷いた博士が、微笑みながら「行く行くはワシの商売敵になるわけじゃな?」と告げると昴が「いえいえ…好きでやり続けているだけですので…」と困ったように髪を軽く掻きながら答えて、部屋の中を見渡しながら「しかし…広いお住まいですねぇ…」と呟くように言うと「ああ…ワシとこの子の二人だけじゃ広すぎるかのォ…時折、遙が泊まるくらいじゃよ」と博士は自分の服を掴みながら冷や汗を浮かべている灰原をちらりと見た。
「じゃあ、住人がもう一人増えても…問題はなさそうですね…」
昴の言葉に、博士が「ん?」と首を傾げた。灰原が鬼気迫るような表情で昴を見つめている。数歩下がってから、ぎゅうっと博士の隣にいた遙の足に身を寄せる。遙が、そんな灰原の様子に困ったような表情をしてから、安心させるようにと灰原の柔らかい髪を撫でた。
「実は、住んでいたアパートが燃えてしまいまして…よろしければ新しい住所が決まるまでここに居させてもらえないでしょうか?もちろん暇な時は博士の研究の助手でも何でもやりますよ!」
はきはきとそう主張する昴に、気圧されるように博士が頷いて「あ、ああ…構わんよ…この子がよければじゃが…」と灰原に顔を向けるが、灰原は全力で顔を横に振った。全力で嫌らしい。その様子が不謹慎にも可愛くて、遙がふっと小さく笑った。
「じゃあ新一兄ちゃんの家使う?」
じっと様子を見守っていたコナンが、そう告げたので遙は灰原と同時にばっとコナンの方を向いた。コナンの正体を知っている者ならば、新一の家に行くのに心配はない。蘭や園子は別として。しかし、昴はコナンの事を知っているとはいえ、本当のことまでは知らない。彼が本当は、小学生ではなく、高校生探偵の工藤新一だということまでは、知らないのだ。鋭い昴のことだ、バレなくていいことまでバレるのではないか?と遙が心配している間にも、昴とコナンの話は続く。
「新一兄ちゃん?」
「うん!急にいなくなったお兄ちゃんだよ!ホラ、隣のあの家!ボク鍵預かってるから!」
「ホー…」
昴が、コナンの指の先…新一の家を見つめながら、そう呟いていると、水を飲んで落ち着いた元太や光彦、歩美たちが我慢できないというように「ちょっとー!」「何やってんだよ?」「早くお見舞いに行きましょう!」と告げたので「おう!今行く!」とコナンが返した。
「立派な洋館だけど、いいのかい?」
「うん!」
昴の言葉に快く返事をしたコナンに、灰原が「ちょっと…」と小さな声で声をかけて「何考えてるの?あなたは組織に殺されたことになってる工藤新一なのよ!?もしも家に来る手紙や電話であなたが生きている事があの人の口からバレたら…」と少しの不安を混ぜながらそう続けた。遙がそれは無いな、と苦笑していると「大丈夫だよ!」と断言してから「ホームズファンに悪い人はいないから!」ととても嬉しそうな表情で答えたので、灰原は目が点になった。それを見た遙がツボに入ったようで、肩を震わせながら笑った。
「はいこれ、家の鍵!」と鍵を差し出したコナンに、昴は受け取りつつも「本当にいいのかなぁ?その新一兄ちゃんに断らないで…」と尋ねれば、「うん!後でメールしとくから…それに、僕のワトソンは新一兄ちゃんの幼馴染でもあるんだ!新一兄ちゃんの家のことは、遙が詳しいから、何でも聞いてね!」と告げると「ホー…そうだったのかい?ありがとう、助かるよ!」と微笑んで答えたのに頷いたコナンが、「その代わり…」と昴に静かに微笑んだ。その表情は、何処か大人じみていていた。
「留守はしっかり守ってよ…」
遙がふふっと笑って、昴の隣に並んでコナンを見つめた後、昴を見た。「ああ…もちろん!」とコナンに力強く言葉を返した昴が遙を見て、穏やかに微笑んで「彼の家での世話を、これからよろしく頼むよ…」と告げて、遙の柔らかい髪に昴は指を絡めた。それに擽ったそうに目を細めた遙が、「勿論!」と嬉しそうに笑った。
灰原が、不機嫌そうな顔でそれを見ていたのには、遙は全く気付いていないのだった。