02

全ての授業が終わり、はるとはいつものように桃矢と雪兎と共に下校していた。教室から出る際に、何かを言いたげな谷元の姿が目に入ったが、桃矢が見るなというように引き摺るようにして下駄箱まで連れて行ったので、言葉を交わすことはなかった。はるとはしっかりと桃矢にお礼を告げることにした。

「桃矢…先程はありがとうございました」
「いや、いいぜ。…あー…はると、お前は本当にバイトに行くわけじゃねーけど、ついでに俺のバイト先まで一緒に来いよ」
「…え」
「うんうん、それはいいね!そうしなよ、はると!」
「え…ええ!?いやいや、私が一緒に行ってもお邪魔になるだけで…!」
「なんの邪魔になるんだよ」

桃矢がふっと笑むと、乱雑にはるとの柔らかい髪を撫でて、デコピンしてきたので、「うっ」と呻き声を上げて「地味に痛いですね…」とはるとはおでこを数回撫でた。桃矢が「来るだろ?」とにっと少し悪戯気に笑んで見つめる。拒否権がないことは、もう声音でわかるので、ふっと頬を緩ませたはるとが目を細めて「では、桃矢とバイト先までご一緒します」とふにゃり、と少し幼い表情を滲ませたので、それを間近で見ていた桃矢は思わず照れてしまい視線をずらし、雪兎は蕩けた笑みで「ほんとにかわいいね、はるとは」と優しく目元に指先を添えられて、一つ撫でられた。
はるとは訳が分からないというように首を傾げたが、「私に、かわいいは合わないと思うのですが…」と苦笑したのだった。

▽△

雪兎と別れ、桃矢のバイト先のお菓子屋まで着いて行くととても素敵なお店だったので、はるとはついでに買い物をして帰ることにした。甘い匂いのする店内の雰囲気に癒されていると、パティシエ衣装に身を包んだ桃矢が「美味そうなの、なんかあったか?」と背後か覗き込むようにはるとの手元を見てきたので、頷いた。

「ええ、とても素敵なお店ですね。小狼さまにもどれか買って行こうと思うのですが…小狼さまにどれを買って行こうか迷ってしまって…」
「あの小僧になんか買わなくていいだろ」
「いえ、そういう訳には……と、いうかですね、桃矢…」
「なんだ?」

はるとは桃矢の方を振り向いて、そしてふふっと笑った。可愛い花々がはるとの周りを包むようにひらひらと舞っているのが、桃矢の目に入る。――…その姿のなんと鮮やかなことだろうか。

「パティシエ衣装に身を包んだ桃矢も、とても素敵ですね」
「…っ!」

花舞う中で無邪気な笑顔でそう告げたはるとに、桃矢が思わず息を詰めて心臓を抑えた。高鳴りの音は決してはるとには聞こえることはないのに、何故かバレテしまいそうだと思ったのだ。桃矢のその行動に気付くことなく、桃矢の持っていたトレイに乗る色とりどりのお菓子を美味しそうに眺めていると、お店の扉の開く音がしたと同時に「お兄ちゃん!?」という驚いた少女の声が聞こえたのではるとは最近聞き覚えのあるこえだと思い振り向くと、そこには驚いた表情で桃矢と見ているさくらの姿があった。隣にはさくらの親友である知世の姿がある。「なにしてるの!?」と告げるさくらに「なにって、バイトに決まってるだろ」と当たり前のように返す桃矢にさくらは小さな声で「お兄ちゃんあちこちでバイトしてるのね」と呟いている横で知世が「昨日はお世話になりました」と頭を下げたので、桃矢の軽くお辞儀して返したのを見て、はるとは小さく笑みを浮かべた。
桃矢たちの様子を見ていると、さくらが「あのあの…!はるとさん!こんにちは!」と勢いよく挨拶してきた。その姿が愛らしくてはるとは小さく笑った後に「こんにちは、さくらちゃん。知世ちゃんも。今日もとてもかわいいですね」と目元を緩ませてにこっと微笑むとさくらは照れたように「そんなことないです…!」と焦ったように両手を振り、知世は手を頬に当てながらお淑やかに微笑んで「さくらちゃんは本当にいつもかわいいですわ」とうっとりとした。
さくらの知世の二人をかわいいなと見つめていると、さくらの友人である少女がお店に現れた。その内の一人に、この間“剣”のクロウカードで巻き込まれた少女である利佳の姿があった。さくらと話をする元気そうな利佳の姿に、はるとは誰にも気付かれることなく静かに微笑むと、はるとはまたお菓子を選ぶことに専念することにした。

しばらく悩みに悩み、小狼にスコーンとシフォンケーキを買うことに決めたはるとはそれを手に取り会計を済ませると女子高生くらいの二人組が目に入った。何か違和感を感じて見ていると、その一人の影が、勝手に動いた。目を見張るとその影はその二人の前にある棚を掴んだかと思うと思い切り前に引いたのだ。はるとが「危ない!」と叫んでその二人を守るように庇い、衝撃に備えようと身を固くしていたが、それはやってこなかった。そろそろと目を開けて上を振り向くと、そこにははると達を庇うように、桃矢が棚を抑えるようにして立っていた。「大丈夫か!?」と少し焦ったような表情をしたのではるとは「ええ…ありがとうございます、桃矢」とお礼を言うと、次に守るようにしていた二人の少女にも「大丈夫でしたか?お怪我は?」と心配そうな表情で問うと「大丈夫です…!ありがとうございます!」と答えて桃矢にもお礼を言って頭を下げた。「わたしさわってないのにー!」と不安そうな声でそう言っていた少女にはるとは思案げに先程の影を思い出していた。

―― 多分、さっきの気配は……『クロウ』だ。
はるとはふと顔を上げた。それと同時にお店の扉が開いた。さくらが「あっ」と声を上げた。はるととさくらの視線の先には、小狼の姿があった。

「……『クロウカード』だな」

呟くようなその言葉に、はるとだけが一つ頷いた。
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