03

「小狼…何も桃矢の顔見るなり帰らなくても…」
「うるさい」
「ったく…あっ、さくらちゃんじゃないか!?」

その日の夜、クロウカードを封印するべく向かっていたはるとと小狼は苦戦しているさくらたちを視界に捕えた。はるとの言葉に小狼が大きく跳躍し建物の頂上に足を下ろすと同時に「まだ手こずってるのか」と告げた。
それにケロベロスが毛並を逆立てたと同時に噛み付くような「『影』は攻撃カードでこそないけどクロウも扱いに困っとったくせ者なんや!」との言葉に小狼は少し考えたかと思うと複数の護符を飛ばしたが、それは全て見事に擦り抜けてしまった。はるとが花々や風の助けを借りて小狼の隣に並ぶと「物知らず!!『影』はわいらに触れるけど、わいらは『影』には触られへんのや!」と何とも可愛らしいケロベロスが怒鳴っていた。それに小狼も気に喰わないようで「誰が物知らずだ!!」と拳を握っていた。「まあまあ…二人とも落ち着いて…!」と、どうどうとはるとが二人を宥めていると「あぶない!」という知世の焦ったような声が聞こえ、振り向くと『影』がはるとに襲いかかろうとしていた。それに「花守!」と唱え花の障壁を作ったが、焦りが入ったからかすぐに崩れてしまう。「っ小狼さま!さくらちゃん…!」と手を一つ振り下ろし崩れ落ちる花々を二人を少しでも守るために舞わせたが、『影』はそれよりも早かった。小狼は大切な守るべき者だが、さくらははるとと友人となってくれた桃矢が一等大事にしている妹だ。傷つけさせる訳には…!と一歩足を踏み出したと同時に、小狼がさくらの前に守るようにして飛び出た。はるとが「しゃおらん…っ!」と叫ぶと同時にバチっという音と共に『影』が弾ける。小狼の右腕に怪我を追ったようで、式服の上にも血が滲んでいた。

「雷帝招来 急々如律令 ―― 雷撃!!」

剣を翳して雷撃を落とすと、『影』が霧散した。「そうか!影は光が当たったら消えてしまう!さすがクロウの一族!クロウカードのことちょっとは知っとるようやな!」とケロベロスが自分もわかったというように叫んだ。その後の「けど気に喰わん小僧や」と呟いていたのがはるとにはしっかり聞こえたので苦笑した。

「でも、あの方法では対処しきれないのでは!?」

カメラを回していた知世が、そう告げたのと同じくまたもや『影』が小狼とさくらを取り囲むように姿を現したのだ。「くそっ」と悔しげな声を漏らした小狼の後ろで、「ケロちゃん!どうすれば『影』をカードに戻せるの!?」とさくらが問いかけると「『影』本体を停止させることができればええんやけど…『影』はクロウカードの中でも一、二を争うくらい素早いやつなんや!『影』のカード以外の影は『影』に操られてるだけや!光を当てたら消える!しかしいっぺんに光を当てんとまた影が出来てしまう!」とケロベロスは答えながら冷や汗を浮かべた。知世が「今は夜ですわ…一度にそんなに大量の光を当てるなんて…」とカメラを回しながら困ったように言うと、さくらははっとしか表情をして前へと走り出した。
小狼が「おい!危ないぞ!」と言葉をかけるが、さくらはぐっと拳を握ると「大丈夫、うまくいけば影を消せるかも!」と気合が入った声を上げて一枚のカードを手に取った。はるとはさくらの表情を見て大丈夫かとも考えたが、気を付けておくに越したことはないと少し離れた先でケロベロスと知世を守るように舞わせていた花の中に少しでも強度を上げようと若葉を混ぜることにした。

「『クロウ』の作りしカードよ 我が『鍵』に力を貸せ
カードに宿りし魔力をこの『鍵』に移し我に力を!―― 『雷』!」

さくらの行動に小狼が「それじゃ俺がやったのと…!」と焦ったように叫んだが、バリバリと稲妻が走り、円を描くように立っていた街頭に散って行く。ケロベロスが「そうか!『雷』にはそういう使い方もある!」と嬉しそうな声で頷くと知世が「さすがですわー!」と頬を染めながら答えた。全てが『雷』で照らされ『影』がその姿を現すとさくらが『剣』のカードを呼び出し構えると、逃げようとする『影』の黒いマントの裾に突き刺した。

「おお!『剣』のカードが切るもんは使てる者の心次第!『剣』やったら『影』にも触れる!」

ケロベロスが「今日は冴えとるでさくら!!これで動きは止めたで!」とかわいい拳を掲げた。はるとも「さすがさくらちゃんですね」と微笑んで、ケロベロスと知世の周りに舞わせていた花や若葉を自分の方へ戻した。途端に花や若葉が嬉しげにはるとの頬や手の甲を愛しげに撫でるように触れるので、小さく笑みを浮かべて目を細めた。

―― 「汝のあるべき姿に戻れ! 『クロウカード』!」と告げると、『影』は封印されさくらの手に収まった。そしてすぐに走り出し可愛らしい洋服のポケットから優しい色のハンカチを取り出すと「かばってくれてありがとう」とさくらが怪我を追っていた小狼の腕に巻いた。

「あなたが雷を使ったから思いついたんだよ」

さくらは花綻ぶような愛らしい笑顔でそう小狼を見たが、小狼は少し照れた表情をして一瞬何かを考えていたがすっと勢いよく背筋を伸ばすと「俺はお前を認めた訳じゃないからな!」と背を向けると早足で去っていったので、さくらはその後ろ姿に「私頑張るもん!絶対カード全部集めるもん!」と必死に言葉をかけていたので、後を追おうとしていたはるとが、さくらの前に体を軽く組んで目線を合わせると「小狼さまが申し訳ありません…」と謝ると、次に安心するような笑みを見せた。

「さくらちゃん、小狼さまの腕にハンカチを巻いてくださってありがとうございます…またお礼をしなくてはなりませんね…そして、今日のさくらちゃんも見事でした。また学校でお会いしましょうね!」
「は…!はい!」

眩しい笑顔を見せてくれたさくらにはるとが嬉しそうに頷くと「それでは」と小狼の後を追いかけていった。甘い花の薫りが、サクラの鼻腔を優しく撫でて行く。見送るさくらの後ろに知世とともに飛んできたケロベロスの「不思議な兄ちゃんやなあ」と呟くような声音が聞こえてさくらが「はるとさんのこと?」と首を傾げた。ケロベロスがそれに頷いて返した。

「あの小僧とは全く魔力の質がちゃう。もっとこう優しくて、温かくてやなあ…そう、クロウに近いもん感じるんや…決してクロウとは違う魔力なのに…クロウに限りなく近い…いや、むしろ…花や葉…風も操るんやったな……自然の魔力ならあいつの方に、近いか…」
「えっ?ケロちゃん、途中から声が小さすぎて聞こえないよー!!」

さくらのその言葉にはっとしたケロベロスが首を振って「いや、これは重要なことでもなんでもないんや!まあともかく!ようやったで、さくら!」と明るい声を出してさくらを褒めたが、周りは『雷』のカードの稲妻で街頭が燃えている。さくらは急いで『水』のクロウカードを呼び出し火を消したが、辺りのは「なんだなんだ!?」「どうした!?「大変だー!」と騒ぎ始めていたのでさくらは慌てて知世を杖に乗せると謝りながらその場を後にしたのだった。

▽△

はるとの家に着くと、小狼は疲れたようにソファの上に倒れ込んだ。今日はそのままこの家に泊まるようだったので、正装から部屋着に着替えたはるとは静かに微笑むとお風呂のお湯を沸かして紅茶を淹れることにした。ポットのお湯を小狼専用のカップに淹れてソファ横のテーブルに置くと、消毒液と包帯を手に持ってソファ横に座った。さくらが巻いてくれたハンカチを優しい手つきで外して、式服を上にずらした。「沁みるからな」と断りを告げてから消毒液を湿らせたコットンで消毒すると小狼が「うっ…」と呻いた。数回それを繰り返して患部を清潔にした後に、慣れた手つきで包帯を巻いて行く。

「懐かしいな…香港にいた頃は、こうやってシギルのも巻いてやったよ」
「……ああ」
「……さくらちゃん、優しい子だな。明日ちゃんとお礼言っとくんだぞ?」

小狼ははるとのその言葉には何も返さなかった。どうやらまだ認めたくはないようだ。「お風呂もうすぐ溜まるから。それまで紅茶でも飲んでろよ…後、俺からお前へのバレンタイン置いとくからな」とぽんっと優しく小狼の少し日に荒れた、けれどまだ柔らかさ残る茶髪を撫でると、はるとは小狼のパジャマを用意するべくリビングを後にした。

「―― よく頑張ったな、小狼」

静かに閉じた扉の音を聞いた小狼が、耳を真っ赤に染めて照れていたのを、はるとは知るよしもなかった。
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