05
はるとが桃矢と雪兎とともに教室に戻ると、もう生徒は一人も残っていなかった。自分の席に戻りさくらに貰ったバレタインチョコを大切に鞄に入れてファスナーをして、手に取ろうとした所で、横の方に紺のラッピングに包まれたシックな小箱が置いてあったので、首を傾げて手を伸ばして小箱に触れた瞬間、ぞわっと嬲るような気持ちの悪さを感じてはるとは「うっ…ぁ…!」と引き攣り呻いた声を上げたので、驚いた桃矢がすぐにはるとの傍まで来ると、「どうした…!?」と眉を寄せて聞いてきたが、はるとはただ首を振るだけだった。本人にも、何が起こったのかまだ理解しきれていないのだ。じわじわと指先が焼けたような感覚がして、そっと見てみるが、何も変わりなかった。雪兎も不安そうな表情で「指先が、どうかしたの…?」と包み込むかのように、雪兎の白く雪のように美しいてのひらが優しくはるとの指先を覆う。雪兎の魔力が、本人の知らぬ間にだろう…労わる様に注がれている気がして、だんだんと落ち着いてきて何がどうなったのか理解出来た。闇のような気持ちだ…この小箱を置いて行った者に、魔力など一つもない。ただ、闇のような黒く重い想いが、酷く染みついている。そして、それが誰のなのかも…すぐに分かった。きっと、この小箱を置いていったのは―――
「谷元、だな」
「っ」
桃矢の声が、あまりにも苦渋を噛み締めたように聞こえて、思わず顔を桃矢に向けた。まるで仇のような瞳で、小箱をじっと睨んでいた。「…桃矢…あの、」とはるとが言葉を続けようとするよりも早く、桃矢が言葉を重ねた。「はると…谷元と話をつける。いいよな?」と許可を得ようとしている言葉なのに、その声音には一つも有無を言わせないような凄みがあった。はるとは何も言えなくなり、息を噛み締めるだけだ。変わりに答えたのは、雪兎だった。
「うん、僕も…その方がはるとのためにもいいと思うよ。桃矢」
ぽんぽんと、優しくはるとの頭を撫でながら安心させるように、雪兎は微笑んだ。―― こんなことで、すぐに竦んでしまう己の心の弱さだけは、一つも成長を見せない。はるとは泣き出してしまいたくなった。いつになれば、この心は強くなるのか。こんなことでは、小狼に何か大事があった時も助けることなど出来ない。自分は、小狼の守護者に選ばれているのに…!苦しい、苦しい…悔しいよ、シギル…!
「…はると、この小箱は俺が預かる。ホワイトデーも返さなくていいからな…」
「……とう、や…わたし、ほんと、うに…」
「無理すんな、そんな…今にも倒れそうな顔して…ったく、お前は…」
桃矢が、そう言って苦笑したかと思うとぐっとはるとの後頭部に腕を回し、自分の懐に埋めた。そして、大きな溜息を吐いた。「……こーいうのは、頼れ。抱え込むとかえってしんどいしな…俺がいるし、ゆきもいる」と桃矢が優しく甘やかすように、はるとにそう告げたので、はるとは少しだけ、ひっそりと泣いてしまった。しばらくして「…帰るか」と桃矢が言うので、「…はい」とはるとがぎこちなく頷くと。
そんな二人を優しげににこにこと見つめていた雪兎が「あ、そうだ…ぼくの家に寄っていってよ、二人とも!」ととっても名案だというように手を一度叩いたので、はるとと桃矢は二人して嬉しそうに笑って頷いたのだった。
―― 桃矢の制服のポケットに仕舞われたその小箱が、グシャリ、と音も無く…だが確かな意思をもって誰にも知られることなく、桃矢の手で潰されたのだった。
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「谷元、だな」
「っ」
桃矢の声が、あまりにも苦渋を噛み締めたように聞こえて、思わず顔を桃矢に向けた。まるで仇のような瞳で、小箱をじっと睨んでいた。「…桃矢…あの、」とはるとが言葉を続けようとするよりも早く、桃矢が言葉を重ねた。「はると…谷元と話をつける。いいよな?」と許可を得ようとしている言葉なのに、その声音には一つも有無を言わせないような凄みがあった。はるとは何も言えなくなり、息を噛み締めるだけだ。変わりに答えたのは、雪兎だった。
「うん、僕も…その方がはるとのためにもいいと思うよ。桃矢」
ぽんぽんと、優しくはるとの頭を撫でながら安心させるように、雪兎は微笑んだ。―― こんなことで、すぐに竦んでしまう己の心の弱さだけは、一つも成長を見せない。はるとは泣き出してしまいたくなった。いつになれば、この心は強くなるのか。こんなことでは、小狼に何か大事があった時も助けることなど出来ない。自分は、小狼の守護者に選ばれているのに…!苦しい、苦しい…悔しいよ、シギル…!
「…はると、この小箱は俺が預かる。ホワイトデーも返さなくていいからな…」
「……とう、や…わたし、ほんと、うに…」
「無理すんな、そんな…今にも倒れそうな顔して…ったく、お前は…」
桃矢が、そう言って苦笑したかと思うとぐっとはるとの後頭部に腕を回し、自分の懐に埋めた。そして、大きな溜息を吐いた。「……こーいうのは、頼れ。抱え込むとかえってしんどいしな…俺がいるし、ゆきもいる」と桃矢が優しく甘やかすように、はるとにそう告げたので、はるとは少しだけ、ひっそりと泣いてしまった。しばらくして「…帰るか」と桃矢が言うので、「…はい」とはるとがぎこちなく頷くと。
そんな二人を優しげににこにこと見つめていた雪兎が「あ、そうだ…ぼくの家に寄っていってよ、二人とも!」ととっても名案だというように手を一度叩いたので、はるとと桃矢は二人して嬉しそうに笑って頷いたのだった。
―― 桃矢の制服のポケットに仕舞われたその小箱が、グシャリ、と音も無く…だが確かな意思をもって誰にも知られることなく、桃矢の手で潰されたのだった。