02
「春風が心地いいな…」
体操服に身を包んだはるとはすうっと息を吸って吐くと、風がその言葉に喜びを表すかのようにはるとの頬や髪の毛を照れたように撫でてきたので、少し擽ったかった。そういや小狼も同じ時間が体育だって言ってたな…と思っていると、「おい、並ぶぞ」と桃矢が腕を優しく引いたので、振り返ったはるとは頷いて桃矢と雪兎の隣に身を寄せた。
教師の掛け声で走り出すと、小狼とさくらの姿が目に入った。どうやらバトミントンの授業らしな…とはるとが眺めていると、雪兎も気付いたらしく、立ち止まって「おーい!」と大きく手を振ったので、はるとも一緒に止まった。「二人とも頑張れー!」と応援の言葉をかけると小狼とさくらの瞳に炎が籠ったのがここからでもわかった。雪兎が走り出したのではるともその後に続いた。桃矢も待っていてくれたらしかった。はるとは先程のさくらと小狼の様子を見ながら「雪兎は罪作りだな…」と内心苦笑を溢したのだった。
ふと、自分たちの少し前を走る谷元の姿が目に入った。…クラスメイトの男子と親しげに話す姿に、変わった様子は一つも見られない。―― 桃矢は何か話をしたのだろうか…?はるとは桃矢のあの時の重く苦しげな表情と言葉を思い出すと、中々桃矢に谷元の話を出すことが憚られたので、進展があったかどうかも聞けず仕舞いのままだった。
走り終えてゆっくりと歩いて息を整えながら、ふ、と視線を下に向けて瞳を翳らせたはるとを心配したのだろう、風がはるとの所にだけ吹いたかと思うと、桜の花びらを運んできた。励ましてくれたのがわかって、「ありがとう…ごめん」とはるとは吐息を溢すことでお礼を返すことにした。
▽△
桃矢のクラブと雪兎のクラブを半分ずつ時間を決めて見学し、家に帰り着いたはるとは、家に小狼を呼んで、自分の母親を交え、香港での思い出や幼い頃の小狼がいかに可愛かったかの話をして花を咲かせた。特に幼少時の小狼の話では終始顔を真っ赤にして恥ずかしそうに口を横一文字にしている小狼が可愛くてはるとは大笑いした。ご飯も食べてはるとの部屋で2人、時間を過ごしているとクロウ・カード気配を感じて小狼と目を合わせたのを合図に部屋の窓を開けて飛び出した。
「この林の中だ…」
「小狼、気をつけろよ」
林の木々を足場に気配を追っていると、下の方に人影が見えた。見て見れば蹲るさくらの姿だったので、小狼が「なんだ、またおまえか」と声をかければ「なにしにきたんや!」とケロベロスが噛み付いてきた。はるとはかわいいな…と「『クロウ・カード』の気配がしたから追ってきたんだ!」と不機嫌そうに目を吊り上げる小狼とともに地面に着地して、さくらに声をかけようとすれば、さくらは、泣いていた。
「ど…どうしたんだ!?」
「さっさくらちゃん…!?どうしたんですか…!どこか怪我を…!?」
流石の小狼も驚いたようで、動揺しているとさくらが急に「それ!」と小狼の羅針盤に視線を向けた。「それ『クロウ・カード』を探すためのものなんだよね!!」と小狼に涙を溢れさせながら迫ってきたので「あ、ああ…」と頷いた小狼にさくらが腕を掴むと「お願い!それでお兄ちゃん見つけて!」と願うように告げたので、はるとは驚いた。
「っさくらちゃん…!桃矢に何かあったんですか…!?」
「クロウ・カードが教えてくれたんです…!カード占いで、今迫ってる危険を教えてくれるカードが『花』で…!それが、お兄ちゃんなんだって…!」
「っ小狼さま…!」
「分かってる!」
涙を流すさくらを労わるようにそっと肩に手を置いたはるとが、懇願するように小狼を見れば、既に羅針盤を使って探し出していた。光がふっと現れるとずっと先の方まで指示している。早く桃矢の元へと行けるように、さくらのリュックを小狼に背負わせると「はよ走らんかい!」とケルベロスが叱咤したので「そっちは飛んでるだろう!それになんで俺がリュックを背負わなきゃならないんだ!」と小狼が文句を言ったので「緊急事態やからや!……『翔』のカードは木が多すぎて使われへんのや!きりきり走れ!」とケロベロスが前を走るさくらを確認しながら答えた。「小狼さま…立派な男性になるためにも、女性のリュックくらい文句言わずに持つようにした方がいいですよ」とはるとが不安そうな表情を浮かべつつも小狼にとっては耳にタコが出来そうな程聞いた小言に溜息を吐いたのだった。
走り続けると羅針盤が崖の辺りで直角に曲がったので、そのまま勢いを落とすことなくさくらが『封印解除!―― 翔!』と叫び小狼を乗せて下に降りた。はるとも木々の力を借りて下に降りれば、ぐったりとした桃矢の姿が目に入り「……っとうや…!」と飛び走った。「お兄ちゃん…!」「大丈夫、息してるで!」と不安そうなさくらをケルベロスが安心させるようにすぐそう答えた。「気を失ってるだけだ」と小狼も頷いたので、はるとは目尻に擦り傷を負っている傍を親指で安堵するように撫でて「桃矢…良かった…っ」とコツン、と桃矢の額と自分の額を合わせた。
「お兄ちゃんに怪我させたな!」と杖を取り『風』のカードを使うが、さくらに瓜二つのクロウ・カードを擦り抜けてしまい全く効いていなかった。「『風』の魔法が効かない!?」と驚愕する小狼に被さって「さくら!攻撃カード使うてみ!」とケロベロスがアドバイスをしてさくらが『水』のクロウ・カードを使うが、それも先程同様擦り抜けてしまう。
「やっぱり!呪縛カードも攻撃カードも効かんっちゅうことはこいつは特殊カードや!」
「普通の方法じゃ元に戻せないカードだな!」
「どうやったらカードに戻せるの!?」
「こいつの正体が何か当てるんや!特殊カードは名前を呼ばれたら力を失ってカードに戻る!」
ケルベロスの言葉にさくらがクロウ・カードの元に寄って行く。小狼が「ばか!うかつに近付くな!」と咄嗟に告げれば「ばかとはなんやばかとは!?わいは関西長いさかい、ばか言われたら腹立つんや!」「なんだとー!?」と喧嘩を始めたので、はるとは桃矢を癒す様に花々に魔力を通しながら「緊張感ないんですから…」と困ったように「ね、桃矢…」と桃矢の案外にも柔らかい黒髪を梳くように撫でた。
さくらと瓜二つのクロウ・カードはさくらと対峙すると「あなたがあの人の妹ね」と悲しそうな表情で告げた。「そうよ!お兄ちゃんに酷いことして…!!」と答えるとクロウ・カードはふと目を閉じた。それに目を丸くして一瞬止まるさくらに「さくら!そいつがなんのカードか考えるんや!占いが示してたカードは『幻』『水』『影』から連想されるもんや!」とケロベロスがさくらに考えを促す様に言うが、さくらは焦ってしまう。はるとが二人の様子を見ているとクロウ・カードがさくらと同じポーズを取ったので、はっとした。「まさか…」と一人呟くと、さくらも気付いたようだった。
「同じような動きをする『影』、いろんなものを映す『水』、でも本物じゃない『幻』……―― あなたは!鏡のカードね!!」
―― 突如、さくらの言葉と共にさらさらと音を立てて愛らしい少女が露になった。宝石のような美しい玉の涙を溢しながら桃矢の擦り傷に口付けを落としたその『鏡』は「ごめんなさい…」と酷く切なげに謝るとさくらの方を向いた。
「汝のあるべき姿に戻れ!クロウ・カード!!」
カードに戻った『鏡』をしっかりと手に取ると、さくらは「お兄ちゃん…!」と桃矢の元に戻った。「ようわかったな!あいつが鏡やって」と言うケロベロスに「わたしの真似して動いてたから……でも、私がわかる様にわざと動いてくれたみたいだった」と眉を下げて答えた。「それにお兄ちゃんに「ごめんなさい」って言ってた」とはるとの花々に優しく囲まれている桃矢にそっとさくらは泣きそうな表情で抱き着いたのだった。
「なんや反省してたみたいやったな」とケロベロスが安心したようにほっと息を吐いた。
▽△
病院に行き、家に戻った桃矢の世話をはるとは手伝うことにした。「はると…心配かけだんだろ?悪い」と微笑みながら優しく頭を撫でてきたので「…とても心配しました。本当に良かった、桃矢…」と眉を下げながら頭を撫でていた桃矢も手を取ると握り締め、怪我をしていない方の桃矢の頬に触れた。感じる体温は温かい。森の中では冷え切っていたので、はるとは安堵の溜息をついた。桃矢は「すぐ治る、もう心配すんな」と薄く笑みを浮かべて目を細めたのではるとがそれに頷いて答えると、さくらがパンケーキを作って桃矢の元に持って来た。渡されたパンケーキを食べながら「下に降りて食えるのに」と言う桃矢に「足怪我したんだから歩いちゃだめだよ!」とさくらが困った表情をした。ちなみにケロベロスはさくらのフードの中でぬいぐるみのふりをしていた。そんなケロベロスに気付いた桃矢が、じっと見つめて「なあ、そいつ…」と言うのでさくらやケロベロス、はるとは、までもが酷く焦ってしまった。さくらは突然のことに動揺して少し吃りながら「え?あ、えっと…これ!?」とケロベロスを指さしながら「えへへ…一人でお料理するの寂しいからぬいぐるみつれてたのーかわいいでしょ」と笑うさくらの必死な様子に、はるとも「とってもかわいいぬいぐるみですね、さくらちゃん!」と一緒に笑ったが、桃矢はまだじっとぬいぐるみから視線を外さない。そこに家のインターホンの音がなったのでさくらが「あっ」と玄関へと足を向けた。桃矢の部屋を出る途中でさくらは振り返ると「ごめんね」と謝ったので、桃矢は「何が?」と首を傾げるが「なんでもいいの。ごめんね」と安心したように小さく微笑むと部屋を後にした。桃矢は困ったように「なんか入ってんのかこのホットケーキ」と呟いた。
はるとには、何故さくらが謝ったのか分かったので「…さくらちゃんは兄思いのとても素敵な女の子ですね」とにこにこと微笑むと、桃矢は「そうかぁ?」と少し照れたようにしてフォークに刺していたパンケーキをはるとの口元へと持って来たので、ありがたくいただくことにした。
しばらくすると、雪兎が姿を見せた。「崖から落っこちるなんてとーやらしくないね。動けなくて退屈かと思って小説持って来たよ」と優しげ言う雪兎に「いろいろな」と桃矢は頬を指で掻いた。
「あの林、よく桃矢が『見える』って言ってたとこだよね。これはその『見える』ものに付き合った結果かな」
包帯を巻いて固定されている厳重な足に手を添えた雪兎が、穏やかな表情で桃矢に問うと「…目が覚めたらいなかったんだ。気がすんだかな」と先程のことを思い出すように答えたのではるとは「ええ、きっと」と嬉しそうに微笑むと雪兎も「きっとそうだよ」と頷き、「やさしいね、桃矢」と透き通るように美しい笑みを浮かべたので照れたのか先程はるとにしたようにパンケーキをフォークに刺して雪兎にも食べさせた。「おいしーねーさくらちゃんのお手製?」とそのまま桃矢のから差し出されるパンケーキをパクパクと食べ続ける雪兎が聞いてみたが「黙って食え」と照れ続ける桃矢が言うのではるとは可愛くなって笑ってしまったのだった。
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体操服に身を包んだはるとはすうっと息を吸って吐くと、風がその言葉に喜びを表すかのようにはるとの頬や髪の毛を照れたように撫でてきたので、少し擽ったかった。そういや小狼も同じ時間が体育だって言ってたな…と思っていると、「おい、並ぶぞ」と桃矢が腕を優しく引いたので、振り返ったはるとは頷いて桃矢と雪兎の隣に身を寄せた。
教師の掛け声で走り出すと、小狼とさくらの姿が目に入った。どうやらバトミントンの授業らしな…とはるとが眺めていると、雪兎も気付いたらしく、立ち止まって「おーい!」と大きく手を振ったので、はるとも一緒に止まった。「二人とも頑張れー!」と応援の言葉をかけると小狼とさくらの瞳に炎が籠ったのがここからでもわかった。雪兎が走り出したのではるともその後に続いた。桃矢も待っていてくれたらしかった。はるとは先程のさくらと小狼の様子を見ながら「雪兎は罪作りだな…」と内心苦笑を溢したのだった。
ふと、自分たちの少し前を走る谷元の姿が目に入った。…クラスメイトの男子と親しげに話す姿に、変わった様子は一つも見られない。―― 桃矢は何か話をしたのだろうか…?はるとは桃矢のあの時の重く苦しげな表情と言葉を思い出すと、中々桃矢に谷元の話を出すことが憚られたので、進展があったかどうかも聞けず仕舞いのままだった。
走り終えてゆっくりと歩いて息を整えながら、ふ、と視線を下に向けて瞳を翳らせたはるとを心配したのだろう、風がはるとの所にだけ吹いたかと思うと、桜の花びらを運んできた。励ましてくれたのがわかって、「ありがとう…ごめん」とはるとは吐息を溢すことでお礼を返すことにした。
▽△
桃矢のクラブと雪兎のクラブを半分ずつ時間を決めて見学し、家に帰り着いたはるとは、家に小狼を呼んで、自分の母親を交え、香港での思い出や幼い頃の小狼がいかに可愛かったかの話をして花を咲かせた。特に幼少時の小狼の話では終始顔を真っ赤にして恥ずかしそうに口を横一文字にしている小狼が可愛くてはるとは大笑いした。ご飯も食べてはるとの部屋で2人、時間を過ごしているとクロウ・カード気配を感じて小狼と目を合わせたのを合図に部屋の窓を開けて飛び出した。
「この林の中だ…」
「小狼、気をつけろよ」
林の木々を足場に気配を追っていると、下の方に人影が見えた。見て見れば蹲るさくらの姿だったので、小狼が「なんだ、またおまえか」と声をかければ「なにしにきたんや!」とケロベロスが噛み付いてきた。はるとはかわいいな…と「『クロウ・カード』の気配がしたから追ってきたんだ!」と不機嫌そうに目を吊り上げる小狼とともに地面に着地して、さくらに声をかけようとすれば、さくらは、泣いていた。
「ど…どうしたんだ!?」
「さっさくらちゃん…!?どうしたんですか…!どこか怪我を…!?」
流石の小狼も驚いたようで、動揺しているとさくらが急に「それ!」と小狼の羅針盤に視線を向けた。「それ『クロウ・カード』を探すためのものなんだよね!!」と小狼に涙を溢れさせながら迫ってきたので「あ、ああ…」と頷いた小狼にさくらが腕を掴むと「お願い!それでお兄ちゃん見つけて!」と願うように告げたので、はるとは驚いた。
「っさくらちゃん…!桃矢に何かあったんですか…!?」
「クロウ・カードが教えてくれたんです…!カード占いで、今迫ってる危険を教えてくれるカードが『花』で…!それが、お兄ちゃんなんだって…!」
「っ小狼さま…!」
「分かってる!」
涙を流すさくらを労わるようにそっと肩に手を置いたはるとが、懇願するように小狼を見れば、既に羅針盤を使って探し出していた。光がふっと現れるとずっと先の方まで指示している。早く桃矢の元へと行けるように、さくらのリュックを小狼に背負わせると「はよ走らんかい!」とケルベロスが叱咤したので「そっちは飛んでるだろう!それになんで俺がリュックを背負わなきゃならないんだ!」と小狼が文句を言ったので「緊急事態やからや!……『翔』のカードは木が多すぎて使われへんのや!きりきり走れ!」とケロベロスが前を走るさくらを確認しながら答えた。「小狼さま…立派な男性になるためにも、女性のリュックくらい文句言わずに持つようにした方がいいですよ」とはるとが不安そうな表情を浮かべつつも小狼にとっては耳にタコが出来そうな程聞いた小言に溜息を吐いたのだった。
走り続けると羅針盤が崖の辺りで直角に曲がったので、そのまま勢いを落とすことなくさくらが『封印解除!―― 翔!』と叫び小狼を乗せて下に降りた。はるとも木々の力を借りて下に降りれば、ぐったりとした桃矢の姿が目に入り「……っとうや…!」と飛び走った。「お兄ちゃん…!」「大丈夫、息してるで!」と不安そうなさくらをケルベロスが安心させるようにすぐそう答えた。「気を失ってるだけだ」と小狼も頷いたので、はるとは目尻に擦り傷を負っている傍を親指で安堵するように撫でて「桃矢…良かった…っ」とコツン、と桃矢の額と自分の額を合わせた。
「お兄ちゃんに怪我させたな!」と杖を取り『風』のカードを使うが、さくらに瓜二つのクロウ・カードを擦り抜けてしまい全く効いていなかった。「『風』の魔法が効かない!?」と驚愕する小狼に被さって「さくら!攻撃カード使うてみ!」とケロベロスがアドバイスをしてさくらが『水』のクロウ・カードを使うが、それも先程同様擦り抜けてしまう。
「やっぱり!呪縛カードも攻撃カードも効かんっちゅうことはこいつは特殊カードや!」
「普通の方法じゃ元に戻せないカードだな!」
「どうやったらカードに戻せるの!?」
「こいつの正体が何か当てるんや!特殊カードは名前を呼ばれたら力を失ってカードに戻る!」
ケルベロスの言葉にさくらがクロウ・カードの元に寄って行く。小狼が「ばか!うかつに近付くな!」と咄嗟に告げれば「ばかとはなんやばかとは!?わいは関西長いさかい、ばか言われたら腹立つんや!」「なんだとー!?」と喧嘩を始めたので、はるとは桃矢を癒す様に花々に魔力を通しながら「緊張感ないんですから…」と困ったように「ね、桃矢…」と桃矢の案外にも柔らかい黒髪を梳くように撫でた。
さくらと瓜二つのクロウ・カードはさくらと対峙すると「あなたがあの人の妹ね」と悲しそうな表情で告げた。「そうよ!お兄ちゃんに酷いことして…!!」と答えるとクロウ・カードはふと目を閉じた。それに目を丸くして一瞬止まるさくらに「さくら!そいつがなんのカードか考えるんや!占いが示してたカードは『幻』『水』『影』から連想されるもんや!」とケロベロスがさくらに考えを促す様に言うが、さくらは焦ってしまう。はるとが二人の様子を見ているとクロウ・カードがさくらと同じポーズを取ったので、はっとした。「まさか…」と一人呟くと、さくらも気付いたようだった。
「同じような動きをする『影』、いろんなものを映す『水』、でも本物じゃない『幻』……―― あなたは!鏡のカードね!!」
―― 突如、さくらの言葉と共にさらさらと音を立てて愛らしい少女が露になった。宝石のような美しい玉の涙を溢しながら桃矢の擦り傷に口付けを落としたその『鏡』は「ごめんなさい…」と酷く切なげに謝るとさくらの方を向いた。
「汝のあるべき姿に戻れ!クロウ・カード!!」
カードに戻った『鏡』をしっかりと手に取ると、さくらは「お兄ちゃん…!」と桃矢の元に戻った。「ようわかったな!あいつが鏡やって」と言うケロベロスに「わたしの真似して動いてたから……でも、私がわかる様にわざと動いてくれたみたいだった」と眉を下げて答えた。「それにお兄ちゃんに「ごめんなさい」って言ってた」とはるとの花々に優しく囲まれている桃矢にそっとさくらは泣きそうな表情で抱き着いたのだった。
「なんや反省してたみたいやったな」とケロベロスが安心したようにほっと息を吐いた。
▽△
病院に行き、家に戻った桃矢の世話をはるとは手伝うことにした。「はると…心配かけだんだろ?悪い」と微笑みながら優しく頭を撫でてきたので「…とても心配しました。本当に良かった、桃矢…」と眉を下げながら頭を撫でていた桃矢も手を取ると握り締め、怪我をしていない方の桃矢の頬に触れた。感じる体温は温かい。森の中では冷え切っていたので、はるとは安堵の溜息をついた。桃矢は「すぐ治る、もう心配すんな」と薄く笑みを浮かべて目を細めたのではるとがそれに頷いて答えると、さくらがパンケーキを作って桃矢の元に持って来た。渡されたパンケーキを食べながら「下に降りて食えるのに」と言う桃矢に「足怪我したんだから歩いちゃだめだよ!」とさくらが困った表情をした。ちなみにケロベロスはさくらのフードの中でぬいぐるみのふりをしていた。そんなケロベロスに気付いた桃矢が、じっと見つめて「なあ、そいつ…」と言うのでさくらやケロベロス、はるとは、までもが酷く焦ってしまった。さくらは突然のことに動揺して少し吃りながら「え?あ、えっと…これ!?」とケロベロスを指さしながら「えへへ…一人でお料理するの寂しいからぬいぐるみつれてたのーかわいいでしょ」と笑うさくらの必死な様子に、はるとも「とってもかわいいぬいぐるみですね、さくらちゃん!」と一緒に笑ったが、桃矢はまだじっとぬいぐるみから視線を外さない。そこに家のインターホンの音がなったのでさくらが「あっ」と玄関へと足を向けた。桃矢の部屋を出る途中でさくらは振り返ると「ごめんね」と謝ったので、桃矢は「何が?」と首を傾げるが「なんでもいいの。ごめんね」と安心したように小さく微笑むと部屋を後にした。桃矢は困ったように「なんか入ってんのかこのホットケーキ」と呟いた。
はるとには、何故さくらが謝ったのか分かったので「…さくらちゃんは兄思いのとても素敵な女の子ですね」とにこにこと微笑むと、桃矢は「そうかぁ?」と少し照れたようにしてフォークに刺していたパンケーキをはるとの口元へと持って来たので、ありがたくいただくことにした。
しばらくすると、雪兎が姿を見せた。「崖から落っこちるなんてとーやらしくないね。動けなくて退屈かと思って小説持って来たよ」と優しげ言う雪兎に「いろいろな」と桃矢は頬を指で掻いた。
「あの林、よく桃矢が『見える』って言ってたとこだよね。これはその『見える』ものに付き合った結果かな」
包帯を巻いて固定されている厳重な足に手を添えた雪兎が、穏やかな表情で桃矢に問うと「…目が覚めたらいなかったんだ。気がすんだかな」と先程のことを思い出すように答えたのではるとは「ええ、きっと」と嬉しそうに微笑むと雪兎も「きっとそうだよ」と頷き、「やさしいね、桃矢」と透き通るように美しい笑みを浮かべたので照れたのか先程はるとにしたようにパンケーキをフォークに刺して雪兎にも食べさせた。「おいしーねーさくらちゃんのお手製?」とそのまま桃矢のから差し出されるパンケーキをパクパクと食べ続ける雪兎が聞いてみたが「黙って食え」と照れ続ける桃矢が言うのではるとは可愛くなって笑ってしまったのだった。