03

「初めまして、沢咲はるとです。今日からよろしくお願いします」

12月になりはるとは星條高校に編入した。新しいクラスメイトに珍しげな目線を向けられる中に、ふと魔力を感じる。何にも染まらない、とても強い魔力と、酷くあたたかい魔力の二種類を感じて、すっと視線を巡らせると、無表情でこちらを眺める黒髪の青年と、穏やかそうな表情を浮かべている透き通るように美しい銀色の髪の青年が目に入った。はるとはその青年に一瞬目を奪われた。何故か、とても安心するような気が伝わってきたのだ。そう、はるとが好んで使う自然の魔力が。

担任教師に進められて、用意された席に座った。窓際の日の光が入るその席は、窓が開いており、外には数本の木々が植えられていた。はるとが席に座ると同時に、風は吹いていないのに、その木々たちが揺らめいた。それに笑んで、ゆっくりと一つ頷けば、それに答えるようにさらに木々が揺れた。その木々の様子を、不思議そうにはるとの後ろに座る男子生徒が首を傾げていた。

休み時間の度に色々とクラスメイトに話しかけられるはるとは、それに答えられる範囲で丁寧に一つ一つ答えていた。教室の外には、先程の二人の魔力が強く感じられた。はるとは、二人のことが気になったので、クラスメイトの一人に「…あの、そういえば銀髪の髪色の生徒と、その人と一緒にいる黒髪の生徒の名前はなんていうか教えてくれませんか?」と尋ねると、「ああ、木之本桃矢と月城雪兎だよ」とすぐに答えてくれた。

「二人とも、学校で女子に人気あんだ。少しでもそのイケメンを分けて欲しいもんだぜ…」
「君はかっこいいですよ。気にすることはないと思います」

恨めしそうにそう言った男子生徒にふふっと短く笑って、はるとがそう言うと、その男子生徒は嬉しそうに「ありがとうな!」と答えたのと同時に鳴ったチャイムにじゃあなと声をかけたので、それに柔らかく微笑んで頷いた。
はるとは、教室に入ってくる、桃矢と雪兎の二人を横目に見たが、すぐに逸らして、授業の準備を始めた。

▽△

授業終了チャイムの音に、嬉しそうな声をあげるクラスメイトたちを見ながら、はるとも小狼に会いに行こうと席を立って歩き出そうとしたが、先程気になっていた二人の名前を聞いた男子生徒が「一緒に昼飯食べねえ?」と言われたが、はるとは首を左右に振って「申し訳ないのだけど…先約があるんです」と告げた。それに少し残念そうにしながら、教室を出て行く男子生徒を見送ると、はるとも小狼に会いに行くべく、教室を出た。…もう、あの二人は教室にはいなかった。

―― ――

「桃矢、編入生の子、すっごく優しそうな子だったね!」
「あー…ああ…でも、あいつ…」
「? どうしたの?」
「いや…」

桃矢は、先程の編入生がただの人間ではないことがわかっていた。けれど、別に雪兎やさくらに害があるわけでもなさそうだったので、まだ判断がうまくつかなかった。売店に行くという雪兎の後ろ姿を見送り、中庭に向かおうと運動場を見ていると、茶髪の少年に腕を掴まれ一生懸命抵抗している大事な妹の姿が目に映った。桃矢は「あのガキ…!」と眉を寄せながら、妹を助けようと走り出した。

―― ――

「どうしよう…迷っちまった…」

校舎内のこと、誰かに聞いとけばよかった…!とはるとが溜息を吐いていると、はっとクロウの気配を感じた。閉まっていた廊下の窓を開けて、外を眺めて力の源を視ていると、友枝小学校の方で感じた。はるとは小狼に何かあったのではと急いで走り出したのだった。

はるとが小狼の姿を見つけると、クロウカードの持ち主の少女に手荒くしているのが見えた。焦って「小狼!何をしてんだ…!」と叫びたくなるような声を出したと同時に、目に入ってきたのは、気になっていた内の一人である桃矢が、フェンスを越えて「てめーうちの妹に何してやがる!」と怒りを露にした姿だった。今にも一戦交えそうな雰囲気の二人に、はるとは堪らず叫んだ。

「っ小狼さま!!あなたは何をしてらっしゃるんですか!」
「っ…はると!」
「……お前は…」

しまったというような表情をしている小狼に、フェンスを駆けあがって飛び降りたはるとは桃矢を守るように立った。息を切らしながら「……小狼さま…女の子には優しくするように…香港でも口酸っぱく言いましたよね…!?」と詰め寄れば、小狼がうっと喉を詰まらせたように言葉を無くした。こういう時のはるとは、小狼にとても厳しかった。転校してきて会ったばかりの少年に強く腕を掴まれて、少女は酷く怖い思いをしただろうと、後ろを振り返ると、じっとはるとを見つめる桃矢と目が合う。

「……同じクラスでしたよね。名前は木之本桃矢くんだとクラスの方にお聞きしました…先程は、私の主が申し訳ないことを致しまして…本当にすみません」

深く頭を下げたはるとは、そうしてしっかりと桃矢の瞳を見つめた。
桃矢は、突如現れたはるとの姿に呆気に取られていたが、状況を把握したのか、構えていた拳を下げた。そして、桃矢もじっと見つめ返す。不思議な編入生だと思った。普通に見えるのに、全く普通ではない少年。でも何故だろうか、何故か、目を惹くと桃矢は思った。

「その子はあなたの妹さんなのでしょう?」
「……ああ」
「謝りたいのですが、よろしいですか?」

じいっと難しい表情ではるとを見つめていたが、やがて大きな溜息をつくと、頷いてくれた。それに目礼して黒髪の緩いウェーブがかかった少女の傍で座り込んでいるままの少女の前に膝をついた。嗚呼、とても可愛らしい少女だ。はるとは目を細めて口を開いた。

「我が主が、大変申し訳ないことを致しました。お怪我はありませんか?」
「はっ、はい!大丈夫です!あの、っ私…元気だけはとってもあるんです!だから…!」

一生懸命大丈夫だと心配させないようにだろう、言葉を重ねる少女の姿がとても癒されるようで、はるとは花が舞うような少女に静かに微笑むと、それでも、と頭を下げた。

「それでも、小狼さまがあなたにしたことは女性に対することではありません。こんなに可愛らしい女の子に、本当に申し訳ないことを…何か、お詫びするものがあれば…」
「あのあの!本当にいいんです…!気にしないでください…!あの、それより…あなたのお名前教えてくださいっ!!」
「えっ?」

顔を真っ赤にしてそう言った少女に、はるとは目を丸くしてしまう。そんな二人の姿を静かに眺めていた桃矢は、くしゃっとはるとの柔らかい少し長めの黒髪を優しく撫でて、「教えてやってくれ」と小さく微笑んだ。桃矢が警戒していたようにも見えていたので、その行動にもさらに目を丸くしたはるとは、気が付けば「沢咲はるとです…」と呟いていた。

「はるとさんっていうんですか!私、木之本桜です!…あの、もう一つ聞きたいことがあるんですけど…」

はるとは、優しげな笑みを浮かべて「はい」と返事をすると、「っ李くんとはどういうご関係なんですか!?」と聞かれた。それにきょとんとして、一度小狼の方を見ると、腕組みをして不機嫌そうに立ってそっぽを向いていた。それからまたさくらの方を見る。じっと言葉を待っている姿はなんと可愛いことか。それにふふっと笑ったはるとは「守るべき主です。それ以上は、まだ今は言えないので…でも、すぐ知ることが出来るでしょう」

いたずらげにそう言って、人差し指を唇に置くはるとが、とても美しく見えて、桃矢は目を見張った。日の光が、雪兎と同じくらい白い肌を照らして、溶けてしまいそうなくらい儚くも映り、手を伸ばそうとした瞬間、背後から殺気に似たものを感じて、桃矢が振り向きながらさっと構えると、小狼が足を蹴り上げているのが目に入ったので顔を腕で守るように持っていき防ぐと、小狼は数回宙を舞ってから地面に着地した。

「お前…はるとに触るな!」
「っ小狼さま!」

桃矢をきつく睨みながら、小狼がまた構えると、桃矢も「てめえ…」と呟いて険しい表情をして拳を握る。そんな二人の様子に、眉を寄せて止めようと立ち上がれば、ふっとあたたかい気配がした。それに「あ…」とはるとがフェンスの方を見れば、「ぶたまんあったよーっ」と大きく手を振りながら走ってくる、雪兎の姿が見えた。フェンスを駆けあがり、軽やかに降り立った雪兎の姿に、その場にいた全員が呆然としたまま動かない。雪兎はそれに気が付いておらず、紙袋の中に手を入れて、「あのね、ぶたまんあったよ。あとピザまんとカレーまんと…」と言いながら、顔を上げて、あれ?と首を傾げた。そして「みんなも食べる?」と穏やかな声で告げるのに、桃矢は毒気を抜かれてゆっくり拳を下ろした。小狼は雪兎を見たまま呆然として動かないままだ。それに気付いた雪兎が「はい、ぶたまん」と美しく微笑むのを見た小狼が顔を耳まで真っ赤にさせて飛ぶように逃げていった。その様子に呆気に取られたはるとが「しゃ、小狼、っさま!?」と届くはずもない手を引きとめるように伸ばしたが、もうそこに小狼の姿はない。雪兎は差し出していたぶたまんを眺めて「あの子、お腹いっぱいだったのかな?」と不思議そうに首を傾げて桃矢の方を振り返ると、はるとの存在に気付き優しげに微笑んで近付いてきた。傍に寄れば寄るほど、安心感が強くなる雪兎の姿に、はるとが目を離せないでいると、先程小狼に差し出していたぶたまんを「食べる?」と差し出した。はるとはぶたまんと、雪兎を交互に見つめた後、大事そうに受け取って、「ありがとうございます」ととても嬉しそうに笑った。すると、その笑顔に答えるように、何処からか、色とりどりの花びらが、はるとを包むように降り注いだ。

それに桃矢や雪兎、さくらが目を奪われたが、鳴り響く予鈴の音にはっと意識が戻ってきた4人は急いで校舎内戻るのだった。
お昼ご飯はもう食べられないだろうと考えていたはるとは、雪兎にもらったぶたまんを桃矢たちと教室に急ぎながら、それはそれはありがたくお腹の中に消費したのだった。
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