05
お説教は後日だと考えながら、夕飯を食べて洗い物をし終えた後、リビングで部屋に飾っていた花々と遊んでいたはるとは、来客を知らせる呼び鈴に「少々お待ちください」と聞こえるように告げると、玄関を開けた。そこに立っていたのは、気まずげに視線を逸らした、式服を纏った小狼の姿だった。
「しゃーおーらーんーくーん?」
「…本当にすまないとは、思ってる」
「顔が!思ってねえ!」
洗面所行って鏡見て来い!と怒っているはるとに小狼は不機嫌そうな表情を変えることなくしまったなという気持ちを抱えていた。まさか、はるとが来てしまうとは。羅針盤を使ったことで自分の魔力を感じて、駆け付けることはわかっていたが、まさかあんな見てほしくない場面で来てしまうとは。小狼は短く溜息を吐いた。それに「溜息吐きたいのは俺の方だ!」と丸めて棒状にした紙でポコン、と叩かれた。わかるとは思うが、全く痛くない。女の子には優しくしなさいだの、もっと女の子を安心させるように微笑んだりしなさいだの、はるとのまだまだ続くはずのお説教を止めたのは、クロウカードの気配だった。
はるとはクロウカードの気配に気付くと「準備する!」と小狼に言って急いでリビングを後にした。
正装に着替えたはるとを連れて小狼が向かった先は、先程桃矢に教えてもらった、木之本家の家の前だった。さくらが細身の剣を持っている少女に今にも斬られてしまいそうで、はるとが「さくらちゃん…!」と駆け寄ろうとする前に、小狼が走り出して自身の剣でその剣を防いだ。それにほっとしたはるとは、さくらの肩付近で浮いている黄色いくまのぬいぐるみのようなかわいい生き物に目を止めて、思わずじいっと眺めた。そのぐるみから、魔力を感じるからだ。…あれはクロウカードなのだろうか、それとも…さくらの魔力を流し込んで動いているのだろうか…?はるとが一生懸命考えていると、さくらが「この子が李小狼くんだよ!」とそのぬいぐるみに告げる。小狼は全くそのぬいぐるみを気にしてはいないようで、さくらに「……弱い」と文句を言っている。それに言葉を返さずに眉を下げた様子のさくらを見て、はるとは女性には優しくと言ったのにと眉を寄せて「小狼さま…!女性には優しく!」と一言一言を強めに有無言わせずに怒ると、今度は小狼が押し黙った。
全く…!とはるとがさくらに申し訳なさそうに「大丈夫ですか?すみません、1度ならず2度まであなたに申し訳ないことを…」と手を差し出すと、さくらは小狼と共に現れたはるとの姿に驚いて、大きくて綺麗な瞳がさらに大きくなって叫ぶようにして問いかけられた。
「はるとさん…!?どうして…!それにその恰好は…!」
はるとが現れたことにも驚いたらしいが、今日の正装が動きやすさを重視した簡易チャイナ服だったことにも驚いたらしいさくらの可愛らしい表情に落ち着かせるように静かに微笑みかけてお昼にしたように、唇に人差し指を置いて今度は一つウィンクをした。
「この服は、小狼さまの仕事に着いて行くときの正装です。……それに、言ったでしょう?…すぐに知ることが出来ます、と」
いたずらが成功した幼い子供のような笑顔にさくらが「ほえ?」と首を傾げた。そして「私はあなたがクロウカードの新しい持ち主だということも、クロウカードを集めていることも知っていますよ」と言葉を続けるはるとの姿の背後で、剣を構える小狼の姿が見えたさくらが、はっとして「だめー!」と叫び小狼の剣を持つ手を抑えた。それに「なにする…!」と抵抗しようとした二人に、ぬいぐるみが「さくら!」と声を出したので、「しゃべった…!」とはるとが目を輝かせると同時に、すぐ傍に魔力を感じた。さくらが「はるとさん…!」と悲痛な叫びをあげながら靴に現れた翼で小狼と一緒に飛んで行くのを見届けて「大丈夫です」と微笑むと、振り返ることなく「花よ」と短く言葉を詠んだ。
何処からか、冬に咲くはずのない種類も交じってたくさんの花々が舞うように出現すると、はるとを少女の振り下ろした剣から守るように包み込んだ。
「はるとさんすごい…!」と木々をクッションにして降り立ったさくらに、小狼が「もうちょっとでこっちがやられるとこだったんだぞ!」と怒鳴ると、間髪入れずに「利佳ちゃんにけがさせちゃだめ!」と怒る。それを攻撃を花で防ぎながら聞いていたはるとが、この子はさくらの友人なのかと理解した。ぬいぐるみが「あのお嬢ちゃんが一瞬でもええから、剣から手を離してくれたらええんやけど……」と言った言葉に「その子といっしょにいて!」と言い置いて木々から降りてくる音がした。「どないしたんや!?」とぬいぐるみの驚いた声にはるとが振り返ると、さくらが一枚のカードを取り出して呪文を唱え「幻!」と叫び杖でカードを触れば、魔法陣と共に揺らめく何かが利佳という少女の前に現れた。それをぼうっとする瞳で見つめた利佳が「…せん…せ……」と小さく呟いた言葉に、さくらが「え?」と不思議そうにしているとぬいぐるみが「さくら、いまや!」と叫んだ。それにはっとしたさくらが駆け出して利佳の手のひらを叩くと、剣はするりと手から離れた。倒れそうになる利佳を支えたさくらに「私が変わります」と花々で利佳を守るように包み込むと、さくらが「お願いします!」と言って杖を構え、「汝のあるべき姿にもどれ!クロウカード!」と叫ぶと、剣はカードとなり、さくらの手の中に落ち着いた。すぐに心配そうに「利佳ちゃん!」と不安そうな表情をしているさくらの髪の毛を安心させるように撫でたあと、「大丈夫ですよ。気を失っているだけです」と微笑みかけた。それにほっとした表情になるさくらに、追い打ちをかけるような一言が飛んでくる。
「その程度の力でクロウカードを集めるのは無理だ」
「小狼さま…!」
はるとが利佳を花々に任せて小狼に近付こうとすると、さくらの目の前にすっと、ずっと気になっていたぬいぐるみが守るように飛んで来た。そうして初めて気が付いたのだろう、小狼が首を傾げながら「なんだこいつは?」とじっと見つめると、さくらが「ケロちゃんよ」と紹介する。その言葉に驚いた小狼が声を荒げた。
「じゃ…これが封印の獣、ケロベロス!?」
「え!?そうなのですか…!すごく愛らしい姿ですね…!」
「…黄金の瞳の最強の守護者が…このぬいぐるみ…」
ケロベロスを指さしながら、小狼がそう困惑したように言うと、突如ケロベロスががぶりと小狼の指にかじりついた。小狼がそれに声が出ずに地味に痛がっていると「ケロちゃん!」とさくらが吃驚して止めようとしたが、はっと「誰かくる!」と言ったので、はるとが周囲に耳を傾けると確かに足音が聞こえた。さくらが「ケロちゃん部屋いってて!」と続けながら杖を小さくした。去り際にもう一度小狼の指を噛んだケロベロスが「ぬぐるみやなんて失礼な!」と憤りながら飛んでいってしまった姿に、はるとがぬいぐるみって思ってごめんな…と心の中で謝っていると、足音が止まった。そして「こんばんは、桃矢いるかな?」と告げた声音にばっとはるとが振り向くと、そこにいたのは、雪兎だった。
雪兎は、「…あれ、はると?…どうして…」と不思議そうにした後、はるとを下から上に確認するように見た後、にっこり笑って「チャイナ服、だよね?それ。とっても似合ってるね」と、はるとの頬に優しく手のひらが触れた。突然の雪兎の存在に驚いて振り向いてしまい、この恰好を見られてしまったことが恥ずかしいはるとが顔を真っ赤にしてあたふたとしていると、頬から手を離しながら微笑み続けていた雪兎が、はっとして先程まで花たちに任せていた気を失った利佳に気付いた。「どうしたの?」と近付くと、ケロベロスに噛まれ怪我をした小狼の指先にも気付いたようでその手を取り、「大丈夫?」と心配そうに問う雪兎の姿にまた顔だけではなく耳まで真っ赤に染めた小狼が一目散に走り出していってしまった。置いて行かれたはるとは、利佳をこのままにしておくことも出来ないので、置いて行ったことは後で怒ることにした。
▽△
目を覚ました利佳を、さくらも送っていくと言ったが、夜も遅いので任せて欲しいと告げて、雪兎と一緒に利佳を家まで送っていったはるとは、その帰り道で雪兎に「そのチャイナ服、普段着なの?」と聞かれてしまった。その言葉にそんな訳ないだろと焦ったはるとが、「違いますよ…!」と即座に否定して「えっと…深く聞かないでください」と冷たくなってしまった手を温めるためにはーっと息を吐いた。
「手、冷たいの?…寒い?」
「ええ…そうですね。少し、寒いです」
「じゃあ、はい。ぼくの手、あったかいよ」
すっと目の前に差し出された手は、とても白い。そっと…触れてみれば、確かにとても温かかった。はるとと手を繋いで歩く雪兎は、何故かとても嬉しそうな表情をしていた。
――…月城雪兎は、人間ではないだろう。はるとは雪兎と二人で一緒にいて、初めて気が付いた。人の中に紛れているときにははっきりと気付かずにいて、傍にいれば安心するようなそんな気しか伝わってこなかったが、今は確かにわかる。この目の前にいる青年は…ここで生活するために、姿を変えているだけだ。だけれど、魔力を持っているはずのはるとや小狼にさくらに気付いてもいいはずなのに、雪兎は何も言わない。自分が何者か、きっと雪兎は気付いていないのだろう。
はるとは、雪兎が気付いていないのならば言わない方がいいのだろうと思った。隣を歩く、笑みを絶やさない雪兎のその姿に、心地よい魔力に…とても安堵を覚える自分がいて、
はるとは雪兎と一緒に歩けるこの時間が、とても大事なものに思えた。
繋いだ手から伝わる雪兎のあたたかさが、とても…とても、優しかった。
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「しゃーおーらーんーくーん?」
「…本当にすまないとは、思ってる」
「顔が!思ってねえ!」
洗面所行って鏡見て来い!と怒っているはるとに小狼は不機嫌そうな表情を変えることなくしまったなという気持ちを抱えていた。まさか、はるとが来てしまうとは。羅針盤を使ったことで自分の魔力を感じて、駆け付けることはわかっていたが、まさかあんな見てほしくない場面で来てしまうとは。小狼は短く溜息を吐いた。それに「溜息吐きたいのは俺の方だ!」と丸めて棒状にした紙でポコン、と叩かれた。わかるとは思うが、全く痛くない。女の子には優しくしなさいだの、もっと女の子を安心させるように微笑んだりしなさいだの、はるとのまだまだ続くはずのお説教を止めたのは、クロウカードの気配だった。
はるとはクロウカードの気配に気付くと「準備する!」と小狼に言って急いでリビングを後にした。
正装に着替えたはるとを連れて小狼が向かった先は、先程桃矢に教えてもらった、木之本家の家の前だった。さくらが細身の剣を持っている少女に今にも斬られてしまいそうで、はるとが「さくらちゃん…!」と駆け寄ろうとする前に、小狼が走り出して自身の剣でその剣を防いだ。それにほっとしたはるとは、さくらの肩付近で浮いている黄色いくまのぬいぐるみのようなかわいい生き物に目を止めて、思わずじいっと眺めた。そのぐるみから、魔力を感じるからだ。…あれはクロウカードなのだろうか、それとも…さくらの魔力を流し込んで動いているのだろうか…?はるとが一生懸命考えていると、さくらが「この子が李小狼くんだよ!」とそのぬいぐるみに告げる。小狼は全くそのぬいぐるみを気にしてはいないようで、さくらに「……弱い」と文句を言っている。それに言葉を返さずに眉を下げた様子のさくらを見て、はるとは女性には優しくと言ったのにと眉を寄せて「小狼さま…!女性には優しく!」と一言一言を強めに有無言わせずに怒ると、今度は小狼が押し黙った。
全く…!とはるとがさくらに申し訳なさそうに「大丈夫ですか?すみません、1度ならず2度まであなたに申し訳ないことを…」と手を差し出すと、さくらは小狼と共に現れたはるとの姿に驚いて、大きくて綺麗な瞳がさらに大きくなって叫ぶようにして問いかけられた。
「はるとさん…!?どうして…!それにその恰好は…!」
はるとが現れたことにも驚いたらしいが、今日の正装が動きやすさを重視した簡易チャイナ服だったことにも驚いたらしいさくらの可愛らしい表情に落ち着かせるように静かに微笑みかけてお昼にしたように、唇に人差し指を置いて今度は一つウィンクをした。
「この服は、小狼さまの仕事に着いて行くときの正装です。……それに、言ったでしょう?…すぐに知ることが出来ます、と」
いたずらが成功した幼い子供のような笑顔にさくらが「ほえ?」と首を傾げた。そして「私はあなたがクロウカードの新しい持ち主だということも、クロウカードを集めていることも知っていますよ」と言葉を続けるはるとの姿の背後で、剣を構える小狼の姿が見えたさくらが、はっとして「だめー!」と叫び小狼の剣を持つ手を抑えた。それに「なにする…!」と抵抗しようとした二人に、ぬいぐるみが「さくら!」と声を出したので、「しゃべった…!」とはるとが目を輝かせると同時に、すぐ傍に魔力を感じた。さくらが「はるとさん…!」と悲痛な叫びをあげながら靴に現れた翼で小狼と一緒に飛んで行くのを見届けて「大丈夫です」と微笑むと、振り返ることなく「花よ」と短く言葉を詠んだ。
何処からか、冬に咲くはずのない種類も交じってたくさんの花々が舞うように出現すると、はるとを少女の振り下ろした剣から守るように包み込んだ。
「はるとさんすごい…!」と木々をクッションにして降り立ったさくらに、小狼が「もうちょっとでこっちがやられるとこだったんだぞ!」と怒鳴ると、間髪入れずに「利佳ちゃんにけがさせちゃだめ!」と怒る。それを攻撃を花で防ぎながら聞いていたはるとが、この子はさくらの友人なのかと理解した。ぬいぐるみが「あのお嬢ちゃんが一瞬でもええから、剣から手を離してくれたらええんやけど……」と言った言葉に「その子といっしょにいて!」と言い置いて木々から降りてくる音がした。「どないしたんや!?」とぬいぐるみの驚いた声にはるとが振り返ると、さくらが一枚のカードを取り出して呪文を唱え「幻!」と叫び杖でカードを触れば、魔法陣と共に揺らめく何かが利佳という少女の前に現れた。それをぼうっとする瞳で見つめた利佳が「…せん…せ……」と小さく呟いた言葉に、さくらが「え?」と不思議そうにしているとぬいぐるみが「さくら、いまや!」と叫んだ。それにはっとしたさくらが駆け出して利佳の手のひらを叩くと、剣はするりと手から離れた。倒れそうになる利佳を支えたさくらに「私が変わります」と花々で利佳を守るように包み込むと、さくらが「お願いします!」と言って杖を構え、「汝のあるべき姿にもどれ!クロウカード!」と叫ぶと、剣はカードとなり、さくらの手の中に落ち着いた。すぐに心配そうに「利佳ちゃん!」と不安そうな表情をしているさくらの髪の毛を安心させるように撫でたあと、「大丈夫ですよ。気を失っているだけです」と微笑みかけた。それにほっとした表情になるさくらに、追い打ちをかけるような一言が飛んでくる。
「その程度の力でクロウカードを集めるのは無理だ」
「小狼さま…!」
はるとが利佳を花々に任せて小狼に近付こうとすると、さくらの目の前にすっと、ずっと気になっていたぬいぐるみが守るように飛んで来た。そうして初めて気が付いたのだろう、小狼が首を傾げながら「なんだこいつは?」とじっと見つめると、さくらが「ケロちゃんよ」と紹介する。その言葉に驚いた小狼が声を荒げた。
「じゃ…これが封印の獣、ケロベロス!?」
「え!?そうなのですか…!すごく愛らしい姿ですね…!」
「…黄金の瞳の最強の守護者が…このぬいぐるみ…」
ケロベロスを指さしながら、小狼がそう困惑したように言うと、突如ケロベロスががぶりと小狼の指にかじりついた。小狼がそれに声が出ずに地味に痛がっていると「ケロちゃん!」とさくらが吃驚して止めようとしたが、はっと「誰かくる!」と言ったので、はるとが周囲に耳を傾けると確かに足音が聞こえた。さくらが「ケロちゃん部屋いってて!」と続けながら杖を小さくした。去り際にもう一度小狼の指を噛んだケロベロスが「ぬぐるみやなんて失礼な!」と憤りながら飛んでいってしまった姿に、はるとがぬいぐるみって思ってごめんな…と心の中で謝っていると、足音が止まった。そして「こんばんは、桃矢いるかな?」と告げた声音にばっとはるとが振り向くと、そこにいたのは、雪兎だった。
雪兎は、「…あれ、はると?…どうして…」と不思議そうにした後、はるとを下から上に確認するように見た後、にっこり笑って「チャイナ服、だよね?それ。とっても似合ってるね」と、はるとの頬に優しく手のひらが触れた。突然の雪兎の存在に驚いて振り向いてしまい、この恰好を見られてしまったことが恥ずかしいはるとが顔を真っ赤にしてあたふたとしていると、頬から手を離しながら微笑み続けていた雪兎が、はっとして先程まで花たちに任せていた気を失った利佳に気付いた。「どうしたの?」と近付くと、ケロベロスに噛まれ怪我をした小狼の指先にも気付いたようでその手を取り、「大丈夫?」と心配そうに問う雪兎の姿にまた顔だけではなく耳まで真っ赤に染めた小狼が一目散に走り出していってしまった。置いて行かれたはるとは、利佳をこのままにしておくことも出来ないので、置いて行ったことは後で怒ることにした。
▽△
目を覚ました利佳を、さくらも送っていくと言ったが、夜も遅いので任せて欲しいと告げて、雪兎と一緒に利佳を家まで送っていったはるとは、その帰り道で雪兎に「そのチャイナ服、普段着なの?」と聞かれてしまった。その言葉にそんな訳ないだろと焦ったはるとが、「違いますよ…!」と即座に否定して「えっと…深く聞かないでください」と冷たくなってしまった手を温めるためにはーっと息を吐いた。
「手、冷たいの?…寒い?」
「ええ…そうですね。少し、寒いです」
「じゃあ、はい。ぼくの手、あったかいよ」
すっと目の前に差し出された手は、とても白い。そっと…触れてみれば、確かにとても温かかった。はるとと手を繋いで歩く雪兎は、何故かとても嬉しそうな表情をしていた。
――…月城雪兎は、人間ではないだろう。はるとは雪兎と二人で一緒にいて、初めて気が付いた。人の中に紛れているときにははっきりと気付かずにいて、傍にいれば安心するようなそんな気しか伝わってこなかったが、今は確かにわかる。この目の前にいる青年は…ここで生活するために、姿を変えているだけだ。だけれど、魔力を持っているはずのはるとや小狼にさくらに気付いてもいいはずなのに、雪兎は何も言わない。自分が何者か、きっと雪兎は気付いていないのだろう。
はるとは、雪兎が気付いていないのならば言わない方がいいのだろうと思った。隣を歩く、笑みを絶やさない雪兎のその姿に、心地よい魔力に…とても安堵を覚える自分がいて、
はるとは雪兎と一緒に歩けるこの時間が、とても大事なものに思えた。
繋いだ手から伝わる雪兎のあたたかさが、とても…とても、優しかった。