01
学校に登校したはるとは「おはようございます」と挨拶をしてくれるクラスメイトに答えると、自分の席について、授業の準備を始めた。そこに、昨日お昼を一緒に食べないかと誘ってくれた男子生徒が近寄ってきて「なあ!今日はお昼…一緒に食べないか?」と問いかけられた。はるとはどうしたものか…と困ったように眉を下げた。
目の前にいる、男子生徒から少し他と違った気配を感じるのだ。…いや、普通の人間であることは間違いないのだ。魔力を持っている訳ではない。けれど…近寄ることを、深く関わることを躊躇してしまうような…そんな気がはるとの心を覆う。
前の学校でも悩まされていた、他人の心の闇…はるとはそれに深く交じると、コミュニケーションの取り方を図りかねるくらいに弱ってしまうことがあるのだ。自然の力は強いが、そこにまだまだ未熟なはるとを介すと、そういうとき途端に弱くなってしまう。
はるとの心に左右されてしまう魔力は、そこがはるとが魔力を使う上での大きな問題になっているのだ。
「なあ…沢咲?」と顔を近付けてくる男子生徒に、ぐっと口を噤んでただただ微笑み、ぐるぐると考えているとポスン、と頭の上に大きなあたたかさを感じた。そして、強い魔力がはるとの体を守る様に包む感覚がして、はっと上を向くと、無表情でじっと男子生徒を見つめる桃矢の姿があった。隣には雪兎の姿があり、「おはよう、はると」と柔らかく微笑んだ。はるとは「お、はようございます…雪兎…と、……っ桃矢」と小さく呟いて、困ったままのはるとを、安心させるようにぐりぐりと髪の毛を撫でまわしながら「…こいつ、俺とゆきと飯食う約束してんだ、悪いな谷元」と断った。
「そ、そうか…じゃあ、また改めて…いや、明日は?」
「…谷元、はるとはこれからも俺たちと飯食うことになってんだ…諦めろ」
なんだ、彼女と倦怠期かあ…?と意地悪そうな表情を浮かべてその男子生徒…谷元に微笑む桃矢の言葉にはるとが笑って「谷元くんには彼女がいるんですか、それは素敵ですね」と告げると、焦ったように「いや、あの…いるけど、あいつは…!」と言葉を濁すと、はるとの肩を掴んで顔を何故か真っ赤にさせながら必死に言葉を選んでいるようだった。それに首を傾げたはるとはどうして谷元がそうなっているのか全く理解していないので「かっこいいあなたですから、とても可愛らしい彼女なのでしょうね」と目を細めて微笑む。はるとに顔を近付けていた谷元が間近で直視してしまい、一拍おいてゆっくり離れたかと思うと、叫びだしながら教室を飛び出し廊下へと走って行ってしまったので、吃驚したはるとが「たっ谷元くん…!?」と座っていた席から立ち上がろうとしたが、桃矢に「行かなくていい」と腕を掴まれ止められてしまった。
「でも……私が何か谷元くんの気に障るようなことをしてしまったから彼は走って行ってしまったのでしょう…?」
「はー…そうじゃねえよ…だから、あいつのことはほっとけ」
「しかし…」
「まあまあ、谷元くんも、すぐ戻ってくるよ!」
雪兎がそう言って、はるとの頬を両手で包むようにすると、ぷにぷにと軽く押して遊びながら「そういえば、今日のお昼さくらちゃんに呼ばれてるんだ…はるとも一緒に行こうよ!」と優しく微笑んだ。はるとは「誘っていただいてありがとうございます」とお礼を口にした後に「けれど、私は遠慮します。…さくらちゃんには、またお詫びを持って行くときにでも…」と言葉を続けていたが、急にむにーっ片方の頬を摘ままれて、「ふむっ!?」と声を上げた。「お前も、来い」とはるとの頬を摘まんで引っ張りながら、薄く微笑む桃矢に「え、あ…私は、むにゅ、!ちょっと、と、とうにゃ…っと、や!…ほっぺ、は、はにゃし、はな、う!」と桃矢の手をぱしぱしと叩くはるとを「お前のほっぺもよく伸びんなあ」と面白そうに引っ張り出した。「じゃあ、ぼくも!」と雪兎まで、頬に手を添えていた手を滑らせて、もう片方のぽっぺを柔く摘まみ「あ、ほんとだ!はるとのほっぺも、柔らかいんだね」とにこにこと微笑みながら桃矢と遊び出した。
二人に、担任教師が来るまで玩具のようにされてしまったはるとはじんじんと痛む頬を抑えながら、クラスのみんなに心配されつつも微笑ましげに見つめられた。
誰か、止めてくれ!とはるとは内心で叫びながら、ホームルームを過ごすのだった。
――…いつの間にか戻ってきて席に静かに座っている谷元が、ぎりっと拳をきつく握る様子をただ桃矢一人だけが、険しい表情で見つけていた。
▽△
授業の休み時間に何度もはるとの所へ話をしにきた谷元から、好きな食べ物や嫌いな食べ物、部活は何処に入るのか、休日は何をしているのかなど色々な質問をされ、それに丁寧に答えて行くはるとの隣でまるで姫を守る騎士のようにじっと仁王立ちして谷元を見つめる桃矢の姿とそれをにこにこと眺める雪兎の姿がその日クラスでは見られていた。
4限目が終わり、さーお昼お昼と伸びをしながら楽しそうに教室を出て行ったり、机を動かして仲間同士で食べ始めるクラスメイトたちの姿を目にし、はるとも楽しそうに揺れている窓辺の木々に微笑みかけて席を立った。手には、お弁当が握られていた。
「はるとー、早く行くぞ」と桃矢が雪兎と一緒に教室を出た先の廊下から呼んだので、「はい!」と慌てて答えて机の横に駆けてあった黒のトートバックを持って教室を出ようと小さく駆け出すはるとの視界の端に、静かにこちらを見つめている谷元の姿が、見えた気がした。
ー ー
「…申し訳ありません…本当は、お昼の約束をしていなかったのに…」
「いーんだよ、一緒に食おうと思って朝、ゆきと話してたから。なっ、ゆき?」
「うん!せっかく友達になれたんだから、はるととお昼も一緒に食べたいし!」
雪兎が桃矢の言葉ににっこりと微笑んで頷き、ぱくぱくと大量のパンやおにぎりを口に運んでいく。桃矢が「な、だから気にすんな。お弁当、食べろよ」とはるとのお弁当を指さして、自分も白米を口に運んだ。はるとは小さく肩を竦めると、お弁当を開けながら、桃矢と雪兎に「…そう言っていただけて、嬉しいです…」と眉を下げた。
「実は…ちょっと、困っていたので…助かりました。お二人とも谷元くんとは、仲がいいんですか?」
「いや、そんなに話す仲でもねえけど、知らない訳でもないな」
「んー…ぼくも桃矢と同じかな。でも、彼があんなに朝から元気なのは初めて見たよ!」
「そうですか…」
桃矢や雪兎の言葉に目を伏せて、はるとは谷元の姿を思い浮かべてひっそりと眉を寄せたが、まずは目の前のお弁当を食べなければと「いただきます」と手を合わせたのだった。
← →
目の前にいる、男子生徒から少し他と違った気配を感じるのだ。…いや、普通の人間であることは間違いないのだ。魔力を持っている訳ではない。けれど…近寄ることを、深く関わることを躊躇してしまうような…そんな気がはるとの心を覆う。
前の学校でも悩まされていた、他人の心の闇…はるとはそれに深く交じると、コミュニケーションの取り方を図りかねるくらいに弱ってしまうことがあるのだ。自然の力は強いが、そこにまだまだ未熟なはるとを介すと、そういうとき途端に弱くなってしまう。
はるとの心に左右されてしまう魔力は、そこがはるとが魔力を使う上での大きな問題になっているのだ。
「なあ…沢咲?」と顔を近付けてくる男子生徒に、ぐっと口を噤んでただただ微笑み、ぐるぐると考えているとポスン、と頭の上に大きなあたたかさを感じた。そして、強い魔力がはるとの体を守る様に包む感覚がして、はっと上を向くと、無表情でじっと男子生徒を見つめる桃矢の姿があった。隣には雪兎の姿があり、「おはよう、はると」と柔らかく微笑んだ。はるとは「お、はようございます…雪兎…と、……っ桃矢」と小さく呟いて、困ったままのはるとを、安心させるようにぐりぐりと髪の毛を撫でまわしながら「…こいつ、俺とゆきと飯食う約束してんだ、悪いな谷元」と断った。
「そ、そうか…じゃあ、また改めて…いや、明日は?」
「…谷元、はるとはこれからも俺たちと飯食うことになってんだ…諦めろ」
なんだ、彼女と倦怠期かあ…?と意地悪そうな表情を浮かべてその男子生徒…谷元に微笑む桃矢の言葉にはるとが笑って「谷元くんには彼女がいるんですか、それは素敵ですね」と告げると、焦ったように「いや、あの…いるけど、あいつは…!」と言葉を濁すと、はるとの肩を掴んで顔を何故か真っ赤にさせながら必死に言葉を選んでいるようだった。それに首を傾げたはるとはどうして谷元がそうなっているのか全く理解していないので「かっこいいあなたですから、とても可愛らしい彼女なのでしょうね」と目を細めて微笑む。はるとに顔を近付けていた谷元が間近で直視してしまい、一拍おいてゆっくり離れたかと思うと、叫びだしながら教室を飛び出し廊下へと走って行ってしまったので、吃驚したはるとが「たっ谷元くん…!?」と座っていた席から立ち上がろうとしたが、桃矢に「行かなくていい」と腕を掴まれ止められてしまった。
「でも……私が何か谷元くんの気に障るようなことをしてしまったから彼は走って行ってしまったのでしょう…?」
「はー…そうじゃねえよ…だから、あいつのことはほっとけ」
「しかし…」
「まあまあ、谷元くんも、すぐ戻ってくるよ!」
雪兎がそう言って、はるとの頬を両手で包むようにすると、ぷにぷにと軽く押して遊びながら「そういえば、今日のお昼さくらちゃんに呼ばれてるんだ…はるとも一緒に行こうよ!」と優しく微笑んだ。はるとは「誘っていただいてありがとうございます」とお礼を口にした後に「けれど、私は遠慮します。…さくらちゃんには、またお詫びを持って行くときにでも…」と言葉を続けていたが、急にむにーっ片方の頬を摘ままれて、「ふむっ!?」と声を上げた。「お前も、来い」とはるとの頬を摘まんで引っ張りながら、薄く微笑む桃矢に「え、あ…私は、むにゅ、!ちょっと、と、とうにゃ…っと、や!…ほっぺ、は、はにゃし、はな、う!」と桃矢の手をぱしぱしと叩くはるとを「お前のほっぺもよく伸びんなあ」と面白そうに引っ張り出した。「じゃあ、ぼくも!」と雪兎まで、頬に手を添えていた手を滑らせて、もう片方のぽっぺを柔く摘まみ「あ、ほんとだ!はるとのほっぺも、柔らかいんだね」とにこにこと微笑みながら桃矢と遊び出した。
二人に、担任教師が来るまで玩具のようにされてしまったはるとはじんじんと痛む頬を抑えながら、クラスのみんなに心配されつつも微笑ましげに見つめられた。
誰か、止めてくれ!とはるとは内心で叫びながら、ホームルームを過ごすのだった。
――…いつの間にか戻ってきて席に静かに座っている谷元が、ぎりっと拳をきつく握る様子をただ桃矢一人だけが、険しい表情で見つけていた。
▽△
授業の休み時間に何度もはるとの所へ話をしにきた谷元から、好きな食べ物や嫌いな食べ物、部活は何処に入るのか、休日は何をしているのかなど色々な質問をされ、それに丁寧に答えて行くはるとの隣でまるで姫を守る騎士のようにじっと仁王立ちして谷元を見つめる桃矢の姿とそれをにこにこと眺める雪兎の姿がその日クラスでは見られていた。
4限目が終わり、さーお昼お昼と伸びをしながら楽しそうに教室を出て行ったり、机を動かして仲間同士で食べ始めるクラスメイトたちの姿を目にし、はるとも楽しそうに揺れている窓辺の木々に微笑みかけて席を立った。手には、お弁当が握られていた。
「はるとー、早く行くぞ」と桃矢が雪兎と一緒に教室を出た先の廊下から呼んだので、「はい!」と慌てて答えて机の横に駆けてあった黒のトートバックを持って教室を出ようと小さく駆け出すはるとの視界の端に、静かにこちらを見つめている谷元の姿が、見えた気がした。
ー ー
「…申し訳ありません…本当は、お昼の約束をしていなかったのに…」
「いーんだよ、一緒に食おうと思って朝、ゆきと話してたから。なっ、ゆき?」
「うん!せっかく友達になれたんだから、はるととお昼も一緒に食べたいし!」
雪兎が桃矢の言葉ににっこりと微笑んで頷き、ぱくぱくと大量のパンやおにぎりを口に運んでいく。桃矢が「な、だから気にすんな。お弁当、食べろよ」とはるとのお弁当を指さして、自分も白米を口に運んだ。はるとは小さく肩を竦めると、お弁当を開けながら、桃矢と雪兎に「…そう言っていただけて、嬉しいです…」と眉を下げた。
「実は…ちょっと、困っていたので…助かりました。お二人とも谷元くんとは、仲がいいんですか?」
「いや、そんなに話す仲でもねえけど、知らない訳でもないな」
「んー…ぼくも桃矢と同じかな。でも、彼があんなに朝から元気なのは初めて見たよ!」
「そうですか…」
桃矢や雪兎の言葉に目を伏せて、はるとは谷元の姿を思い浮かべてひっそりと眉を寄せたが、まずは目の前のお弁当を食べなければと「いただきます」と手を合わせたのだった。