02

「朝は、桃矢と雪兎は一緒に登校しているんですか?」

お昼ご飯を食べ終わり、桃矢たちと共に座っていた場所から近くにある大きな木の下に移動してきたはるとが、そう二人に問いかけると雪兎が頷いて「そうなんだ。桃矢の自転車の後ろに乗せてもらってね」とにこやかに笑った。それに「お二人は本当に仲がいいんですね」と微笑んで、水筒のお茶を飲むと「…はるとも俺たちと一緒に登校するか?」と桃矢が聞いてきたので、はるとは首を振った。

「いいえ、とても嬉しいお言葉ですが…朝は小狼さまと登校しているので…」

静かな笑みとともに頭を下げるはるとに「…あのガキ」と不機嫌そうにしていた桃矢に雪兎が「しょうがないよ。はるとの大事な人ってこと、でしょ?」と柔らかく目を細めて「だから、昨日の夜も一緒にいたんでしょ?」と問われて、はるとは驚きに手に持っていた水筒を手から落とした。

「…昨日の夜?」
「うん、昨日の夜、桃矢に用があって家に行ったら、はるととその子と、さくらちゃんがいたんだ」

「ゆ、雪兎…!あの、それ以上は…!」とはるとがあたふたと慌てながら、滑り落ちた水筒を置き直して、雪兎を止めようとする。桃矢は「なにいっ!あのガキがうちの近くにいたー!?」と不機嫌そうに叫んだ後、ぎりぎりと歯を食いしばった。そんな桃矢の様子に微笑んだままの雪兎が「すぐ帰っちゃったみたいだけどね………でね、その子と一緒にいたはると、チャイナ服着ててとっっても可愛かったんだよ!桃矢にも見せたなあ」と得意げに言う雪兎に、はるとが「わ、わああ!!?ゆきと…!」と顔を真っ赤にさせながら「なんで言ってしまうんですか…!朝会った時も言わなかったのに…!」と雪兎に詰め寄った。桃矢が片眉を寄せて「…バイトじゃなけりゃなあ…見れたかもしれねえな…なあ?」と悪戯気に首元にするりと大きな手を滑らせて、じっとはるとを見つめた。それにびくっと肩を震わせたはるとが、急いで首を横に振って体を近付けてきた桃矢から離れようとしたが、それに面白くない顔をした桃矢がはるとの首に逞しい腕を回して引きとめながら「しかし…あのガキ、いっぺんしめたろーか」と呟くに、雪兎が「そうやってさくらちゃんに近づいてきた子はみんなおっぱらってきたの?」と朗らかに笑って、腕時計を見た。

「そろそろ約束の時間かな。ぼくに用ってなに?さくらちゃん」
「わたしたいもんがあんだと。伝言してやるかわり今日の夕食当番はあいつだ」

桃矢と雪兎の会話を聞きながら、いつまでも腕を離してくれない桃矢に痺れを切らしたはるとが「ちょっと…!桃矢離してください…!」と桃矢に告げると、「しょうがねーな」と桃矢は目を細めてはるとの首に回していた腕を離した。ほうっと安心したように息を吐いたはるとを見つめた桃矢が「……お前、絶対あいつと二人になんなよ」と眉を寄せてはるとに告げた。

「? …あいつとは?」
「…谷元だ。絶対、二人になるな。…あいつと」
「っ…桃矢、あなた…」

その強すぎる魔力ゆえに、桃矢も何かを感じるとれるんだろうな…俺よりも…と、はるとは桃矢の魔力による苦労を労わるような表情をした後、「ええ…あなたの言葉を守りましょう」と桃矢の瞳をしっかりと見つめて頷いた。それにふっと安心したように微笑み返した桃矢が、ふと落ちてきた落ち葉が雪兎の肩についているのが見えて「ゆき、葉っぱついてっぞ」と手を伸ばして取った瞬間、はるとの視界の端から札が飛んで来るのが見えて、はっ…と「桃矢…!」と叫んだが間に合わずに、桃矢の制服の袖が燃え出した。
はるとは、その札の持ち主を良く知っていた。「小狼さま…!」と振り返り、フェンスの上に腕を組んで立っている小狼に言い聞かせるように「人様に危ない札を向けるんじゃありません…!」と言葉を続けた。小狼はそれにつん、と視線を逸らして聞く耳持たぬだ。はるとが拳を震わせながら「しゃお、らんさま…?」と怒りを抑えるように微笑むが、小狼は少し冷や汗を浮かべただけで、目も合わせようとしなかった。そこまで桃矢が気に入らないのか…と、此処でこのまま怒っていても仕方ないか、と大きく溜息を吐くと、「てめー!」と小狼に怒鳴りながら拳を握った桃矢が近付いていくので、また喧嘩をしてしまっては申し訳ないと思ったはるとが止めようと口を開いた瞬間「すみません!またせちゃって!」と走ってくるさくらの姿が見えたので、これで落ち着くかもしれない、とはるとは口を閉じた。はるとの思っていた通り桃矢と小狼はバチバチと睨み合い、火花を散らせるだけに留まったので、いいタイミングで来てくれたさくらにはるとは深く感謝した。

桃矢と火花を散らせている小狼の姿を見つけたさくらが、「うっ…」と眉を下げながら後ろに下がったが、雪兎が手を振り近付きながら「さくらちゃん、ぼくに用ってなんだって?」と目を細めて微笑んだ。それに「あ、そうだ!」とはっとしたさくらが両手に大事そうに持っていた袋をそっと雪兎に差し出して「あの、これ…きょう、お誕生日ですよね…」と可愛らしく頬を染めながら告げた。小狼がさくらの言葉に「え!?」と短く叫んで驚き、桃矢から目を離すと「わー!ありがとう!開けていい?……わー可愛いお茶碗とお箸だね!」と喜んでいる雪兎を見た後、必死に制服のポケットを漁り出して駆け出した。小狼の行動を「なんだ?」と見ていた桃矢が「あっ、待て!」と止めようとするのを、はるとがそっと引きとめた。

「っはると…!」
「申し訳ありません、桃矢…小狼さまのお好きにさせてあげてください…」
「っち、…わーったよ」

腕を組んで小狼のことを睨みながら口をへの字にしている桃矢に眉を下げながら「…本当にすみません、ありがとうございます」と小さく頭を下げたはるとを見つめた桃矢の瞳に、さらりと白い首筋を滑る深い黒色の柔らかい髪が目に入った。ゆっくりと頭を上げて、嬉しそうに目を細めてさらさらとした黒髪を優しい風に遊ばれているはるとの姿が目が離せないほどに美しく桃矢の胸に添う。はるとは桃矢から目を離し雪兎にプレゼントであろう物を渡している小狼の姿を眩しそうに見つめる。「た…誕生日…」と照れたように一生懸命の言葉を雪兎に伝えた小狼に「もらっていいの?」と雪兎がにこにこしながら問いかけると、小狼が何度も頷き答えたので受け取ると、我慢出来なくなったのか猛スピードでその場を去って行く小狼の後ろ姿が見えたので、はるとはよく頑張りましたと笑って見送った。「ありがとう!」という雪兎のお礼が、しっかり聞こえているといいけど…と少し不安にも思ったが。

「何もらったんだ?」「チョコレートだよ。桃矢も食べる?」と会話する二人に「雪兎、今日お誕生日だったんですね。おめでとうございます」と柔らかく笑みを浮かべるはるとに、雪兎が嬉しそうに「ありがとう、はると」と透き通るような美しい声で答えると、何故かぎゅっと抱き締められた。

「…っ」

雪兎に抱き締められた瞬間に酷く安心する魔力が自分に伝わる感覚がして、はるとは思わずぎゅっと雪兎を抱き締め返した。心がぽかぽかと温かい。はるとはふうっと薄く頬を赤らめながら、目を細めて雪兎の魔力を感受したのだった。
そんな二人の邪魔をなんだか出来ない桃矢だけが、少し不機嫌そうな…けれど嬉しそうに口元を緩めたのだった。
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