「おはよぉ、小エビちゃぁん」

彼はどろりとした甘ったるい鳴き声で呼ぶ。

私じゃない雌を。

「今日もかぁいいねぇ」

その鳴き声に応えるのは私じゃない人間の雌。
エビの要素なんてひとつもない、ただの人間の雌。
エビじゃないくせにその鳴き声に図々しくも反応し、照れたように頬染める人間に、彼はにんまりとしながら絡み付く。
そんな彼と人間の場面は何度も見ている。
それこそ四六時中彼を見ているのだから、必然的に見えてしまうのだ。

どうやら彼は人間の雌を番にするつもりのようだった。

私は仲睦まじくする1匹と1人を見て思う。
あんな脆い身体で一体何匹の稚魚を産めるのだろう。
あんな柔い身体で、何日海の中で生きていけるのだろう。
どうにも役立たずな人間の雌の何処が良いというのか。

陸に来てからしばらくして、あの雌はこの学校にやって来た。
最初は物珍しさで人間の雌を構っていた彼だったが、やがてそれは"構う"から"求愛"に変わっていった。
今も彼は人間の雌に求愛するのに忙しそうだった。
愛おしそうに大きな口を目一杯開けて、目の前の雌を求めている。
私のことなんて海底の底に埋まった鉄くずのように忘れ去られている。

だが、別にそれでもいい。
私が彼のものであるのならば。

どうせ人間の雌より私の方が使える。
彼は飽き性だから、人間の雌なんてすぐに海の藻屑になる。
それに彼が望むのならば私は何千匹と稚魚を産んでみせるし、人間の雌よりもうんと頑丈だし、素早さにかけてはピカイチだから、自分の身は自分で守れる。
彼に迷惑はかけない。

しかし、胸に灯った一抹の不安は決して消えることはなく、時間が経つ事に燃え上がり続け、私の身体を干上がらせる一方だった。






-優刻-