「アプローチの違い」

調べ物なら図書室だろう、ということで早速出向いてみる。
しかし、この膨大な本の山の中、すぐにお目当てのものが見つかる訳もなく、高々伸びる本の塔を見上げて溜め息を吐いた。
それから連日空き時間は図書室に入り浸り、図鑑や歴史書、昔話集的なものまで1冊1冊読み込んでみるが、中々これといったものが見つかる気配がない。
早々に根を上げそうだった。
すぐに見つかると甘く見ていた。
軽く絶望を覚えながら、机に乱雑に詰んである本を端に寄せ、空いたスペースに顔を突っ伏す。

「もー無理ぃー」

「何が無理なんですか?」

そばで綺麗に通る落ち着いた声が聞こえた。
驚いて声の方を見ると、そこには想い人の片割れがにっこりと食えない笑みを浮かべて立っていた。

「ジェイド先輩……」

「大分お困りと見受けられますが、いかがなさいましたか?」

ジェイド先輩は「キノコ大図鑑〜これで貴方もキノコマスター!〜」と書かれた分厚い本を片手に、小首を傾げて訪ねてきた。
この後、嬉々としてその本を読み耽るのだろうジェイド先輩の姿が容易に思い浮かぶ。
苦笑を返しながら、私は正直に言うかどうか迷い口篭る。
そんな私の思考を全て見透かしているかのようにジェイド先輩は言う。

「フロイドのことですよね?」

ずばり言い当てられて、ろくに嘘も付けない私は「う」やら「ええと」やら、言葉にならない声を出す。

「やはり。
僕で宜しければ貴方のお悩み聞きますよ。
もしかしたらお力になれるかも知れません」

ね?と、優しく相談に乗るように見せて、有無を言わさない威圧感のある笑みで迫ってくる。
確かに、ジェイド先輩もフロイド先輩と同じウツボの人魚なのだから、自分で調べるより何倍も効率はいいだろう。
とっくの昔に、私がフロイド先輩に好意を抱いていることを知られているのだ。
秘密にしよう、だなんて今更である。

そういえば、ジェイド先輩にこの気持ちに気付かれた時は、生きた心地がしなかったことを思い出す。
どんな手段を使って脅されるんだろう、とひたすらに怯えていた日々か懐かしい。
あれから特に何か話を持ちかけられることもなく、寧ろ積極的にこうして相談に乗ってくれようとする。
まあ、あとが怖いのでわざわざ私から相談に行くことは無いが。

「……その、人魚へのアプローチ方法を探してて……」

「へえ、アプローチ方法を?」

「はい……あの、やっぱり人間と人魚だと、アプローチ方法って違うんですかね?」

ジェイド先輩は思案するように、ほんの少しの間宙に視線を泳がせたあと、再び笑みを浮かべて「そうですね、違います」と言い、言葉を続けた。

「そもそも海では陸の方々のように、"恋愛"というまどろっこしいことは致しません。
とてもシンプルで、フィーリングの会うメスを見つけたら求愛して、番になる。
たったそれだけです。
まあ、陸の恋愛に憧れる物好きな人魚もおりますが。
特にフロイドに至っては、残念ながら人間の色恋沙汰には微塵も興味がありません」

残念ながら、と言っているが、ちっとも残念そうではない表情である。
そんな先輩に私は縋るように尋ねる。

「やっぱり種族が違うと難しいのでしょうか……」

ふむ、と顎に手を当てわざとらしく"風"を装い、いい事を思いついたように笑みを深めた先輩が言う。

「僕からひとつ提案が。
あなたから僕達ウツボの求愛行動を試してみてはいかがでしょう?」

「ウツボの求愛、行動?」

「はい、求愛行動です」

不穏な雰囲気が感じられる笑みを浮かべる先輩だが、藁にもすがる思いの私は食いつき気味でその"求愛行動"とやらの説明を求めた。

「お目当ての相手の前で喉奥が見えるぐらいまで大きく口を開けます。
そして、相手も同じように大きく口を開けばアプローチ成功です」

「え?それだけですか?」

「ええ、それだけです。
ただ求愛行動は基本的にオスから行うのですが……まあ、必ずオスからしないと駄目だとは決まっておりませんので、問題ないでしょう」

好きな人の前で大きく口を開くなんて行為出来るだろうか。
私みたいなのがその求愛行動をしたら、酷い顔になるのでは?
先輩の提案を即採用と決定づけるには些か羞恥心の点で問題があった。
しかも基本オスからと言う。
不安要素が多い。

「相手が口を開かなかったら……?」

「開かなかったら……ですか。
そうですねえ、フロイドは僕と同じウツボですから。
この求愛行動は知らないはずがありませんので、同じように返してくれなければ、陸でいう"フラれた"と同義だと」

フラれたと同義かあ。
いや、こんなことで尻込みしていては始まらない。
今回の目的は私が先輩のことを異性として意識していることを知ってもらうことだ。
萎縮する気持ちに叱咤した。
ジェイド先輩への挨拶はそれなりに、図書館を後にした。



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-優刻-