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「変な癖があるんだね」

 と、イヴァンに言われたことがある。
 内心では、ばれてしまったかと焦りながらも、俺は、

「クセ? そんなものないだろ」

 と言ってみた。顔に出すことはなかったと思う。完璧なポーカーフェイスとはいかないが、あくの強い笑顔には自信があるのだ。

「僕の気のせいかな、鏡を見てたよね」
「なんだそれ」
「君っていつも自分のこと見てるよ、気づいてないの?」

 無意識ならば相当のナルシズムだと、遠回しに揶揄されている。どうしてこういう事には目ざといのだろう、この男は。人の心情になどかまわないくせに、気づかれたくない事にかぎって、ずけずけと指摘してくる。

「そうか? さすがは俺、自分すら魅了してしまったか、 かっこよすぎるのも困りものだな」
「うんうん、今日も元気だね」

 いつもの調子で誤魔化してみれば、ぞんざいな返答をされた。大きな体に、ふわふわした頭をのっけて、イヴァンは無頓着に笑っている。
 見抜かれたわけではなさそうだと、ほっとした。それにしても、なんて軽い返事だ。

「……お前、あしらうの上手くなったな……おい、褒めてねぇから嬉しそうにすんな!」

 雑に受け流すことには慣れきったくせに、嬉しくなるとすぐ頬を染める。こそばゆくなるような、その顔を軽く突ついて、早く行こうとうながした。

 イヴァンはやたらと散歩が好きで、ふたりの時間がとれれば、歩こう、歩こうと誘ってくる。俺も外に出るのは好きなほうだから、本当によく歩いていた。目的のない散歩も珍しくない、何をするでもなくぶらぶらして、一日が終わることもしばしばだ。

 わざわざ歩調をそろえなくてもいい、気楽なものだ。俺が機嫌よく歩けるのは、こいつには気を遣わないと決めているからだろうか。そこのところは自分でもよく分からない。
 俺が適当に道を決め、イヴァンがなんとなく着いてくることもあれば、勝手気ままに歩くあいつに、俺がとろとろ着いていくこともあった。

 先ほどは理髪店の鏡、今はショーウィンドウの磨かれた窓を、俺はこっそりと横目に見ている。トレンチコートを着た自分と、ざっくりしたセーターにマフラー姿のイヴァンが、並んで映っている。

 たしかに、それは俺の癖だった。勘違いをされるのも無理はないが、べつに自分の容姿を確認しているわけではない。一人の時に、鏡を気にすることはない。一緒にいる時だけだ。
 イヴァンといると、俺は、俺の姿を確認せずにはいられないのだった。

 あいつは俺の三歩後ろをついてきていた、今日はそんな気分なのだろう。その姿と、自分自身をたしかめて、視線を何気なく前に戻す。
 うららかな春の日に、石畳の道も、新調したばかりの革靴も、きらきらと光っていた。

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