※オマケの短編です、シリーズ前作を先に読むことをお勧めします。
※2015年8月発行 →完売から一年後にweb再録
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きれいなものが
救ってくれる命だとして
救われるために生まれた
僕たちではないから
◇ 「Hello?」をひとりに捧げよう ◇
ひゅ、と喉を鳴らして、息ができないと分かった途端、どっと汗をかいた。階段の上から、真っ白なバレーボールが転がってくる。てんてんと跳ねて、僕のいる踊り場で、止まった。
午後のチャイムがもうすぐ鳴る。今はまだ中庭や校庭で楽しそうな声をあげている生徒達が、じきにここを通る。みんなに、見られてしまう。
僕が、甘ったれだからいけないんだ。もう何度も繰り返した台詞を、もう一度自分に言い聞かせる。
誰かが駆け下りてくる足音が、大きく反響した。誰でもいいから、助けてほしい。嫌だ、誰にも見られたくない。
「……イヴァン……!」
ああ、最悪だ。
激しい耳鳴りがして、頭がふらついた。燃えている君の眼を見ただけで、喉の嵐は去っていく。君がいれば、息ができるから。けれども耳鳴りは、怒りとおなじ激しさだ。
「今、あいつら、屋上で……っ、……悪い、これ、間に合わなかった」
「……僕に、触らないで」
ひどく冷たい声が、自分自身の耳にも届いて、ぞっとする。彼は目を丸くして、その場に立ちすくんだ。
やがて小さな舌打ちが聞こえ、僕のストールが投げてよこされる。ぼろぼろに引き裂かれていた。
「……帰り、お前の教室まで行く」
それだけ言うと、踵を返して立ち去った。
本当なら、走っていって、君に抱きつきたかった。でも、それはできない。僕はもっと強くなりたくて、だから、どうしても君にだけは、見られたくなかった。
チャイムが鳴る、昇降口の方向から、活気のあるざわめきが響く。
僕は保健室に行くため、ぼろぼろのストールを首に巻いた。
* * *