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帰りのホームルームが終われば、級友達の会話は夏休みの話題でもちきりだった。ついに明日は終業式だ、待ちに待った夏期休暇が訪れる。とはいっても、受験生の彼等にとっては、思い出づくりは優先順位の二番目でしかない。夏期講習に、予備校、そんな単語ばかりが飛び交う。
「進路のこと、お前が何にも言ってくれないって、お前の担任がぼやいてたぞ。ていうか、なんで俺がイヴァン係みたいになってんだよ、クラスも違うのに」
「うん」
「……大学、行かないことにしたのは別にいい、お前が決めることだから。……俺にも話せないのか、まだ」
「うん……」
「おい、ちゃんと聞いてんのかよ」
「聞いてるよ、ごめん」
自分の靴箱を開けたら、すぐに伸びてきた手に、ばたんと閉められた。
「なに、いたずら?」
「違う。お前は職員室に寄ってけ」
「でも……今日はナタが帰ってくるから」
「ナターリヤは俺が迎えに行く。そんなこと、口実にすんな」
困ってしまって微笑んだら、じろっと睨みかえされた。まずいな、これはちょっと、本気で怒ってるかもしれない。
「それと……それ、やった奴ら、ちゃんと一発ずつぶん殴っておいた」
白いストールは、事情をよく知った保険教諭に縫い合わせてもらって、なんとか形を保っていた。ふわふわとした素材で良かった、遠目に見れば、それほど見苦しくもないと思う。
「べつに、いいのに」
「……そうだな、どうだっていい……じゃあ、」
スニーカーに履き替え、心なしか荒く靴底を履き慣らした彼は、校門へ駆けていった。半袖の制服からのぞく、白い腕が眩しい。もう夏服姿の君を見るのも、今年で最後かと思うと、過ぎ去っていく時間の速さを感じる。
級友達が和気あいあいと隣を通り抜けていく、僕はまだ歩きだすことができない。夏の太陽はまだ空高く、けれども頂点はとっくに過ぎた。暗い昇降口から、まばゆい外へと、みんな飛び出していった。立ち止まっている者などいなかった。
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