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こんなに穏やかな関係性が、すぐに築けたわけではなかった。むしろ、出会いから打ち解けるまでの時間は、奇跡の連続といっても差し支えない。
彼は甘えることを嫌う人間だった。それに対して、僕は周囲に頼りきった人間だ。毎年のように姉から贈られた、マフラーやストールを、肌身離さず身につけている。
僕は、首に何かを巻いていないと、息ができない。理由は分からないし、これに症状としての名前があったとして、べつに知りたいとも思えない。治せる気がしないからだ。
外にいるとますます悪化するので、学校では何度か困った事態にもなった。不意にストールを奪われて、自分を保てず、嘲笑の対象になる。標的になりやすいのは、級友達から見ても、僕が幼いからだろう。
出会ったばかりの頃、彼にも軽蔑されているだろうと、僕はすっかり思い込んだ。通う高校は一緒でも、僕が受かったのは、幼少から家庭教師がついててくれたおかげで、僕らは何もかもが違っていた。それでなくとも、他人が四六時中一緒だなんて、年頃の男子がすぐに適応できるはずもない。
打ち解けるどころか、話す切欠すら無かった時に、僕はあの場面を目撃したのだった。
「……その写真、君のお父さんだよね」
「なんだ、立ち聞きすんなよ」
「え、何のこと?」
「……聞こえなかったんなら、いい」
何も聞いていないフリなんかして、本当は話しかけるべきでもない、そう思いながらも、気づいた時には声をかけていた。なぜかは分からなかった。
「お前も、寝る前に、なんかぶつぶつ言ってるだろ、写真に向かって」
「あれは、お祈りだよ」
マフラーだけじゃない、僕にはもっと大きな存在も必要だ。依存しているつもりはないけれど、敬虔すぎると揶揄されるくらい、人並み外れて求めている自覚はある。
「……僕は、君と違って子どもだから」
彼は苛立ったように頭を掻いてから、なにかを堪えるような表情で、それでも真っ直ぐに僕を見据えた。
「お前は甘ったれなんかじゃない、自分を知りすぎてて薄気味悪い……なんで、そんなに諦めてんだよ、俺に無いものは何でも持ってるくせに」
どういうことだろう、何が不愉快なのだろう。たった数秒の沈黙が耳に痛い、黙っていられない。
「そう、見えるんだ……? ご、ごめん」
「……謝ってんじゃねえ、同情なんかするな!」
急に語気を荒げた声、全身で拒絶するような姿に圧倒された。つめたい肌と瞳の色彩は、怒りに研ぎ澄まされれば、ますます近寄り難く見える。
「…………違うよ、そんなことしない、だって、僕は」
――君の厳しさ≠ノ、憧れているのに。
言いかけて、これでは尚更、同情のように聞こえるだろうと思い、口を閉じた。
そうしてやっと理解した。自分は、彼に惹かれているのだと。
「……行くね、ごめん」
閉じかけたドアの向こうで、彼はどこか決まり悪そうに、うつむいていた。
そんな喧嘩とも呼べないような衝突の翌日、どうしてか、彼に頭を下げられた。『まだ環境に慣れなくて、八つ当たりした』と、そんな当たり障りのない理由にお互いが安堵して。なんとなくその日からは登下校を共にするようになり、少しずつ僕達は打ち解けていった。
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