06
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 実は、俺はもう、何日もここに通っている。

 駅ビルの最上階に、線路を見下ろす大きな回廊がある。真っ白な壁に、レールからの反射光が、ぱらぱらと散らばった。光が一定でないのは、出発したばかりの車体も反射光をばらまくからだ。たった今、遠くを目指して走りだした。かたん、かたんと、心地よい音も伝わってくる。

 コンクールというからには、題材の指定があるのだろう、と、予想した通りだ。けれど、それは言葉での指定ではなく、一枚の写真だった。夏の空、ひまわり畑――ひとつの花だけに、焦点を合わせてある。

 ひときわ高く背伸びする花を、肯定するような言葉がならんでいる。イヴァンの声がするような気がした。

「お題がこれだもんな……運が良いな、あいつ」

 ひとり、そう呟いて、腕時計を確かめる。もうそろそろ行かなければ、待ち合わせに遅れてしまう。去年に約束をした通り、今年は弟も連れて、あの場所へ行くことになった。こころよく受け入れてもらえたが、弟は不思議な一家に馴染めるだろうか。

「いったい、どうなることやらだ……楽しみすぎるぜ」

 夏期休暇中は、ずっと展示してあるらしい。きっと俺は、また見に来てしまうだろう。
 壁に飾られたイヴァンの声は、行き先の分からない電車の振動音と響きあって、今、走りだしていくかのように思えた。




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Fin.




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*作品内に登場するものについて、貶める意思も、助長する意思もありません。

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*「ひとりに捧げる」は、簡単な言葉で書いてみました。全編をイヴァンさんの詩だというイメージで、ポエムってみた話です。

*最後のページに詩をのせるかどうか、最後まで悩みましたが、のせました。恥ずかしさで叫べます、私は恥ずかしいポエマーです。



*HELLO?シリーズはこれで完結です。書けて幸せでした。感想をくださった皆さまがいろんな感情の重ね方をしてくれていて、(そっと打ち明けるようにパーソナルな話を聞かせてくださる方もいて、)驚くほど大事にしてもらえていると感じました。それぞれに違う感じ方をしてもらえた、作者としても不思議な話になりました。良い思い出です。ありがとうございました。


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全ての孤独な声が、いつか自分で光ることができますように。世界平和と、あなたの幸せを祈って。



糠夜雨子 2017.6/13