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○. 

 知りたいな、知りたいな。心のなかで繰り返す言葉が、歌うみたいに跳ねている。とくとく、リズムを脈打ち、あたたかい。

「知りたいなぁ、なんていうのかな」

 ついつい口からも出てしまう。僕はいつでもひとりだから、ひとりごとが癖になってしまうと、なかなか抜けない。

「東の草地に行ってみようかな! ……草地には、いないかな。う〜ん……あ、」

 うんうん悩みすぎたせいか、ぐぅ、と、お腹が鳴った。

「おなかが空いたらどうしよう、どうすればいいんだっけ……そうそう、おなかをいっぱいにしなくちゃね」

 それで僕は、西の山野に向かうことにした。手を体の後ろに組んで、のんびりと歩いていく。今日もいい天気だ。

 今の季節、山野には野苺の実がなっている。甘い苺は、白い花、すっぱい苺は、黄色い花。ずっと前に姉さんから教わったことを思い出しながら、のったらのったら歩いていく。

「おいしいのは、白、白はおいしい! 忘れないようにしないとね。あの子も知っているかなぁ」

 野苺は美味しい、一緒に食べてくれる人がいれば、もっと美味しいのに。いつからか、ひとりでいることに慣れてしまって、僕はさみしいクマになった。

 誰かと一緒に食べれば、きっとお腹いっぱいになれると思う。だけどひとりぼっちの僕は、いつだってハラペコのままだ。どんなに食べても、いつでもお腹が空いているような気がする。

 こんもりとした藪が見えてきた、目をこらせば、ぽちぽちと赤い実がついている。白い花の実だといいけど、これはどっちの苺だろう――そう考えていた時だ。

「あ……!」

 ひょこん、白くて長いものが、緑のなかを横切っていった。ウサギの耳だ。慌てて駆けようしたはずなのに、足が何かに捕まってしまう。

「わぁっ……あれ、あれあれ?」

 ぐるりと目が回ったら、あっという間に、お腹が地面にくっついていた。柔らかい草の上で良かったけど、なぜ転んだのか、それが問題だ。

 葉っぱに噛まれた! そう思って見れば、はて、奇妙なものが絡みついている。草のような、蔓のような。草と蔓がこんがらがった、丸い輪っかだ。おかしいな、こんな形の植物があるなんて。

「やーい! のろま!」

 ぶちぶちと輪をちぎっていると、遠くから声がして、白いウサギが走り去っていく。あの子だ!

「……ノロノロ? なぁに、なんて言ったの」

 ウサギとクマの言葉は、ちょっとずつ違うらしい。いつも何を言っているのか分からない。あの子は問いかけにも答えてくれず、あっという間に、遠く、見えなくなった。

 行っちゃった。せっかく今日も会えたのに、あの子はいつも遠いんだ。いつも笑って、何かを言って、すぐにどこかへ行ってしまう。

 あぁ、今日も笑ってた。

「……知りたいなぁ」

 何がそんなに楽しいんだろう、ひとりできらきら笑っていないで、僕にも教えてくれたらいいのに。
 しょんぼりと立ち上がり、お腹についた葉っぱをはらってから、実のなる茂みへ向いた。ひとつぶ摘んで、ぽいっと口に放りこむ。

 こんなに小さな実からでも、甘い香りが口いっぱいに広がる。もう花は散っていたけど、これは美味しいから、きっと白い花の木苺だ。

「おいしいのは、白、白はおいしい! うん、忘れないよ……だけど、どうして実は赤いんだろう? あの子の目もおんなじだ。体は真っ白なのに、目は赤いんだなぁ……」

 ひとつぶ摘んでは、ぱくっと食べる。とてもお腹が空いていたことを思い出したので、思いきって茂みを揺らし、いっぱい落ちてくる実を集めた。

 もぐもぐと頬張りながら、空を見上げる。雲は悠々と高いところに浮かんで、遠くへ流れていく。空は青いのに、雲は白い、世界は不思議でいっぱいだ。

 苺は赤くて、とても美味しい。誰かと食べたらもっと美味しいだろうから、あの子と一緒に食べてみたい。

「……知りたいなぁ」

 あの子のこと、なんて呼んだらいいんだろう。

 ねぇ、君の名前が知りたいんだ。


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