3



結局午後はサボって、授業終了のチャイムを聞いてから俺は走って教室に向かった。

閉められた扉の前で立ち止まって、一度、二度、深呼吸をする。
そして、意を決して、扉をガラッと勢いをつけて開けた。

驚く何人かのクラスメイトの顔をスルーして、俺は声を張り上げた。

「凛っ、ちゅー、部活んかいちら出そうぜ!」

凛は目を丸くさせた。
でもすぐにふっと笑って、

「おう」

と言った。

なんだ、こんな簡単なものだったんだ。
俺が悩んでいたものは。

単純な現実に俺はようやく気付いて、笑った。
そうだ、と思い出して、俺は金城の席をちらりと見た。
でも、戻ったと思った金城は席に座っては居なかった。

可笑しいな。
ホームルームはこれからだから、まだ帰った筈はないのに。

結局金城は、ホームルームに現れることはなかった。



その後、コートに向かった俺達は、ラケットを後輩に借りて簡単なラリーをした。

「やぁ、凛?」
「…んー?」

ラリーの途中、少し声を張って話し掛けた。
すると凛は間延びした返事を寄越す。

「わん、青学んかい負けた時、終わった、ってうむったさぁ」
「…おう」
「やしが、終わってねーらん!」

丁度来たボールを、少し力を入れて打ち返す。
そのボールを凛が見送ると、ガシャン、と大きな音を立てて網に当たった。
凛は転がったボールから視線を外して、俺の方を見据える。

「わんには、わったーには、まだまだリベンジする機会、あるあんに?
だぁんかい向けてちばらないといけないんさぁ」

凛は、無反応だった。
でも、俺は続ける。

「やくとぅ、凛。
まじゅんテニス、するんどー!
わったーぬ夏や、くまーで終わらない!」
「気付くのが遅いんですよ」

返事をしたのは、凛じゃなかった。
声がしたのは俺の後ろ。
振り返ると、いつの間に居たのか木手がいつものように独特な動きで眼鏡を直していた。

「君達だけですよ。
何時までもふさぎ込んでたのは」

そう言った木手の後ろには知念も、慧君も居て。
なんか、俺達は大分乗り遅れたんだなぁと凛と目を合わせて笑った。

「まぁゆたさんさぁ。
来年ぬ為にも、わったーやわったーぬ速度で進むだけさぁ」

ふと笑った知念の顔が、酷く印象的だった。



その後も、コートを一面借りて五人でテニスをした。
身体が思うように動かなくてもどかしい。
走ってるのがつらい。

でも、それが嬉しくて、楽しい。
そう思った。

「えー、甲斐か?」

その時に、聞き覚えのある声が耳に届いた。
声のした方を見てみれば、小学生の時「勉強の方が大切だ」と言った先生が居た。

「おー、久しぶりやっし、先生。
ぬーんちくまーいるんばぁ?」
「わんぬクラスぬ子がくまー受けたいらしいんさぁ。
やくとぅ、説明会にな」

ということは、今この人は6年の担任なんだなぁ、と思った。

「やー、テニスで全国出たらしいやぁ?」
「まぁ、一応…」

結果は二回戦敗退だ。
今日、数時間前まで腐っていたことが気まずくて曖昧に頷けば、先生は嬉しそうに笑った。

「やーにも、『大切なくとぅ』、見つかったみたいだし。
ちゅー来て、よかったさぁ」

え。
呟いて、先生の顔をはっきりと見たら、不意に先生が話し出す。

「大切なくとぅ、あるやっし?
なまぬ、やーには」

今の俺に。

あぁ。
勉強よりも、何よりも、俺はテニスが、ここにいるこいつらが、『大切』なんだ。
言われて、漸く気が付いた。

にやけそうになる口元を必死に堪えていると、先生がにっと笑う。
それにつられて俺は声を出して笑った。

「先生、ちょぎりーさー、勉強しろとかあびらんやっし?」
「ふりむん、勉強や学生ぬ本分あんに。
ちゃんとやれー」

そう言って、先生はじゃあな、と手を振って帰っていった。

先生、俺、比嘉中に来てよかった。
心から、そう思うよ。

誰かが見ているとも知らずに、俺は皆と笑っていた。