6
金城に付き纏うようになって一か月。
もうカレンダーは10月のページだ。
「金城や相変わらずやさ」
部の皆で帰ってる途中で凛が呟く。
「…かしまさい」
「裕次郎、ひっちーまじゅん居るあんに?
裕次郎ぬ前でも相変わらずなんばぁ?」
慧君に言われて、俺は首を捻らせる。
目も表情も変わらない。
それは確かだった。
ただ、
「まじゅん居てもゆたさんって空気がある気がするんさぁ」
これは気のせいではないと思う。
すると、知念が目を見開く。
「はーや」
「誰も寄せつけない空気だったからね。
十分進歩してるんじゃないですか?」
木手の言葉はありがたいが、俺は首を捻らせる。
そうだろうか。
たまに、不安になるときがある。
無理に隣に居ることはいいことなのだろうか。
俺のしていることは自己満足なんじゃないだろうか。
疑問は、不安はいくらでも広がっていく。
唯俺は、とにかく信じるしかない。
正しいのだと。
間違いではないのだと、信じるしかないんだ。
疑問も不安も振り切って、俺はへにゃりと笑う。
「へーく、笑ってくれると嬉しいやぁ」
はやく、君の笑顔が見たい。
ある日。
帰りが一緒になった。
正確に言えば、前方に居る金城を見付けた。
一瞬追い掛けようと思った。
追い掛けて、一緒に帰ろうと思った。
でも、何故か、心が叫んでた。
行くな
行っちゃいけない
行けば何かが壊れる
って。
だから、俺は唯そのまま帰路につく。
唯、俺が道を曲がるその先には金城がいて、もしかして、家が近いのかな、とひとり思っていた。
最後の曲がり道。
曲がってみたら、金城は俺の家を通り越して、また別の道を曲がった。
俺ん家より遠いのか、と思った。
今度もし一緒に帰ることが出来たら、家まで送ろう。
もう居ない金城の後ろ姿を思い返して、俺はそう決めた。
でも、次の日、金城は学校には来なかった。
空いた隣の席が何かを訴えているようだった。
土曜日のことだった。
俺はたまたま街に遊びに来てた。
近くのスポーツ店をはしごして新しいシューズを探していたのだ。
放課後は凛たちとテニス、土日はテニスにダッシュ。
もともとシューズの消費は激しいが、この二か月は特に早かった。
…受験とか言ってはいけない。
街中を歩いていて、見慣れた後ろ姿を見つける。
「金城!」
声を掛けると、金城は振り返った。
でも、それと同時に感じる違和感。
なんだろう。
彼女は、俺の知ってる金城じゃない。
そんな気がする。
「……こんにちは、甲斐君?」
金城の声なのに、金城じゃない。
俺は彼女の声を聞いて鳥肌なんか立ったことはないのに、今はハンパないくらいに立ってる。
どうして。
何故?
「なんでそんな顔してるの?」
小さく首を傾げる彼女は、表情はいつもと変わらない無表情だ。
「金城?」
「なに?」
「じゅんに、金城?」
「だから、なに?」
俺が聞いても、彼女の問いは変わらない。
俺に続きを促している。
でも、違う。
「やーは金城じゃない」
俺が言うと、金城は弾けるよう息を飲んだ。
驚いた表情をすぐに苛立った顔に変えて、金城は言葉を紡ぐ。
「失礼にも程がある」
その言い方も、声も、顔も、身体も、全て俺の知る金城と変わらないのに、違うものに感じる。
体中が訴えてる。
コイツは、金城じゃない。
「たーが。
やーはわんぬ知っちょる金城じゃねーらん。
やーは、一体誰なんばぁ?」
金城は顔を俯かせた。
「っふ」
俯いたところから漏れた息が、何を示しているのか。
理解するのにそう時間は掛からなかった。
「ふふっ。
あはははっ!」
初めて聞く金城の笑い声。
俺は声量があるわけでもないその笑い声が、異様に力が籠っているように感じて、背筋が凍る様な気がした。
金城の手はするりと俺の胸を目指して伸びてきて、指先が微かに触れる。
「甲斐、くん?
あまり詮索しない方が、ひなの為だと思うけど?」
彼女は唯そう言って、俺の前から姿を消した。
俺は唯立ち尽くすことしか出来なくて、暫くして、漸く帰らなければ、という思考に到達した。