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ある日の帰り道のことだった。
一段と暗い顔をしている金城は、とぼとぼと頼りない足付き。
「甲斐くん」
そんな中、金城は俺の苗字を呼んだ。
「ぬー?」
何かと思って聞いたら、彼女はぱたりと足を止めてしまった。
場所は丁度海の前。
珍しく風ピタリと止んでいて、彼女の髪が表情を隠していた。
「私と、もう会わないでください」
彼女がそう言った時に、俺は違和感を覚えた。
こいつ。
俺の知ってる金城じゃない。
そう思うと同時に、あの「金城たち」じゃないことも分かった。
「甲斐くんが今まで、どんな“私”に会ったかは解らないけど、駄目なんです。
私、もう何も解らない。
気が付いたら沖縄に居ました。
貴方が隣に居ました。
気付けば学校に居ました。
と思ったら家に帰ってました。
朝だったのに、夜中になってました。
………私、ここに居ちゃいけないんです」
ぱっと顔を上げた金城は目に涙をたくさん溜めて、また一言呟いた。
「貴方のことも、名前以外、何も知らないんです。
そんな女が、“金城ひな”だなんて嫌でしょう?」
だから、さよなら。
金城はそう言って、俺の前から走って消えた。
俺は声もかけられず、追いかけることもできず、ただ、その背中を見ていた。
わかったのは、彼女が多重人格だってこと。
いつだかのテレビで見た微かな記憶でいけば、多重人格の人は本来の人格が表に出ていることはあまりないらしい。
辛いことがあって、変わりに出て来た人格が、その時間、表にいるからだ。
本来の人格の他に主となる人格がいて、その人格がメインで表に出ている。
きっと、俺が学校で長い時間共にしたのはこの主となる人格だろう。
そして、そのほかにも辛いことが起きる度に新しい人格が増えてしまうのが、多重人格だ。
俺が解るのはこの程度のことだし、聞き流していた番組だから間違えてる知識だと思う。
普段の冷たい金城。
何か裏があるように笑った金城。
いいとこのお嬢様みたいだった金城。
この三つの金城が“金城”じゃないなら、きっと今日の、泣いた金城が、本当の金城なんだろう。
俺のことを知らないと泣いた金城が、本当の金城なんだ。
真実が分かれば、心臓が握り潰されるように痛んだ。
俺が追い掛けていたのは誰だった?
俺は唯、彼女の笑顔を見たいだけだったのに。
なんで、彼女の泣き顔を見ることになってしまったんだろう。
それから、俺の傍に金城の姿はなかった。
凛と“喧嘩”した時並に落ちている俺のテンションは、なかなか戻ることは無かった。