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十月になってから、大事件が起きた。
住んでいるアパートが来年の三月に取り壊される事になったのだ。
契約ではまだ住めたはずなのだけど、追い出されるのは私たちな訳で。
入所時にお世話になった不動産にそのままお世話になれば、諸々の経費を格安にしてくれるらしい。
滅多にない好条件に、私は早々に新しいアパートを決めた。
「……再来週には引っ越しだから、」
とカレンダーを見ながら予定をたてる。
十一月の半ばになった引っ越しの日。
職場と島宝までの距離は今までと差ほど変わらなくて、実家からだけは遠ざかった新居の間取りや見学した様子を思い出しながら物を置く場所も考える。
「ダンボールも貰ったし早く荷物詰めなきゃ」
私は明日から詰めることを自分に言い聞かせてから眠りについた。
仕事から帰ってきて、いらないと解っているものから詰めていく。
主に夏服だとかアルバムだとかだ。
懐かしいなー、なんて思いながら色々なものを眺める。
明日は休みだから殆ど終わらせるつもりで頑張ろう、と作業を進めた。
次の日、棚を整理していた。
いらないものもついでに捨てようと思って十二分に考えながら作業していると、記憶からも抜け落ちていたものが視界に映った。
「これ…」
今では思い出すこともなくなった、元彼との思い出の品。
凛さんに言われた、思い出しても笑って話せるようになったら、捨てるって。
それを実行しようと思っていて、本当にすっかり忘れてた。
仕舞ったばかりの頃はあんな気になってたのに。
もう一年近く経つのか、なんて笑った。
「今まで、ありがとう」
思い出しても泣かない。
笑って、あの頃は馬鹿だったって。
楽しかったって、言えるから。
お別れだね。
思い出をひとつ、ゴミ袋に放り投げた。
思い出を捨てた日、私は初めて凛さんに電話した。
まだ島宝の仕事が始まる前らしくて、ギリギリのタイミングに安心した。
「で、どうしたんばー?」
「いえー、あのですね。
凛さん」
「うん?」
思い切って電話したのはいいものの、つい気恥ずかしくて言葉にならない。
私は深呼吸してから、笑う。
「凛さん、にふぇーでーひる。
くじゅぬクリスマス、うんじゅに会えてよかったやいびん」
はっと息をのむ凛さん。
少しして、笑ったような息の吐き方が聞こえた。
「忘れられたんばぁ?」
「うー。
凛さん達ぬお陰やいびん」
本当にありがとうございます。
もう一度お礼を言ってから、電話を終えた。