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どれほどか分からないけれど、ボロボロと泣いていると、ガタガタと物音が聞こえる。

「わっさん、凛…。
寝過ぎ……た」

すぐ後には声が聞こえた。
凛さんを呼ぶ声。

「うきみそーちー、裕次郎」

声の持ち主は裕次郎さんというらしく、私が顔を上げると、裕次郎さんは私の顔を見て息を飲んだ。

「凛!
ぬーいなぐ泣かしちょるんさぁ!?」
「いや、つい」
「ついじゃねーらん!」

うん。
いい人な気がする。

凛さんとの会話を聞いて察した。
裕次郎さんはいい人だ。

綺麗な茶色い髪は癖っ毛だろうか、左右にまるで二つに結んでいるように毛先が流れている。
どこか犬を連想させるその髪型にも、彼の人の好さがにじみ出ているようだ。

「すみません、わん…」
「うっぴぃーねぇや、すっきりしたあんに?」

凛さんの様子を伺いつつ謝罪すると、凛さんに小さく首を傾げて問う。
その様子に、笑みがこぼれる。
このひとは、第一印象の怪しいお兄さんから一瞬で印象を変えてきた。

「にふぇーでーびる、凛さん」

こんな優しい人、よくタイミングよく出会えたものだ。

まるで裕次郎さんが起きるのを待っていたかのように、とたんにお客さんが入ってきた。
カウンターの壁に掛かっているメニュー配布の札が、さっきまでは「はんめぇー」という食事のメニューだけだったのに、「あるこーる」も増えていた。
どうやら、十八時からはお酒のメニューも配布になるかららしい。

回りのお客さんを眺めて、私は慌ててカウンターの角から立ち上がった。
こんな暗い影背負った人間居たら、お客さんのクリスマスが台なしだ。
せっかく、皆笑っているのに。

忙しそうに立ち回る凛さんに、小さな声でお礼を言って、お店を出た。
飲み物とかも飲まなかったから、お会計はせずに済んだ。

お店を出てから、公園を見た。
公園から見た時も思ったが、確かに私が座っていたベンチはここからよく見える。

傍にあるツリーを眺めるように、恋人や家族が輪になっている。
時計を見てみたら、今は十八時十分だった。
四時に彼と待ち合わせだったから、もう二時間も前なんだ、彼に別れの言葉を告げられたのは。

そう考えると、チクリと胸が痛んだ。
でも、俯くことはしない。
仲良さそうに歩く恋人達を横目に、私は帰路についた。
家に帰ってからつけたテレビの音が雑音ではなくて、きちんと言葉や音楽として入ってきたから、私は立ち直れているのだと思う。

暫く、恋愛はいいや。

そう思いながら、部屋を見回してみると、あちこちに彼の私物や形跡があることに気付いた。
明日から部屋を片付けることと、それが終わるまであの店には行かないことを決めて、今日は自分を甘やかそうと、私は眠りについた。






年が明けてから、彼の私物や貰ったものを全て段ボールに入れて、コンビニへ行く。
宅急便を元払いで頼んだら、結構な額になった。
着払いにしようか悩んだけど、難癖つけられるのは面倒だから止めた。

コンビニを出てから、私は携帯を開く。
アドレス帳の彼のページを開けて、メニューから削除を選んだ。


これで、おしまい。
さよなら。