先月のように腕を引かれて店に戻ると、裕次郎さんが安心したように笑った。
どうやら私が裕次郎さんの言葉を不快に思って帰ったと思ったらしい。

…ホント、この人はどこまでいい人なんだろう?

そう思いながらもと居た席に座った。
そんな私を見て、凛さんはクスリと笑う。

「…ぬーんち笑っちょるんですか?
凛さん」

若干の気まずさを誤魔化すようにじとっと見ながら問えば、凛さんは別に、とまた笑った。

「元気そうでよかったさぁ」
「あぃっ?」
「いちぬまんかい居なくなってたから、自殺しちょるんじゃねーらんかとうむた」

わー、私はそんな悲惨な顔をしてましたでしょうか?

聞きたくなったけど、聞かない。
落ち込むのは100%私だと解りきってる。

「お蔭さまで、ふっきれました」
「だぁやよかった」

拗ねたように言っても、凛さんが嬉しそうに笑うから、私もつられて笑った。

「凛さん、あぬ時やじゅんににふぇーでーびる」
「おう」

相変わらずの優しい笑みに、心が温かくなるのが解った。

あぁ、やっぱりここは、優しい場所だな。

そう思った。




「あぁ、そういえば、名前なんていうんさぁ?」

夕飯を頼んでから不意に聞かれて、私はまだ名乗っていなかったことを思い出した。

「ひなやいびん。
金城ひな。
常連になる予定なのでゆたしくうにげーさびら」
「ゆたしく。
わんや平古場凛」

サイドの金の髪を鬱陶しそうに耳に掛けた。

「ちゅらさん髪あんに…」
「にふぇー」

にっと笑う凛さんに、この人は本当に沢山の笑顔を持ってるなぁ、と思う。
そのとき、丁度扉の開く音がして、客が来たことを知らせた。

「めんそーれ!」

店中に響く声に、温かい気持ちになる。
一人暮らし中の私にとって、こういう空間は久しぶりだ。
ファミレスとかじゃ味わえない温かさ。
それがここ、島宝にはある。

「じゅんに、常連になりそう…」

独り言として呟いたら、目の前に居た裕次郎さんがにやりと笑った。

「なればゆたさん。
凛や、うんじゅぬくとぅ、ずーっと心配しちょったさぁ」
「えー、裕次郎!」
「事実あんに?」

背の高い人、寛さんがくっくっと笑うようにして聞くと、凛さんはふん、と言って奥に行ってしまった。
凛さんが入っていった扉を見て、呟く。

「…えと」

一瞬静かになった店内も、いつものことなのかすぐに賑やかになる。
大丈夫なのかな、なんて思っていたら、ぱっつんの人、浩一さんが私の肩をトントンと叩いてから耳打ちをした。

「凛先輩ぬありや照れ隠しやいびん。
なんくるないさぁ」

そう言ってくれた。
やっぱり、ここの人は優しい。
優し過ぎて涙が出そうだ。

「皆さん、優しいやいびん」
「あいっ?」

目を丸くした浩一さんに、笑みを零す。

「凛さんと裕次郎さんも優しいし、浩一さん、寛さんも優しい。
きっと、他ぬ方も優しいさぁ」
「うんぐとーるくとぅねーらん!」

後ろから私の肩を掴んで、耳元で叫んだのは裕次郎さん。

「ひゃあ!」

驚いて目を見張っていると、さっき出ていった扉から凛さんが慌てた様子で入ってきた。
そして、私を見て、その後に裕次郎さんを見る。

「……裕次郎?
ぬーしちょるんさぁ?」

凛さんの言葉に、裕次郎さんは慌てて私の肩から手を離した。
そしてばっと凛さんの方を振り返り、両手を合わせる。

「わ、わっさん!
ただ、ひなちゃんが島宝んかいや優しい人しかいないとかあびるから、つい!」
「……つい?」

一歩ずつ凛さんは裕次郎さんに近付く。

「永四郎ぬくとぅ、きちんと教えとこううむてっ!」
「うむて?
肩を掴んだ理由や?」
「……勢いで」

顔面滝汗の様子で視線を斜め下にした裕次郎さんに、凛さんは目を光らせた。

「裕次郎っ、死なす!」

そう言って、二人は取っ組み合いを始めた。



二人が取っ組み合いを始めて何分か経った。
二人の顔が余りに真剣で、真っ赤にさせていて、つい楽しくなってしまった。

「っははは!」

思わず私は笑った。
凛さんも裕次郎さんも争いの手を止めて、私を見た。
寛さんも浩一さんも、私を見た。
でも、私の笑いは止まらなくて。

いつの間にか、皆も笑っていた。