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「で、優しくねーらん奴ぬ話し?」

凛さんに凛さんが居ない間の話しを詳しくしたら、凛さんは腕を組んでそう聞いた。
私は頷いて、周りをぐるりと見回す。

「うー。
皆さんでーじ優しいやいびん。
じゅんに優しくねーらん人いるんですか?」
「いるさぁ。
ひっちー人ぬ苦手なむぬ食べさせようとしちょるぬが…」

裕次郎さんの言葉に、凛さんは「あぁ」、と納得した風に頷く。

「あぃっ、いるんですか?」

凛さんの様子を見て聞けば、彼はまた頷く。

「ありや鬼やっしー」
「え!」
「ま、いちか会えるさぁ。
うぬ時までぬお楽しみ」

凛さんに頭をポンポンと叩かれて、私は頷いた。
どうしても、この人に頭は上げられない。
凛さんの言うことなら、なんでも聞いてしまいそうな自分に苦笑した。



食事も終わってから、寛さんに声をかける。

「くわっちーさびたん、寛さん」
「おう。
味やどうだったさぁ?」

食器を下げながら聞く寛さんに、笑顔で答える。

「でーじまーさん!
幸せ気分でした」
「だったらわんも嬉しいさぁ」

そう言って笑う寛さんに癒しを感じた。

「寛さん、どうしたら、料理ってうんぐとーる上手になるんですか?」
「どうしてって……」

俺は昔からやってたからなぁ、なんて呟く寛さん。
やっぱり、慣れも必要なのだろう。
自然と自分の味が生まれるって聞いたことあるし。
仕事で遅くなればコンビニ、そしてこうして外食が重なる私が慣れて自分の味が生まれるまでは時間が掛かるだろう。
決して下手なわけではない。
フツーなだけで。

「やしが、やっぱいちまんや“愛情”かやぁ?」
「愛情?」
「そう。
嫌な気分で作っても、料理やまーさんくならないんどー?」

なんか、物凄くくさいことを言ってる寛さん。
でも、彼があまりにも素敵に笑うから、物凄く納得してしまった。

「そっか…」
「ん?」
「いえ、ちょっと納得しただけやいびん」

そう言うと、寛さんは頷いて、食器を洗いはじめた。

そっか。
愛情があるから、ここはとても温かいんだ。



食べ終わってから少しすると、お客さんが増えてきた。
そろそろ帰ろうと席を立つと、傍に居た凛さんがあり、と声を上げた。

「けーるんばぁ?」
「うー。
あちゃーや仕事だし、けーるやいびん」
「そっか。
…あ、ちょっと待ってれー」

凛さんはそう言って店の奥に入っていった。
どうしたんだろうと思いながらお会計をして待っていると、すぐに帰ってきた。
ちょっと、と外に出て、彼は持っていたものを掌に上に乗せて見せてくれた。

「くり」

掌に乗っていたのは、見覚えのある小さな巾着袋だった。

「あ…」
「やーぬ忘れむぬ?」

首を傾げる凛さんに、私はこくりと頷く。
完全に記憶から抜けていた。
鞄に入っていないことにすら気付かなかった。

「うー、わんぬやいびん」

その巾着の柄は忘れようと思っても忘れられないもの。
昔、彼と学祭の出店で二人で染めたものだった。

中には同じ学祭で買ってもらったパワーストーンが入ってる。
掌にパワーストーンを出すと、真っ赤な、彼らしい色が店から漏れる灯に照らされた。

「うー。
彼んかい貰ったむぬやいびん」
「あぁ…そっか」

気まずそうにする凛さんに、聞いてみたくなった。
この人だったら、この巾着を、このパワーストーンをどうするだろうって。

「凛さん」
「ん?」
「くり、昔彼と学祭で染みた巾着やいびん。
凛さんが彼女としたむぬやたんら、凛さんやくりをどうしますか?」
「わん、やたんら……」

呟いて、凛さんは腕を組んだ。
私のこんな質問を、真剣に考えてくれてるんだ。

カラン、と扉の音を立てて、お客さんが店を出た。
それを合図に、凛さんが私に真剣な眼差しを向けた。

「わんやたんら、元カノぬくとぅ笑顔で話せるまでぃ普段目に付かないとっくる閉まっとく。
んで、閉まったくとぅも忘りてぃ、いちか、だぁを見付けた時んかい捨てるさぁ。
あぬ時や、幸せだった、ってうむて」

すとん、と凛さんの言葉が心に染みる。
何よりも、納得できた。
あぁ、そういう終わり方もあるんだなぁって。
私には考えられなかった道。

「にふぇーでーびる、凛さん」

貴方のお陰で、私は立ち直れてる。



その日、帰ってから私は、巾着とストーンを普段あまり使わない小物入れの奥に仕舞った。

次、見たときに。
どうか笑えますように。

そう、願いを込めながら。



暫くの間はその場所を意識していた。
気になって仕方がなかった。
でも、私が島宝に週1で通うようになった頃には、巾着の存在は記憶から抜け落ちていた。






「最近、楽しそうね」

会社の同僚に言われた言葉に、私は「え、」と呟いた。

「カタカタと仕事一筋だったでしょ、アンタ。
随分と楽しそうじゃない。
何かいいことあった?」

同い年で同期入社して以来の仲な彼女は、人見知りというものをしないらしく、いろんな人と仲がいい。

「彼氏と別れたの」

私が言うと、彼女は目を見張った。

「あの、大学から付き合ってたっていう?」
「そう」

頷きながら笑うと、彼女は小さく微笑んだ。

「変に引きずっては、ないのね」
「丁度、私を立たせてくれた人が居たから」

よかった。
そう笑う彼女と築いた時間はまだ長くは無いけれど、きっと時間とは関係無しに、仲は良くなるものなんだと思う。

だって、そうじゃなきゃ、彼女の安心した声を聞いて、こんなにほっとしないはずだから。