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「そういえば、ひなっていち休みなんばぁ?」
バレンタインの翌週、お店に行ったら凛さんに聞かれた。
「定休が日曜で、他に週1日休みですよ」
「ってくとぅや、木曜が休みぬ時も…」
「あります。
先に申告すれば多少融通利かせてもらえますし」
私が続けて言うと嬉しそうに、へーと言う凛さん。
私はどうしたんだろう、と首を首を傾げるけど、彼の様子から返事は期待できそうにない。
「そういえば、くまーって定休日木曜でしたっけ?」
言葉にして聞けば、流石におう、と返事を貰えた。
「平日休みって、のんびり出来ていいですよねー」
そう言うと、凛さんも裕次郎さんも頷く。
「ただ、会社勤めぬ友達とかとはあまり会えないぬがつまんないけどやー」
裕次郎さんの言葉に凛さんも頷く。
「向こうんかい有給とってもらうしかないからやー」
「そっかー。
大変ですね」
「まぁ、学生時代でいちまん仲よかった奴やくまー居るんやしが」
そんな言葉が微笑ましくて、私は笑った。
ホワイトデーに何を返すか悩みながら過ごした一ヵ月が経った。
本当に何も決まらなくて、お菓子を貰ったんだからお菓子で返そう、と前の週に思い立って、お店の皆にはクッキーを大量に作った。
慧さんが凄い量を食べることは既に聞いて知っているから、全員に渡るように量優先だ。
凛さんには別で貰ったから別に返そうと思って、こっちはマフィンを作った。
久々のお菓子作りで失敗しないか心配だったけど、なんとか形になったから、私は浮かれた気持ちでその日の仕事をしていた。
そして、軽い足取りで島宝に向かった。
「はいたい!」
扉を開けながら言った。
でも、言いながら若干後悔。
こんにちは、の時間ではない気がする。
「めんそーれ!」
聞こえた声は寛さんのもので、カウンターにすぐ目をやった。
否、やろうとした。
女性から何かを貰う凛さんが視界に映って、気分が急降下した。
「先月のお返しって。
店であげたヤツなんやしが、皆貰った人に返してるみたいさぁ」
俺もいくつか貰った、と解りやすいフォローを入れられて、私はカウンターへ近寄る。
そう言えば、凛さんだけじゃなくて裕次郎さんも沢山包みを抱えている。
女性にとって、ここは簡易ホストなんだろうな、なんて思う。
狙った獲物は逃さない、とでも言うように目をギラ付かせている。
「そうなんですね。
あ、くり。
わんからやいびん。
皆さんでどうぞ」
クッキーを寛さんに渡すと、寛さんはふわりと笑った。
「にふぇー、ひな」
「ちゅーやぬーがお勧めですか?」
そしてまた、いつも通りの会話を始めた。
料理を頼んでから、ふと思い出した話題を口にする。
「そういえば、わんぬ会社もバレンタインいなぐからいきがんかい渡したんやしが…。
ホワイトデー用意しちょるみたいやいびん」
「イベントやくとぅ。
仕方ないさー」
たった一つしか変わらない筈なのに、なんでここの人はこんなに達観してるんだろう。
私は貰った水を飲みながら一人ごちた。
裕次郎さんがカウンターに戻ってきた。
「めんそーれ」
「どーも。
お店んかいホワイトデー、寛さんに預けたぬで、よければどうぞ」
裕次郎さんはにっこりと笑って、ありがとうと言った。
そして、私の鞄の中が見えたのか、あれっと声を上げる。
「凛に?」
そんな問いに曖昧に笑ってから、鞄をきちんと閉める。
「ま、あにひゃーならぬーでも喜ぶさー」
「っ、皆さんは!
苦手なむぬとかないんですか?」
裕次郎さんの言葉を聞いて、私は慌てて話題を変えた。
「わんやゴーヤやしが」
「わんや犬さー」
食べ物の話をしたつもりだったが、寛さんからきた苦手なものに目を見張る。
「あいっ、犬ダメなんですか?」
可愛いのに、と続ければ、寛さんはん−、と苦笑する。
「昔追いかけられたらんばぁよ」
確かに、子供の頃に追いかけられたら怖いかも、と私はあー、と頷いた。
空いた頃を見計らって、私はお酒を飲み干した。
「もうけーるぬかよ?」
帰り際に凛さんに言われて、私は頷く。
「あちゃーも仕事やいびん。
ちゅーやけーります」
凛さんはそっか、と呟いた。
「あぬ、ちょっと外いいですか?」
お会計を済ませてから、外を指差して問う。
凛さんは直ぐに頷いてくれた。
鞄からラッピングをした袋を出して、差し出す。
「くり、ホワイトデーぬやいびん」
「わん、に?」
「うー。
お店んかいや、もう寛さんに渡しました」
凛さんの問いに頷けば、凛さんはすぐに受け取ってくれた。
「しんけん、にふぇー、ひな!」
「喜んで貰えたなら、わんも嬉しいやいびん」
少し話してから、帰路に着いた。
お店に来たときはどうなるかと思ったが、無事渡せてよかった、と頬が緩む。
明日の仕事もがんばろ、と普段なら終わる日曜日にいじけるところだが、足取りは軽かった。