10
帰り道、凛君は何も言わずに私と手を繋いでくれた。
凛君の手は温かくて、強くもなく、弱くもない力で握っていてくれて、心地よかった。
「ひなさんちってどこらへんなんばぁ?」
近くまで来てから凛君に問われる。
「あ、」
近くの目印になるモノを告げると、了解、と笑う。
「…案外ウチに近いさー」
「そだね」
私の家と凛君達の家は普通に近い。
自転車なら五分と掛からない。
まぁ、いつも歩きだから十五分位掛かっているけど。
「買い物行くと、よくおばさんに会うよ」
「じゅんに?」
「うん。
色々豆知識教えてくれる」
へぇ、と呟く凛君。
ふと顔を見ると、思ってたよりもずっと大人っぽく感じる。
二度も助けて貰って、ここぞと言うときに傍にいてくれて、年齢よりもずっと力になる人だって解ってたけど。
かっこいい、な。
そう思って、自分の手の在処に今更恥ずかしさが募る。
どうしよう、私今、凛君と手繋いでる!
どうすればいいのか解らなくて、取りあえず凛君から視線を逸らす。
頬が赤くなってる気がする。
もう…、どうしよう。
「ひなさん?」
「はい!?」
まさか声を掛けられるとは思わなくて、大きな声になる。
凛君はくすくすと笑った。
「どうしたんばぁ?
そんな声出して」
「ご、ごめん、ちょっとぼーっとしてた…」
あはは、と笑いながら誤魔化す。
凛君は相変わらずくすくすと笑ってる。
なんでもう、この子は、なんでも絵になるんだろう。
家に着いてから、友達との遊びを切り上げさせたお詫びという事でお茶に誘った。
凛君は嬉しそうに笑ってくれて安心した。
「凛君、紅茶とコーヒーとどっちがいい?
あ、炭酸もあるけど…」
「ひなさんが飲むむぬでゆたさん!」
そう言われて、こういうところは幼いな、と微笑ましくなる。
「じゃ、紅茶にしよっか」
「おー」
紅茶を入れて、砂糖とクリープをローテーブルに置く。
「はい、どうぞ」
「にふぇーでーびる!」
凛君は砂糖を一杯だけ入れて飲む。
ふーふーと息を吹きかけている様子がまた幼くて可愛い。
ふと、キョロキョロと部屋を見渡す凛君。
何かあったかな、なんて不安になる。
「ひなさんぬ部屋、綺麗やっし」
「え?そう?」
まさかの言葉に、ビックリした。
そんなに綺麗にしているつもりはないし、どちらかというと散らかっている方だろう。
「うん。
わんぬ部屋でーじ汚いんばぁよ」
「え、そうなの?」
平古場家には綺麗なイメージが定着していて、散らかっているイメージが沸かない。
「やさ。
ぬーが、むぬがたくさんあるんばぁよ」
それは、確かにそう言うイメージかもしれない、なんて納得した。
「凛君はいつでも好きなモノに囲われてそうだね」
そんな凛君のイメージをそのまま口にすると、凛君が笑った。
「確かにそうかもしれないさー」
CDに、胴着に、おばぁに貰った巾着に、と指折り数える凛君。
その様子がやっぱり可愛くて、私は微笑んだ。
そんな私を見て、凛君は首を傾げた。
暫く話していると、凛君がそういえば、と呟いた。
「ひなさん、あのネックレス、ぬーんち買ったんばぁ?」
「えっ?」
まさか聞かれるとは思わなくて、びっくりした。
「なんでって…」
「買ったぬ、いきががするようなやつあんに?」
「そう、だけど…」
「ぬーんち?」
なんだろう。
凛君にしては、珍しい反応な気がする。
でも表情は真剣で、はぐらかしちゃいけないんだろう。
私は鞄からネックレスを出して、凛君に差し出した。
すると、凛君は目を丸くする。
「あいっ?」
「凛君に」
「わん、に?」
自分を指さして問う凛君に、頷く。
「少し早いけど、誕生日おめでとう」
凛君は、一瞬の間の後に、ぼんっと音を立てるように顔を赤くした。
「じゅ、じゅんに!?
わんに!?」
また同じ事を、同じ仕草で言う凛君に、思わず笑みが零れる。
「うん。
凛君に、だよ」
そう言って、もう一度はい、と差し出す。
凛君はまだ信じられない、というような表情で恐る恐る受け取ってくれた。
「気に入ってくれるかは解らないけど…。
気が向いたら使ってみて」
そう言うと、凛君は首を大きく振る。
「かんなじ、使う!
でーじ大切にする!!」
そして、にっこりと笑って、
「にふぇーでーびる、ひなさん!」
そう言ってくれた。
それから凛君は、大事そうにネックレスを持って帰って行った。
もう、どうしようもなく心がぽかぽかだ。