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気が付けば、もうバレンタインだった。
前日にチョコとラッピングを買って大量生産に勤しむ。
当日は、それを持って登校だ。

「うきみそーちー!」

教室に着くと真っ先に慎に会って、笑う。

「おはよ!」
「うり、バレンタイン!」

そう言って、まさか愼から先にチョコを手渡された。

「え!」
「あい?
ぬーんち驚くんばぁ?」
「…いや、まさか愼から貰えるとは……」

正直思ってなかったんです。
後半を濁しながら笑うと、慎も笑う。

「まぁ、去年までぬわんだったら作ってねーらんさぁ」
「やっぱり」
「やしが、今年はやーが居るから」

作ろうと思ったんだ、なんて可愛い笑顔。
どうしよう、初めて純粋に愼が可愛いと思った。
袋から一つ取り出して、愼に渡す。

「愼、これ私から」
「わー!
にふぇーでーびる!」
「あ、それと、凛君にもあげてくれる?」

もう一つ差し出すと、愼がにやりと笑った。

「本命じゃなくていいんばぁ?」
「え!?何言ってんの!!」

そりゃ、学生のうちに一度くらいは本命誰かにあげてみたいなぁ、なんて思う。
だけど、それは…。

それは…?
私は、…私、は。
この世界の、人間じゃない。

思わず黙ってしまうと、愼はつまらなさそうに溜め息を吐いた。

「ま、くりやわんから渡しとくさぁ」

そう言って、チャイムが丁度響く。
そのチャイムが、やけに重く響いたように感じた。

その日の夜、凛君からありがとう、とメールが来た。
それが嬉しくて、でも何故か切なくて。
私は一人泣いた。






バレンタインから二週間。
こっちの世界に来て、あっという間に二ヶ月が経った。
明日からは三月だ。
もうすぐ、皆と過ごした三学期が終わる。

「ひな!」
「はいはーい?」

放課後愼に声を掛けられて顔を上げると、思った以上に近い位置にいて思わず身を引いた。

「三日暇?」
「暇だけど」

家にお雛様を飾ることもなく、一人ケーキでもしようと思っていたところだ。
あ、凛君の誕生日プレゼントだけはちゃんと渡さなくちゃなぁ、なんて思っていると、相変わらずの楽しそうな笑顔。

「じゃ、わんぬ家ね!
凛ぬ誕生日とわったーぬひな祭り!」

まさか誘われると思わなくて瞬き。

「え?いいの?」
「ぬー今更言っちょるんばぁ?」

当たり前、といつものようにサムズアップと一緒に愼が笑うから。
嬉しくて一緒になって笑う。

「ありがと!」

当たり前に私を誘ってくれて、ただ、嬉しかった。



放課後、私は一人町に出た。
凛君の誕生日プレゼントを探す為だ。

「んー…」

雑貨屋さんなんかを巡るけど、特別ピンとくるものがない。
どうしようかな、なんて思いながら道を歩いていると、露店があった。
沖縄にも露店あるんだなぁ、なんて眺めていると、あった。
凛君に似合いそうな、ネックレス。

「これ、ください!」

考える間もなくそれを指さして、お会計を済ませる。
プレゼントを鞄に仕舞って、その後ラッピング用紙とかも雑貨屋さんで買った。

帰り道、忘れ物は無いかと鞄の中を確かめていると、なにかに、ぶつかった。

「え?」

同時に手から離れた鞄。

「まっ…!」

前にもあった現象に、それがひったくりだとすぐに理解した。

やめてよ。
その中には、凛君の誕生日プレゼントが…!

すぐに追いかけようと思って、でも足が素直に動いてくれなくて。
あの日のように、地面に膝を付いた。

そして、あの人同じように、肩に、何かが触れた。

「待ってろ」

あの時のようにそう言った声は、もう聞き慣れた声だ。
あの時のように、追い越していく後ろ姿は輝く金髪で。
あの時のように、凛君が、ひったくり犯を蹴り上げた。

どうして。
どうして、いつも、そんなにいいタイミングで。
傍にいてくれるの。



「ありがとう…」

警察がくる前に、凛君に呟く。
凛君は、私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
その仕草に、落ち着いていく。

「いや…。
ひなさん、大丈夫?」

顔を覗き込むように問われて、頷く。

「凛君のお陰だよ。
ありがとう」

凛君は照れくさそうに笑う。
どうやら今回も友達と遊びに来ていたらしい。
また、悪いことしちゃったな、なんて思った。

少しして警察が来て、気を失っていた犯人を起こした。
起きた犯人は、私の顔を見て顔色を変えた。

「くっそぉ……!
ぬーんちやーがあぬネックレス買っちょるんばぁよ!!」

第一声にそう言われて、目を見張った。

この人は、金銭が欲しくてひったくりをした訳じゃないんだ。

「なんで、って……」
「わんが目ぇつけてたんばぁよ!
ありやわんぬネックレスさー、返せ!」
「やだ!」

考えるよりも先に声が出た。
凛君が驚いて私の顔を見る。

「ぬーんち!
やーみたいないなぐがつけるアクセじゃねーらん!」
「そう、だけど…!」

確かに、自分の為には決して買わない。
だけど。

「ならゆたさん!」
「だめ!」

反射で叫ぶと、警察官が確認をとってから私の鞄を漁る。
その中からさっき買ったネックレスを取り出した。

「やーがあびっちょるぬやくりか?」
「やさ!」
「…くんぐとーるむぬぬたみんかい……」

警察官は呆れたように呟いてから、荷物を返してくれた。
それから少し話してから、犯人を連れて去っていった。

「ひなさん」
「…私、帰るね」

無理矢理笑って、歩き出そうとする。
すると凛君は私の手を掴んだ。

「ちょっと待ってて」
「え?」

そう言ってから、凛君は手を離して、あの時のように近くにいた友達の方へと駆けていった。
そしてすぐに戻ってくる。

「送るさぁ」
「でも、遊んでたんじゃ…」
「いったーとやいつでも遊べるあんに」

当たり前に笑ってくれた凛君に、ありがとう、と呟いた。