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学校に着いてから、自力で職員室を探し当てる。
ノックをしてから扉を開けば、先生方の視線が私に向いていた。

「えっと…、おはようございます。
転入してきた金城、ですが…」
「金城さん?」

扉の近くのデスクにいいる先生聞かれて、私は頷く。

「あ、わんぬクラスやいびん!」

窓際に居る、一人の若い男の先生が手を挙げた。

「あー、そういえばちゅーからかぁ」
「うー。
はじみてぃーやーさい、金城さん。
わんや担任ぬ東真大和やいびん。
ゆたしくなー」

先生の言葉を聞いて私は目を丸くする。

って、所々解らないんですけど、先生!?
トウマ?
トウマでいいの!?

そんな心の中の葛藤を表には出さず、私は礼をした。

「金城ひなです。
よろしくお願いします」

一抹の不安を残しながら、私の新しい生活が始まった。



クラスは二年二組。
始業式が終わってから、担任と教室へ向かう。
例によって、“呼ぶまで待ってろ”と言われて廊下で待機。
転入生は皆こんな気持ちを味わっているのだろうか。

すっごく孤独だ。

「えー、という訳で、」」
「東真くーん、転入生居るってしんけんー!?」

担任の声を遮って一人の女の子が叫ぶ。
一気に教室内が騒がしくなるのを廊下で聞いてそわそわとしてしまう。

ちょ、待って!
全員して聞いた聞かない、知ってる知らないの話をしないで!

「そーがさいぞ、やったー!」

担任の一声でシンとする。
賑やかになるまでも一瞬だったが、静かになるのも一瞬だった。
ノリはいいけど先生の注意を聞ける生徒らしい。

そして私は生まれて初めて担任に感動した。
こうやってクラスに注意してくれる先生って存在するんだなぁ、うん、ホント。

「折角…折角わんがドキドキ気分で報告しようとうむたくとぅを!
わんぬ楽しみ返せー!」

響く生徒の笑い声。
待て、このクソ担任。

「金城さん、入って」

担任が少し寂しそうに教室の扉を開けて呼んでくれた。
その背中について教室の中に入れば、向けられたたくさんの視線。
気にしないようにして教卓の傍まで行けば、担任は私の肩に手を置く。

「金城ひなさんさぁ。
やったー、仲良くしろよー?」
「東真クン、うり、セクハラやっしー」

一番前の女の子が笑うと、担任は慌てて手を離した。
さっきのきっかけになった声と同じように思う。
ムードメーカーが教卓の目の前…これは先生も中々大変そうだ、と他人事に思った。

「愼!
やー、わんに恨みでもあるんばぁ!?
ひっちーひっちー、イジメか!?」
「わんがイジメるとしたら、こんな皆ぬ前でやらんさぁ」

そう言って笑った、愼と呼ばれた女の子は私に向けてウィンクをした。

「まぁいいさぁ……。
金城さん、自己紹介してくれるか?」

担任に言われて、私は頷く。

「始めまして、金城ひなです。
沖縄に来てまだ一週間しか経ってなくて…。
えっと、…右も左も解らない状態ですが、よろしくお願いします」

最後に礼をすれば、クラス全体が盛り上がる。
担任は静かにしろー、と言ってから私に席を教え、座るように言った。
席に向かってる最中、私が座る前に担任があ、と呟く。

「愼、やー、平古場だよな、苗字?」
「東真クンひっど!」
「あっはっは!
冬休み、やーぬ弟来てたさぁ、説明会」
「らしいねぇ。
まぁ、一年しか被らないからゆたさんさぁ」

その後、担任はいくつかの連絡と明日の時間割りを言って、解散となった。



ガタリ

隣に座る女子が立ち上がって私の横に立つ。

「金城さん!
東京ってやっぱ芸能人歩いちょる?」

女子の次に前の男子が振り向いて口を開く。

「いや、だぁよりも、ビルばっかってじゅんに!?」
「え?えっと…」

他にも大勢から質問を受けて、私は戸惑う。
いや、私の知ってる東京についてなら話せるんだけど、その東京はこの世界の東京と同義語なのだろうか。

「あーはいはい、ストップストップ」

なんて答えようか悩んでいると、愼さんが人を掻き分けて来た。

「愼、ぬーがや?」
「沖縄一週間目ぬ、しかも私ぬ好みであるいなぐに詰め寄るなんて良い度胸やっしー」
「いや、やーぬ好みなんて知らんし」

ぽつりと呟いた男子を愼さんが睨んだ。

「ぬーか文句あるんばぁ?」
「わ…わっさん、ねーらんさぁ」

両手を上げて降参を示しす男子に満足したのか、勝ち誇った表情をしている。
愼さんは私の方を向いてにっこりと笑った。

「わん…じゃなくて、私の家、来ない?
話そうよ」
「え?
えっと、」

私が再び戸惑うと、愼さんは私の腕をがしりと掴んだ。

「え?」
「さ、行ちゅんどー!」

そう笑顔で言って歩き出した。



愼さんの家に向かう途中で、私はようやく自己紹介をしてもらった。

「私は平古場愼。
あのクラスは私のものって感じがあるから、何かあったら言って?」

私のもの、とは。
中々強い女子とお近づきになったものだなぁ、としみじみ。

「うん、ありがとう」

当たり障りなく礼を言うと、彼女はサムズアップする。
一週間でこの生活には少し慣れたが、学校生活となるとまた変わってくる。
一部当たりが強いところもありそうだが、弟もいるらしいし面倒見はいいのだろう。
そんな子と仲良くなれたのはラッキーだろう。

「あとねー、うちなーぐち……沖縄方言の事なんだけど。
それ喋る先生も生徒も多いから、通訳欲しがったら言ってね」

そっか、沖縄方言。
すっかり存在を忘れてたや。
担任が喋っていたのも、きっとそうなんだろう。

私はじゃあ、と早速通訳を頼むことにした。

「わん、ってどういう意味?」
「あぁ、わんは、“私”とか。
つまり、一人称だね。
あと、やー、とうんじゅ、は二人称」

他にも、母音についてや、接続詞を教えてもらった。
覚えるまでには時間がかかりそうだが、何も知らないよりはありがたい。

「ありがとう、助かったよ。
愼さん、頼りになる!」

私がそう言うと、愼さんは唇を尖らせながら私の頬を抓った。

「“さん”付けは、だめ!」
「え、じゃあ」

どうしようかと戸惑うが、さん付けがダメということは、ちゃん付け?
いや、彼女のスタンスから言えば恐らくそれも違うのだろう。

「…しん?」

恐る恐る彼女の名前を呼び捨てにしてみると、愼は嬉しそうににっこりと笑った。