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愼の家は沖縄ならではの平屋で、私は地味に感動した。

「ウチにはばあ様が居るから、うちなーぐち、結構普通に使っちょるんやしが。
解んない言葉飛び出すかもしんないけど…まぁ、わんに聞いて」
「うん、ありがとう」

愼は戸を開いて、ただいま、と言った。
その後に続いて、家に入る。

「おじゃまします」

玄関はとても綺麗で、掃除が行き届いていた。
凄いなぁ、私もこれくらい部屋、整理しなきゃ。
まだまだ片付かない部屋を思い出して、私の口からは自然と溜め息が出た。
丁度、たった今私が閉めた戸が、ガラリと音を立てて開かれた。

「なまちゃーん」

そう言ったのは、声変わりもしていない、男の子。
私は振り返って、その男の子を見る。
その男の子も、私を見た。

「「あっ」」
「あー凛、お帰り」

パチパチと目を合わせる私たちに気付かずに、愼は私の肩を掴みながらにっと笑う。

「ねーねーぬとっくるぬ転入生やっし。
かなさんでしょ?」

ちょいちょい解らないけれど、転入生って聞こえたから私のことを説明してくれたのだろう。
会釈をすると、少年も会釈を返してくれる。

「こ、こんにちは」
「…こんにちは。
あぬ後、ぬーもなかった、ですか?」

付け足したように敬語を使う、凛と呼ばれた男の子。
彼は、先週私の鞄をひったくった犯人を捕まえてくれた子だった。

「うん、あの時はありがとう」

愼が丸い目をして私と男の子を見比べる。

「ぬー、やったー、知り合いなんばぁ?」
「先週、ひったくりにあったとき助けてくれたんだよ」

そう言うと、愼がえー!と驚いた。

「めっずらしいくとぅもあるんばぁね!
凛がいなぐ…、女の子助けるなんて!」
「え、どういう事?」

当たり前に助けてくれた凛君だったから、愼の言葉の意味が解らず思わず聞き返した。
そうすると、愼はにやにやと笑い始めた。
あ、なんかこれ、凛君に、優しくない雰囲気?
ちらりと凛君を見てみたら、凛君は、すっごい目付きで愼を睨んでいた。
わぁ、ごめん…。

「凛ねー、女の子苦手なのよ。
なんか、受け付けないんだって」
「へぇ」
「だっからさぁ、女の子困ってても助けないくとぅ、しょっちゅうあるんばぁよ。
最っ低な男やっしー!」

愼は凛君を指差して笑った。

「し、愼…」
「いつもやっし。
気んかいしなくていい、です。
…えっと、」
「あ、私は金城ひな。
よろしくね」
「うー、俺は平古場凛やいびん。
ゆたしくうにげーさびら、…金城さん」

にっと笑った凛君。
その表情は小学生らしく可愛くて、思わずどき、と胸が大きく跳ねた。
愼に肩をとんとんと叩かれてたから視線を送ると、愼はにっと笑っている。

「部屋、行こ?」
「あ、うんっ」

先に歩き出した愼を、私は慌てて追いかけた。


暫く二人で話していた。
愼は第一印象の通りサバサバとした女の子で、何に対してもきっぱりと返事をしてくれるので話しやすい。
学校についても一緒に聞けたので明日からの不安が少し軽減した気がした。

夕方になってから、愼はあ、と呟いた。

「ひな、門限は?」
「あー、それは大丈夫。
一人暮らしだから」

私が言うと、愼は目を丸くした。

「あいっ!?
やー、一人暮らしなんばぁ!?」
「うん、まぁ…」

へぇ、と興味津々に呟く愼は、ミニテーブルに身を乗り出して私に問う。

「寂しい?楽?」
「ゎ、まぁ、楽……かな」

日々の生活を縛られないことは、随分と楽に感じる。
それに嘘はなかった。

「はーや、羨ましいっ…。
わんも一人暮らししたいーっ」

そう呟いて、愼はミニテーブルに伏せた。
その様子を見て、私は苦笑した。

「ひなー」
「ん?何?」
「私、やっぱりアンタ好みやっし」

教室でも言われた事を、また言われた。
どうしてわざわざまた繰り返すのだろう、と思って首を傾げると、彼女は普段楽しそうにしている表情を真剣なものへと変えて私の頬に触れる。

「わんぬいなぐんかいならん?」

言われた言葉に、私は息を飲んだ。
ただ、問題があるとすれば、私がその言葉の意味をしっかりと理解していないということだ。

「愼、どういう…」
「ねーねーっ!」

ガッ、と扉が開いた。
何事かと思って扉の方を見たら、そこには凛君がいて、扉を開いたのが凛君なのだと解る。
シン、とした部屋に愼の笑い声が響いた。

「わん、いなぐやしちゅんやくとぅ、かなさんぬやいきがやっしー!
くぬ、ふらー!」

凛君の額をつついて、ぷぷ、と笑った。
凛君はカァ、と顔を赤くして、くぬふりむん、と叫んで扉を閉めた。
その様子を見て、愼はまた大きな声で笑った。

なんだ、このやり取り。
まるで理解できないけど。

「愼、凛君が来る前からの単語が一切解らないのだけど?」

そう呟けば、愼は笑い声を静めて、にやりと口角を上げた。

「解らない様んかい言ったからね」
「あんたちっとも優しくないわ」

私は愼の言葉を聞いて、考えを改めることにした。
それでもやっぱり愼は笑っていて、

「お褒めの言葉ありがとう」

とわざわざ標準語で言った。

「…さて、と。
私、そろそろ帰るね」
「えー」
「帰りますー!」

私がそう言えば、愼は渋々立ち上がった。
玄関まで一緒に行けば、廊下には凛君がいた。

「お邪魔しました」

そう声を掛ければ、凛君はビクッと肩を揺らして、振り返った。

「あ、はい」
「ぬーが、“あ、はい”やっし!
あんまーんかい伝えといて。
ひな送ってくるって」
「おー」

凛君は愼の言葉に不機嫌になって、乱雑にドアを開ける。

「言わなくてゆたさんさぁ?
ひなに、また来てくぃみそーれーって!」
「ふりむん!」

聞こえた凛君の言葉と、ドアを閉める大きな音に、愼は大声で笑った。



道が解ったところで愼と別れて、一人家路を歩く。
家に着くと、シン、とした部屋が広がっていた。

「ただいま」

呟いても小さな声が部屋に響いて消えていくだけだった。
荷物を置いて、部屋着に着替えてテレビを点ける。
ブラウン管の中では、お笑い芸人が面白くもないネタを披露していた。

「ご飯、食べよう」

誰に告げるでもなくそう呟いて、私は調理を始めた。