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一月も終わる頃になって、学校生活にも慣れた。
部屋も片付いたし、沖縄方言も少しずつ理解出来るようになってきた。
友達も出来たし、部活にも入って最近は日々を充実させている。

たまに愼の家で夕ご飯をご馳走になるときもあった。
気付けば、凛君は私をひなさんと呼ぶようになっていたし、愼の家族もひなちゃん、と呼んで可愛がってくれている。

そして、金曜日。
明日は部活もないから、諸々買い出しを企んでいた。

「ひなー!」

買うものを頭の中で思い浮かべながら帰り支度をしていると、愼が私の机に走ってきた。

「なに?」
「あんね、明日花見しよ!」
「お花見?」

にっこりと笑いながらそう聞かれて、私は首を傾げた。

「そ!
あんまー達がお弁当作ってくれるらしいんやしが、うちぬ家族とまじゅん!
ゆたさん?」
「うん、もちろん」

そういえば、沖縄は一月に桜が咲くんだっけ。
どうやら実際には“お花見”というよりも“飲み会”のようだけど、大義名分と言うやつなのだろう。
断る理由もないので頷くと、愼は今以上の笑顔を浮かべて、喜んだ。



家に帰ってから、私はクッキーを作り始めた。
お弁当を作って貰う代わりに、というのもなんだけど。
作って貰うばかりじゃ申し訳ないから作ることにしたのだ。
焼き上がったクッキーを頬張って、それなりの出来に安心した。






愼と凛君、おばさんにおじさん、おばあさんの六人で、桜の咲いてる公園に向かった。
散り始めた頃だが、見栄えもいい頃だった。

「わ、赤い!」

思わず呟くと、隣で凛君が笑う。

「ひなさんって、桜好きそうなイメージさー」

そう言われて、私はあはは、と笑った。

「確かに、好きだけど…」

桜といえばソメイヨシノ。
ここにある桜とは似ても似つかない。

それは凛くんも分かっているのか、あぁ…と呟いた。

「…うちなーぬ桜や、やまとぅとは違うからやぁ」
「うん…。
それもあるけど、」

思わず言葉を止めると、凛君は首をこて、と傾げた。
その表情を見て、苦笑する。

「家族、思い出すから」

そう言うと、凛君はあ、と呟いた。
そして罰が悪そうに目を伏せる。

悪いことしたな、なんて思った。
凛君は助けてくれた恩人なのに。
どうしようか、って思って、桜を見上げた。

「…凛君。
桜、綺麗だよ」
「……だーるなぁ」
「今年の花見も、いい思い出になる。
平古場家の花見に参加させてもらったからだね」

凛君はぱっと顔を上げた。
目を合わせて、笑えば、凛君もへらりと笑った。

「だと、わったーも嬉しいさー」

よかった、笑ってくれた。
私たちは、おばさん達が敷いてくれたシートの方へ向かった。
シートには沢山のお弁当が並んでいて、思わず感動してしまった。

「おばさん達凄ーい」

両手を合わせて言うと、嬉しそうに微笑むおばさん達に、箸と紙皿を貰って早速頂くことにした。

「いただきます!」

一口食べただけでまた感動。
料理が上手って羨ましい…。

「あー、美味しい!
教えて貰いたいです!」
「あら、ならちゅーうち来る?」

まさかのおばさんの切り返しにえ、と呟く。
隣で愼が目を輝かせた。

「あんまーナイス!
泊まりにおいでよ、ひなー!」
「え、え?
でも、」
「いいから!
ねぇ?」

愼の問いにおばさんもおじさんもおばあさんも頷く。
家主にまでOKを貰った後じゃ断るにも断れなくて、私は首を縦に振った。

「じゃあ、お邪魔します!」

何度も夕飯をご馳走にはなってるけど、お泊まりは初めてな訳で。
少し緊張しながらお花見を続行した。



一度愼の家族とは別れて、愼と二人で家に帰る。
お泊まりの荷物を取りに行くためだ。

「ひなぬ家初めてー!」

嬉しそうに笑う愼に、思わず私も笑った。

「でも、愼の家の方がずっと素敵だよ。
綺麗だし、温かいし」
「えー、そう?」

お母さんとか五月蠅いし、と呟く愼が思わず羨ましくなる。

「居なければ居ないで寂しいよ?」

そう呟くと、一瞬の思案の後、確かに、と頷いた。

「わん、人よりお喋りやくとぅ。
結構寂しいかも?」
「でしょ?」

愼はあはは、と気恥ずかしそうに笑った。



話していると、行きは長かった道のりがあっという間だった。
家に着いてから、愼に座って待っていて貰う。

「ちゅらさん。
整理整頓されちょるさー」
「見えるところはねー」

部屋を見回しながら呟く愼に、苦笑する。
収納の中やロフトは人に見せられるようなものじゃない。

「ご飯とか作るんばー?」
「うん、出来る限りね」
「はーや、偉い」
「外食はやっぱお金かかるから」

そう言うと、お母さんみたい、と愼がくすくす笑った。
でも、改めて一人で生活してみると、今までの金遣いの荒さに溜め息が出た。
自分ではあんなに節約してるつもりだったのに、母親から見たらまだまだだったのだろう。

「今になって、親の偉大さを理解したよ」

その呟きに、愼はへぇと相づちを打った。



支度を終えてから愼の家に向かうとき、おばさんから愼の携帯に連絡があった。
夕飯の材料で足りないものの買い出しを頼まれたらしい。

「あんまー…自分で行くぬがめんどーやくとぅ…娘をこき使いすぎさー」

ぶつぶつと呟く愼の言葉に、思わず笑ってしまう。

「おばさんらしいじゃん」
「やしがー!」
「その代わりお菓子買っていいんでしょ?
文句言わない!」
「うー」

しぶしぶ頷く愼の様子が可笑しくて、私は久々に声を上げて笑った。
そんな私を見て、一度はきょとん、とした愼も一緒になって笑う。

「へーくけーろ!」
「うん!」

愼と同じクラスになれて、よかった。



予定通りおばさん達に料理を教えてもらいながら、愼と夕飯を作る。
不格好な料理も、凛君とおじさんは美味しそうに食べてくれて、安心した。

食卓を家族で囲んで、話ながら食べる。
それだけのことが、幸せに感じた。