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そして、あっという間に日曜日になった。
家事を済ませてから家を出る。
そういえば、凛君と外で会うってのは初めてかもしれない。
初めて会った日や、偶然見かけた日を除けば、の話だけど。

実を言うと、約束した時点では愼と三人で会うのだと思ってたけど、どうやら愼は彼氏とデートらしい。
という事は、必然的に凛君と二人きりな訳で…地味に、柄にもなく、緊張しています。

そう。
何故かタンスをひっかき回したり、新しく服買っちゃおうかな!?とか思っちゃったり。

私、どうしたんだろう。
道端の石ころを蹴って溜め息を吐いた。

海に着いて辺りを見回したけど、まだ凛君は来てないようだった。

「ふぅ」

息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。
取り敢えず、もうここまで来てしまったんだ。
今日は、楽しもう。

自分の気持ちについて考えるのは後にして、私は紙袋に入れた合格祝いを視界に入れた。

喜んで貰えるといいなー。

「ひなさん」

真後ろから声が聞こえて、私は心臓が止まりそうになるほどびっくりした。

「り、凛君…」

心臓に手を当てながら振り返ると、凛君は驚いたような不安そうな表情をしていた。

「わ、わっさん。
大丈夫?」
「う、うん。
ごめんね、ぼーっとしてた」

苦笑すれば、安心したように無邪気に微笑む凛君。

「わん、でーじビビったさー」
「私もびっくりしたー」

二人で、海岸に響くくらいに大きな声で笑った。

お互い落ち着いてから、凛君がその場に座った。
私も並ぶようにその場に座って、海を見た。

「綺麗」
「やー」

私の呟きに、優しい声音で頷く凛君。

「ひなさん」
「んー?」
「デートするんどー!」

思っていて言葉にしなかった事をさらりと凛君が言ってみせる。
私は一瞬目を見張るけど、すぐに頷いた。

「うん、行こ!」

せっかくの、“合格祝い”だから。ね。
楽しまなくちゃ、損でしょう。



そして、初めて凛君と町を歩く。
あまり入ったことのない店や、ゲームセンターにも入って何気に楽しい。

「凛君はよく、ここらへんで遊ぶの?」
「まぁ、道場の奴とか」
「…道場?」

私が目をぱちくりとさせると、凛君もぱちくりとさせた。

「わん、沖縄武術ぬ道場通ってるんばぁよ」
「!だからあんなに強いんだ!」
「知らなかったんばぁ?」
「うん、初めて知った!
沖縄武術ってどんな?
空手とか?それとも柔道的な?」

初めて聞く単語にわくわくして、私は凛君の顔を覗いた。

「え、と……近いぬや空手、さー。
トンファー使う奴もいるんやしが」
「トンファー!?
確実にアニメの世界!
凄いねぇ、凛君……。
私、武術なんて痛そうで出来ないよ…」

そう呟くと、凛君が笑った。

「ひなさんや武術なんか向いてないさー。
わんが守るからゆたさん」

凛君が素面で恥ずかしい台詞を吐いたけど、私は嬉しくて笑った。

「ありがとう、凛君」

心がぽかぽかになった。
凛君の優しさが、嬉しかった。



あっという間に初デートも終わって、二人で平古場家に向かう。
なんでも、ご馳走を用意してるんだとか。
私と祝うために今日までとっといてくれたって言うんだから、平古場家の皆には感謝してもしきれないほどだ。

「私も一緒でいいのかなー…」
「主役がいいってあびっちょるんばぁよ?
気にしなくていいさー」

思わず呟くと、凛君は優しい笑顔。
本当に。
優しい人たち。

「ありがとう、凛君」

そう言って、思い出した。
手にある凛君への合格祝い。

「凛君、これ」

そう言いながら、差し出す。

「え?」
「合格おめでとう」

凛君は私の差し出した紙袋と私を見比べる。

「わんに?」
「うん。
たいしたものじゃないけど」

私がそう言うと、凛君は勢いよく頭を振る。

「そんなくとぅねーらん!
ひなさんから貰うむぬなら、なんでも嬉しいさー!」
「あ…りがとう、凛君」

なんだかあげた私が貰ったような気分だ。

「くり、あけてもゆたさん?」

紙袋を揺らしながら問う凛君に、頷く。
凛君は嬉しそうに笑ってから、包みを開けた。

あげたのは、ストラップだ。
凛君の目と同じ、青い石のストラップ。

携帯を買ったって聞いたから。
仮に携帯に付けなくても、別のものに付けてもらえるかもしれないから。

「ごめんね、こんなもので…」

開けたまま動かない凛君に謝ると、また凛君は頭を振る。

「じゅんに、でーじ、でーじ嬉しい。
にふぇーでーびる、ひなさん!」
「っ、どういたしまして!」

可愛い笑顔を見せてくれた凛君に、私も笑顔で返した。
凛君は携帯にストラップを付けて、その携帯を見せてくれる。
直ぐにつけてくれるなんて、嬉しいなぁ、なんて思ってると、あっ、と声を上げて携帯を操作する。

「ひなさん、アド交換して!」
「あ、うんっ、しよ!」

すっかり忘れてたアドレスの交換を、凛君が既に慣れた手付きで先導してくれる。
小学生でこの能力を所持しているとは。
この子、絶対いい男になるな、なんて思った。

「っと!
にふぇーでーびる、ひなさん」
「私も、ありがとー」

またさっきと同じ笑顔の凛君に、今度は私もお礼を言った。

「じゃ、いちゅんどー!」

いつだかの愼みたいな言い方に、心の中で微笑んだ。