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平古場家に着くと、もう中は美味しそうな匂いで一杯だった。

「おかえりー」

にやにやと笑う愼が迎えてくれる。

「どうだった?ひな!」

変わらない笑顔の愼に、楽しかったよ、と笑う。

「じゅんに?
凛、アホなくとぅしなかった?」

ずずい顔を近づけながら聞かれるけど、楽しかったのは事実だ。
頷こうとすると、隣で凛君が溜め息を付いた。

「ねーねー、シツコイ」

めんどくさそうな表情に、愼は舌打ちをした。

「別にいいあんに?
生意気な弟よりも、かなさん友達ぬ幸せぬ方が大事さー」
「へーへー」

変わらない表情で適当に頷く凛君と愼に、私はこっそり溜め息を付いた。
この姉弟は、なんで私を間にしてこういった言い合いを繰り広げるんだろうか。
少しは落ち着いて欲しい。

「えー、愼、凛!
ひなちゃん来たならへーくくまー来て!」

おばさんの声は鶴の一声だと思う。
愼も凛君も、さっさと廊下を歩き始めた。
私も、それに着いていった。

居間についてから、準備されていた御馳走に、私は目を丸くした。
凛君も驚いてるみたいで、隣で一言も発さない。

「ぬーんちこんな豪華なんばぁ?」

凛君が問うと、おばさんはくすくすと笑う。

「愼に、ちゅーや凛とひなちゃんが初デートだって聞いたからついー」
「!?」

そして、私と凛君の気持ちは一つになる。

「愼んんん!!??」
「ねーねー!!??」

愼を睨みながら叫ぶと、愼は反応を予想していたらしい、指で耳栓をしていた。
それを何事もなかったように外してから、笑う。

「ぬーがや?」

その返答があまりにいつも通りだったから、私と凛君はほぼ同時に脱力した。
食事はどれも最高に美味しかったです、えぇ。



夕食を終えてから、ケーキも頂く。
ケーキを見ながら、そういえば愼達は誕生日いつなんだろう、と疑問に思った。

「愼って誕生日いつ?」

まずは隣にいる愼に聞く。

「わんや五月五日」
「へぇ、こどもの日なんだー」

なんか可愛いな、なんて思いながら呟くと、愼がにやにやしながら呟く。

「凛ぬ誕生日も聞いてほしいんやしが?」

愼が凛君のことでこんな表情をするのは、あまり凛君に優しくない展開だ。
それでも、やっぱり気になるものは気になるもので…。
私は凛君に問う。

「凛君は?
誕生日、いつ?」

凛君は視線をさまよわせる。
どうしたんだろう、とその様子を見ていると、俯き加減によっては上目遣いに見える表情で呟く。

「あびらなくちゃ駄目?」

珍しく、素直なというか殊勝な、というか。
そんな口調で、思わず言葉につまる。
そんな私の様子を見て、愼は溜め息を吐いた。

「へーくあびれー、ふらー」

愼に睨まれて、凛君は舌打ちをした。
そして、凄く、言い辛そうに。
日にちを口にした。

「三月三日」
「え?」

思わず聞き返すと、凛君は真っ赤になった。
なんか、悪いことした気分だ。

「なんか、二人とも可愛い日に生まれてるんだね」

せめてもの償いに、二人とも、と呟いた。
愼はクスクス笑うし、凛君は真っ赤なままだし。
なんか申し訳なくて俯く。

「ゆたさんさー。
覚えて貰いやすいあんに?」

おばさんにそう言われて、凛君は溜め息を吐いた。

「同時にからかわれるんばぁよ、なまみたいんかい!!」

ビシッと効果音が付くくらいに鋭く愼を指さす。
その先で、愼は変わらずににやにやしていた。

「いつまでも気にするなんて小さい男さー」

一切気にした様子もない愼に、凛君は再び溜め息を吐いた。

「やしが、じゅんに誕生日も名前も性格も愼ぬ方がいきがで、凛ぬ方がいなぐさー」

おばあさんがカラカラと笑うのを見て、凛君は涙目になった。

「おばぁ、わんぬ味方じゃないんばぁ!?」
「わんやうむったくとぅあびっただけさー」

変わらずに笑うおばあさんの様子に、平古場家の女は確実に血を受け継いでるな、なんて思った。

「いなぐなんて信じられねーらん…」

そう呟く凛君を見て、おじさんが肩を叩く。

「凛、ウチぬいなぐんかい慣れると、外ぬいなぐがむーる天使んかい見えるさー」

まさかの言葉に、私は思わず吹き出した。