8
平古場家に着くと、もう中は美味しそうな匂いで一杯だった。
「おかえりー」
にやにやと笑う愼が迎えてくれる。
「どうだった?ひな!」
変わらない笑顔の愼に、楽しかったよ、と笑う。
「じゅんに?
凛、アホなくとぅしなかった?」
ずずい顔を近づけながら聞かれるけど、楽しかったのは事実だ。
頷こうとすると、隣で凛君が溜め息を付いた。
「ねーねー、シツコイ」
めんどくさそうな表情に、愼は舌打ちをした。
「別にいいあんに?
生意気な弟よりも、かなさん友達ぬ幸せぬ方が大事さー」
「へーへー」
変わらない表情で適当に頷く凛君と愼に、私はこっそり溜め息を付いた。
この姉弟は、なんで私を間にしてこういった言い合いを繰り広げるんだろうか。
少しは落ち着いて欲しい。
「えー、愼、凛!
ひなちゃん来たならへーくくまー来て!」
おばさんの声は鶴の一声だと思う。
愼も凛君も、さっさと廊下を歩き始めた。
私も、それに着いていった。
居間についてから、準備されていた御馳走に、私は目を丸くした。
凛君も驚いてるみたいで、隣で一言も発さない。
「ぬーんちこんな豪華なんばぁ?」
凛君が問うと、おばさんはくすくすと笑う。
「愼に、ちゅーや凛とひなちゃんが初デートだって聞いたからついー」
「!?」
そして、私と凛君の気持ちは一つになる。
「愼んんん!!??」
「ねーねー!!??」
愼を睨みながら叫ぶと、愼は反応を予想していたらしい、指で耳栓をしていた。
それを何事もなかったように外してから、笑う。
「ぬーがや?」
その返答があまりにいつも通りだったから、私と凛君はほぼ同時に脱力した。
食事はどれも最高に美味しかったです、えぇ。
夕食を終えてから、ケーキも頂く。
ケーキを見ながら、そういえば愼達は誕生日いつなんだろう、と疑問に思った。
「愼って誕生日いつ?」
まずは隣にいる愼に聞く。
「わんや五月五日」
「へぇ、こどもの日なんだー」
なんか可愛いな、なんて思いながら呟くと、愼がにやにやしながら呟く。
「凛ぬ誕生日も聞いてほしいんやしが?」
愼が凛君のことでこんな表情をするのは、あまり凛君に優しくない展開だ。
それでも、やっぱり気になるものは気になるもので…。
私は凛君に問う。
「凛君は?
誕生日、いつ?」
凛君は視線をさまよわせる。
どうしたんだろう、とその様子を見ていると、俯き加減によっては上目遣いに見える表情で呟く。
「あびらなくちゃ駄目?」
珍しく、素直なというか殊勝な、というか。
そんな口調で、思わず言葉につまる。
そんな私の様子を見て、愼は溜め息を吐いた。
「へーくあびれー、ふらー」
愼に睨まれて、凛君は舌打ちをした。
そして、凄く、言い辛そうに。
日にちを口にした。
「三月三日」
「え?」
思わず聞き返すと、凛君は真っ赤になった。
なんか、悪いことした気分だ。
「なんか、二人とも可愛い日に生まれてるんだね」
せめてもの償いに、二人とも、と呟いた。
愼はクスクス笑うし、凛君は真っ赤なままだし。
なんか申し訳なくて俯く。
「ゆたさんさー。
覚えて貰いやすいあんに?」
おばさんにそう言われて、凛君は溜め息を吐いた。
「同時にからかわれるんばぁよ、なまみたいんかい!!」
ビシッと効果音が付くくらいに鋭く愼を指さす。
その先で、愼は変わらずににやにやしていた。
「いつまでも気にするなんて小さい男さー」
一切気にした様子もない愼に、凛君は再び溜め息を吐いた。
「やしが、じゅんに誕生日も名前も性格も愼ぬ方がいきがで、凛ぬ方がいなぐさー」
おばあさんがカラカラと笑うのを見て、凛君は涙目になった。
「おばぁ、わんぬ味方じゃないんばぁ!?」
「わんやうむったくとぅあびっただけさー」
変わらずに笑うおばあさんの様子に、平古場家の女は確実に血を受け継いでるな、なんて思った。
「いなぐなんて信じられねーらん…」
そう呟く凛君を見て、おじさんが肩を叩く。
「凛、ウチぬいなぐんかい慣れると、外ぬいなぐがむーる天使んかい見えるさー」
まさかの言葉に、私は思わず吹き出した。