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気が付けば、ひなはいつの間にか、シングルを数枚出していた。
売り上げは中々良いらしい。

方言なのが売り上げに貢献してるのかな、なんて、ひなは苦笑していた。

その時、お前の歌が上手いからだよ、と恥ずかしがらずに言えてたら、もう少し俺たちの関係も変わってただろうか。
なんて、いつも後悔してるんだ。



冬も終わりを告げる頃、ひなから電話があった。
丁度部活で出れなくて、慌ててかけ直してみれば、嬉しそうに凛ちゃん、と呼ぶ声が聞こえた。
良いことがあったんだなぁって思って、無性に嬉しくなる。

「ぬーがや?」
「わん、テレビ出るんばぁよ!」

さぁっと、体が冷えてく思いだった。

「し、しんけん?
かんなじ見る!」

電話の向こうで、恥ずかしそうにひなが笑った。



嬉しかった。
ひなからの電話が。
ひなが、有名になっていく姿が。

でも、その度にひなとは連絡がつかなくなっていく。

それが、俺には耐えられなかったんだ。































始めて君がテレビに出る日、俺は部活の後に寄り道を一切せずに家に帰った。
一人で部屋で見ようと思っていたけど、母さんに居間にあるテレビで家族と見ることを強制させられた。
家族にとってひなは立派なアイドルだった。

出演するのは有名な音楽番組だ。
正直トークとかも少ない番組で、ひなの歌が認められたんだ。
そう思うと少しの悲しさと、寂しさと、嬉しさが混じる。
よく見るタイトルが流れ始めると、母親が俺の肩を強く叩く。

「始まったんどぉ、凛!」
「かしまさい、あんまー!」

俺はそう言ってから、画面を見つめる。
一組ずつ現れる有名なアーティスト。
一番最後に出てきたのが、ひなだった。

「ひなちゃん、ちゃらかーぎー!」

言ったのは、たぶん姉貴。
正直、俺はそんな姉貴の言葉も、その後に母さんたちが言っていた言葉も、まともに耳に入らなかった。

別人かと思った。
俺は勢いをつけて立ち、部屋に戻る。
母親が何か言っていたけどそんなこと知らない。

ガンガンと頭の中で何か音が響く。
心臓、……?
まさか、そんな訳無い。
心臓がこんな音立てるもんか。
なら、なんで、何が…。

ひな、

ひな………。



なぁ、今の俺達の関係、なんて言うんだろうな。



部屋のテレビを付ければ、司会者が一人一人挨拶をして回っていた。
そして、やっぱり最後に、

『期待の新人、金城ひなさんです!』
『よろしくお願いします!』

一生懸命に礼をして喋るひなが映っていた。
あぁ。
俺よりもあんな小さな体で、ひなは頑張ってるんだ。

『金城さんは沖縄出身だとか?』
『はい、未だにうちなーぐち…、方言ぬ方が先にでちゃうんです』
『大変だね』

苦笑するひなに司会者が笑って、今日はよろしく、と言った。



番組も中頃。
つまり皆が飽きるような頃、ひなが歌う為に席を立った。
少しして、舞台に画面が切り替わる。
ひなが独り、舞台に立っていた。

聞き慣れた音楽が流れ出したのは、この前発売したシングルだった。
うちなーぐちで紡がれる歌。
優しいことに歌詞の下に、標準語訳が描いてあった。

一生懸命歌うひな。
笑って歌うひな。
知ってるはずなのに、知らない人の様に感じた。

俺は無意識の内にテレビに手を伸ばして触れる。
溢れる涙は止まらなかった。

「ひな、ひな…………。
何処にも、行くなよ…」

出来るなら、ずっと隣に居て欲しかったんだ。

ずっと、ふたりで、笑って居たかったんだ。






今も毎日一通のメールが届く。
ひなからの、日記のようなメールだ。
でも、前に比べたらとても短かったし、夜来ていたのに、時間はまばらになった。
電話を掛けても繋がることは中々なくて。
いつの間にか俺からも一日一通のメールが当たり前になった。

しょっちゅうテレビに映るようになったひなを見逃さないために、俺は貯めていた金でDVDプレーヤーを買った。
録画も出来る奴だ。
どんどん重なっていくDVDとCDの数が、まるで俺達の距離のように重なっていった。
最近はその積み重なったものを見て、ため息を吐くばかり。

なぁ。
ひなにはまだ一度も言ったことないけど、CD、全部買ってるんだぜ?
テレビも全部見てると思う。
お気に入りのヘッドホンからは、ひなの曲ばかりが響くんだ。

こんなに俺はひなが好きなのに。
いつの間に俺達は、こんな遠くにいるんだろう?

もう、近付くことは無いのだろうか。