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安室さんがポアロを辞めても、あたしは相変わらずポアロの常連客だった。
「ひなさん、いらっしゃいませ!」
出会ってから一年も経てばすっかりお友達になった梓さんに迎えられて、あたしはいつものカウンターに座る。
今日は混んでいるらしく、空席が少ない。
パスタと紅茶を頼んでから、スマホをぽちぽちといじる。
週末、学生時代の友人とショッピングの予定だ。
その待ち合わせ時間を決めていなかった。
ふと、隣に誰かが座ったのがわかった。
荷物がはみ出てないか確認した時に、美人の外国人が視界に映る。
会釈をしてまたスマホの操作に戻った。
いつも通りパスタを頂いてから、本を読み始めた。
「そっくりね。
kitten」
横の女性に声をかけられて、ふと顔を上げる。
整った顔の口角が綺麗に上がっている。
「え…?」
そっくり?kitten?
がっつりあたしの方向いて話してるけど、本当に私に対しての言葉だろうか?
「そう。
何も知らないのね」
ゆったりとした、耳に残る話し方をする人だ。
「もう大丈夫よ。
知らないままでいられるわ。
あの子の望んだまま、ねぇ、お姫様?」
そう言って、彼女は店を出て行った。
「…え?」
放たれた言葉は少ないのに、全てが脳に焼き付けたように残っている。
でも、一言も、何に対しての言葉なのかがわからなかった。