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あの美女との邂逅から季節が一つ変わったころ、コナン君が居なくなった。
両親のところへ帰ったらしい。
前触れもなく、電話だけでいなくなってしまった彼は今外国で暮らしているそうだ。

蘭ちゃんは暫く泣いていたけれど、妃さんが週末だけ戻ってきていたり、幼馴染の新一くんが帰ってきたりと日常に戻るまでに時間はかからなさそうだ。



あたしの生活は変わらなかった。
平日は仕事に行って、金曜の夜はポアロに行く。
年に三回お墓参りに行って、たまに友達と遊ぶ。
好きな人もいない、婚活もしていない。
ひとりきり、ただ、生きていた。






たまたま、だった。
なんとなく足が伸びた。
それだけの母校。
しかも中学。

その校門の前に、グレーのスーツを着た安室さんが立っていた。

「あむ、ろ…さん?」

思わず声に出して、彼の名前を呼ぶ。
彼はちらりとあたしを視界に入れてから、安室さんらしからぬ笑みのない真っ直ぐな表情で立っていた。

違う。
安室さんじゃない。

「…ふるやくん?」

彼の名前を呼ぶと、彼はゆっくりと瞬きをした後、口角を上げた。
記憶に残る、彼の笑い方と同じだった。

「ひな」

当時教室の中でだって、まともに話したことがない彼は、安室さんと同じ声で、安室さんと違う表情で、あたしの名前を呼ぶ。
なにもわからない。
でも、きっと、安室さんは降谷くんで、降谷くんは安室さんだった。

「…おかえりなさい」

そう言うと、彼は穏やかな声で、ただいま、と言った。