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月に何度か通うようになった喫茶店ポアロ。
上があの有名な毛利探偵事務所だと知ったのは、暫く経ってからだった。
小五郎さん、蘭ちゃん、コナンくんとは夕食が重なることもあって、挨拶はするくらいの仲になった。

今日は店内にあたし以外のお客さんはいなくて、店員も安室さんだけだ。
あたしが早く帰れば安室さんも早く帰れるかな、と思って小説をいつもより早く閉じた。

「…今日はこの後ご予定が?」

流石の安室さん。
どうやら彼は小五郎さんの弟子らしく、探偵業をポアロと掛け持ちでやっているらしい。
あたしが小説を閉じたのに目敏く気付き声をかけてきた。

「いえ、なにも」
「もし、僕の帰る時間気にしてくれてるなら、大丈夫ですよ。
ご自身の時間を大切にしてください」

にこりと微笑む彼に、気遣っては逆に失礼かな、と思ってあたしは頷いた。

「ありがとうございます」

閉じた小説を開こうか悩んだが、なんとなくそんな気分にも戻れずあたしは外を見た。
歩く人が疎らになっていた。
雨も相まって、今日はどことなく静かだ。

「静かですね」

一瞬、自分が口に出したのかと思った。
正面にいた安室さんを視界に入れると、いつものように微笑みを浮かべている。

「同じこと思ってました」

そういうと、彼は笑みを深くした。

「二城さんは、昔から本を読まれるんですか?」
「まぁ、比較的?
本の虫って程ではないですけど」

家にあるのは文学書というよりも漫画やラノベ等、軽く読めるものの方が多い。

「好きな作家さんとかいるんですか?」

何人か、恋愛やファンタジーを中心に作家を答えると、安室さんはわからないです、と笑った。

「恋愛やファンタジーですから、安室さんみたいに探偵さんとか忙しい方はあまり読む機会ないかも」
「確かに、あまりないですね。
ファンタジーはちょっと読んでみようかな」
「ぜひ。
まぁ、それもちょっと恋愛色強いんですけど」
「女性らしくていいと思いますよ」

ふふ、と笑うと、安室さんもふふ、と笑った。

外は雨が降っていて、どこか肌寒くも感じるけれど、この店はなんとなく温かかった。






とある金曜の仕事帰り、久しぶりに服でも買うか、とあたしはひとりショッピングモールに向かった。
明日来てもよかったけれど、明日はお墓参りに行きたいし、明日出掛けるなら日曜は家でゴロゴロしていたかった。

お気に入りのショップを何店か覗いて、靴下屋さんも覗いて。
お気に入りをニ着購入。
うん、いい一日だ。

たまたま通りかかった本屋に好きな作家の新作がないかチェックしに入る。
残念ながら新作はなかったが、見覚えのある髪色が本棚を眺めていた。


「…安室さん?」
「あれ、二城さん。
こんばんは」
「こんばんは」

彼に近づいて、彼が見ていた本棚を見ると、あたしがオススメした作家の名前があった。

「あ」
「この中に、二城さんのオススメありますか?」

言われて、タイトルを一通り眺める。

「…男性にオススメするなら、これか、これですかね」

恋愛色少な目の二冊を手に取る。
顎に手を添えてふむ、と彼は頷いた。

「じゃあ、この二つのうち二城さんはどちらが好きですか?」
「こっちです!」

迷わずに片方を持ち上げる。

「ヒーローがかっこいいんですよ。
昔家族を殺されたヒーローが、ヒロインの力を利用して復讐するお話で」

でも、ヒロインに絆されてしまう、と盛大なネタバレを言いそうになって堪えた。
あたしが堪えたのがわかったのか、クスクスと彼が笑った。

「では、こちらを買ってみます」
「え、よければあたしのお貸ししますよ」
「今の二城さんのプレゼンで純粋に興味を持ったので、買います」

プレゼン…。

「あはは、ありがとうございます」

新作はなかったけれど、気になるラノベが販売していたのでそれを手に取って二人でレジに並ぶ。

「二城さんは夕食はこれからですか?」
「はい」
「良ければ一緒にどうですか?」

誘っていただけたのは嬉しいが、明日出掛けることを考えると今日は帰りたいところだ。

「明日ちょっと出かけなくちゃなので、今回はパスでいいでしょうか?」

すみません、と頭を下げると、もちろん、と彼は笑う。

「突然すみません。
今度お会いするまでに読み終われるようにしますね。
感想お伝えしたいです」
「はい、ぜひ!」

男性が、そしてこの安室さんというひとがこの作品を読んでどんな感想を抱くのかが純粋に気になる。
その後、レジを終えてから本屋の前で別れた。