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その日の夜、久々に陣平ちゃんと飲むことにした。
先に飲み屋でビールを注文していた陣平ちゃんの向かいに座ってビールを頼む。
早速持ってきてくれたジョッキを彼のジョッキと重ねて煽った。

「今日はお疲れ」

そう言うと、お前ェもな、と返される。

「あれが、お前の神様か」

ニヤニヤと口角を上げる陣平ちゃんにそうだよ、と臆さずに告げる。

「俺の神様」
「ふーん。
で?」

どうやら用があったのはわかっているらしい。
そのバトンを大人しく受け取って、用件を告げる。

「俺の神様がね、陣平ちゃんに会いたいんだって」
「は?なんで」
「こうして巻き込まれたから、警察官と知り合いになってた方が後々楽そう、って言ってたな」
「んだそれ」

あほくさ、と呟く彼にまぁねぇ、と視線を俯かせる。

「なんかあんのか?」

そう聞かれて、そういえばひなちゃんの話はあまりしたことがなかったかもしれない、と思い至った。
どこから話そうか、と思って、まぁ正直に告げるしかないか、と俺は初めて会った日の話をした。

「俺の神様ね、記憶喪失なんだよね。
ずっと、心ここにあらずーみたいな目してた。
でもさ。
今日、病院で目を覚ましたとき、初めて目が合ったんだ」
「思い出したのか?」
「思い出してないって」

返す言葉で伝えると、あ?と返される。
そんな返し方されても、頭の中を覗けるわけじゃあるまいし事実はわからない。

「…程度はわからないけど、何か変わったのは確実なんだ。
そんな神様が、目が合って一番最初に言ったのが、この四年間、ずっと話していた警察学校の同期に会ってみたい、だったんだよ」

だから時間作って。
そう言うと、彼はしょうがない、とでも言う風に肩を落とした。






十一月末。
陣平ちゃんとひなちゃんと約束をして、ポアロで待ち合わせた。
改めて挨拶を交わした二人を見つめる。
そのあと、子供の頃から警察学校まで、陣平ちゃんと言い争うように話していると、彼女は嬉しそうに話を聞いていた。

「なんか、二人の話聞いてると怪しそうな証言がいくつかあるんだけど…」
「えぇー、俺たち信用なし?」

そう聞くと、彼女は遠慮なく頷く。

「他の皆さんの話も聞いてみたいなぁ。
なんか、伊達さんと諸伏さんが一番公平そう」

ここで降谷ちゃんの名前が出てこない辺り、人物像ははっきり把握されていそうだ。
降谷ちゃんは基本的には公平だし信用しているが、熱くなるところがある。

本当なら五人揃ったところに彼女を招いて話をしたい。
だが、俺は陣平ちゃんと目を合わせた。
あー、と呟いたのはどちらからともなく。

「班長なら連絡着くだろ」
「だね」

陣平ちゃんの言葉に頷く。

「諸伏ちゃんと降谷ちゃんは…返事くれねぇんだよな…」

送信エラーにはならないから、メアドは変えていないのだろう。
だが、ここ数年返事は来なかった。
陣平ちゃんは今月出くわしたらしいが、その件をメールで聞いてみても彼らから返事は来なかった。
結局会えなかったのは俺だけだ。
ずるいなぁ。

ふと前を見ると、ひなちゃんが「かわいそう」という感情を顔面全面に押し出していて、言いたいことの察しがついた。

「ふたり、嫌われてるの?」
「んなワケあるか!ばーか」

小学生レベルの悪態ついた陣平ちゃんにあはは、と笑っているあたり、本音で返された言葉ではないとわかっているらしい。

「信用してるんだね」

ひなちゃんの言葉に舌打ちする陣平ちゃんは相変わらずわかりやすいなぁ、とやれやれ、と肩を落とした。

「もし、連絡着くようになったら…会ってみたいな」
「そうだねぇ…。
連絡取れたら、きっとね」

そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。



そのあと、陣平ちゃんがニコチンが切れた、と言い始めて煙草を買いに出た。
俺はトイレから戻って、ふとあの写真まだ携帯に入っていただろうか、と思い至った。
尻ポケットに入れていたかと思ったが、どうやらテーブルに置いてきたらしい。
テーブルに戻ろうとしたところで、ひなちゃんが水に濡れたテーブルをおしぼりで拭いているのが見えた。
マスターにごめんなさい、と言っている様子からどうやら水を零したようだ。

「どしたの、ひなちゃん」

一応聞いてみると、予想通り水を零した、と彼女は焦っていた。

「ギリ濡れてないから」

そう言った彼女は、避難してくれてたのか携帯を俺に手渡す。
なんとなく湿っているのは濡れた手が触れたからだろう。

「水没したら弁償だなぁ」

と言うと、大丈夫だよ!とひなちゃんは慌てる。
あはは、と笑いながら俺は携帯を操作して、目的の画像を見つける。
心配そうにこちらを見てるのが少し可愛い。
画面を見せると、彼女は画面をのぞき込んだ。

「え、研にぃ若いね!」

予想外の言葉が出てきて思わずえぇ、と声を零した。

「これひなちゃんに会うちょっと前だけど!?」

この写真の頃から定期的に会ってるのに、どうしてそんなオジサンみたいに言われなくちゃならないんだ。

「あははは、冗談冗談。
ねぇ、その写真ほしいなー」

手をぱたぱたと振る彼女に小さく息を吐いてから、俺はしょうがいないなぁ、と呟いた。
画像を添付したメールを送ると、彼女は嬉しそうにありがとう、と言った。

あぁ、俺の神様が可愛い。