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目を覚ました時、私はソファに寝かされていたようで、傍には研にぃがいた。
爆発物の解体をした時と同じだ。

「大丈夫か?ひなちゃん」

そう聞かれて、私は頷いた。

蘇ったのは、この世界での欠けた記憶だ。
あの時、私は確かに安室さんと言った。
実際に安室さん…基降谷さんだったことは驚きだが、それ以上に驚いたのはあの時の私が安室さんを理解していたことだ。
どういうことだろう、と考えたところで答えは出ない。
もしかしたら私がわかっていないだけで。もっと忘れていることがあるのかもしれない。

「…なにか、思い出した?」
「…事故のこと、少し」

今日は素直に言った。
すると、彼は安心したようにそっか、と微笑む。

私が素直に言ったからだろうか。

「直近で病院は?」
「もう行かないってこないだ言っちゃった」
「なんで」

遠慮なく両頬を引っ張られて私はいひゃい、と抗議した。

「…もう、思い出さないかと思って」

離された両頬を両手で押さえながら、ぽつりと呟くと彼はくしゃりと表情を歪めた。
ごめんね、そんな顔させたいわけじゃないの。
でも、もう思い出したから。
あの時何ともなかったなら、この後身体的に不調が出ることはないと思ったのだ。

「思い出せただろ。
とりあえず一回行ってきな」
「…うん」

行くつもりはないが、とりあえず頷くと彼はお見通しとでもいうようにこつりと私の肩を叩いた。

「二人とも帰ったよ。
萩原、二城さんどう?」

近くの扉から顔を覗かせたのは諸伏さんだ。

「おぅ、起きたよ。
ごめんな」
「いいよ。
俺が事故の話なんかしちゃったからだろ。
二城さん、具合どう?」

私の傍によって、聞いてくれる彼は優しい。
本当に、優しい人だ。

「大丈夫、です。
ご心配お掛けして申し訳ないです…」
「いいって。
…でも、ちょっと感慨深いな。
あの時の子とこうして会えるなんて。
あとでゼロにも連絡入れてみようかな」

そう言う諸伏さんに、隣に座る研にぃがじと、とした目で見る。

「諸伏ちゃんは、今までなにやってたの?」
「ちょっと、色々ね。
旅してたよ」
「旅ぃ?」

研にぃの言葉にうん、と彼はあくまで爽やかだ。
どうやったらここまで爽やかになれるんだろう、なんて阿呆なことを思いながら二人の会話を聞いている。

「いろんな人や、いろんな国を見てきたんだ。
辛いことを苦しいことも、嬉しいこともあったけど。
…こないだ、うっかり死にかけてさ」

その一言に、私も、研にぃも目を見張った。
時が止まったようだった。
それは、任務で?
それとも、あの事件だったのだろうか。

「九死に一生を得るってあぁいうこと言うんだろうな。
本当に、もうだめかと思った」

当時のことを思い出しているのか、右手を見つめている。
もしあの事件の事を言っているのなら、その右手には自殺しようと思った銃があったはずだ。

「…あしおとが、聞こえたんだ」
「あし、おと…?」
「そのあしおとに、俺は殺されるのか、って思った。
思い出したんだ。
“あしおと。”って言葉を」

無になれ。
私は、反応してはいけない。
この人は初めて会った人だ。

そう思いながら、諸伏さんの言葉の続きを、待っていた。

「殺されると思ったあしおとは、俺の助けだった。
俺はこうして生き伸びて、朝日を拝めてる」

見つめていた右手をぐっと握りしめて、彼は笑う。

「ありがとう、今日、ここにいてくれて。
久しぶりに地に足着いた気がした」
「私、なにも…」
「あの時…中学の俺たちが助けたいと思った命にこうして巡り会えたんだ。
俺は何よりも嬉しい」

なんて返せばいいのかわからなくて、私は頷く。

「…諸伏ちゃん。
お前…」
「二人にお願いがあるんだ」

研にぃの言葉を遮って、諸伏さんが笑う。

「“今日、俺はここに来なかった”」

その言葉に目を見張る。

「そういうことにしてほしい」
「…また“旅”に出るってぇの?」
「そんなとこ」

研にぃの言葉に緩く八の字になった眉。
友人たちが既に察していることも、心底心配していることも、彼はわかっているのだ。
それでもまた、きっと、同じ現場で頑張るのだろう。
人から、組織から隠れて、何もないように振舞って、あのひとの手助けをするのだろう。

「しょうがねぇなぁ…。
会わなくてもいいから、たまには顔見せろよ」
「あはは」

肯定も否定もしない。

「あいつにも、そう伝えといて」

その言葉に笑う。
やっぱり、肯定も否定もしないのだ。
私には到底わからない絆で、彼らは繋がっているのだ。
それが少し、眩しかった。

「さて、と。
二城さん、帰るなら送るよ」

そう言いながら立ち上がった諸伏さん。
ちらりと研にぃを見たあと、私は頷いた。

「ありがとうございます。
お願いしてもいいですか?」
「もちろん!」