1
ひなちゃんを送ったあと、俺はゼロが今住処にしているセーフハウスに向かった。
「ただいま」
そう声をかけると、おかえり、と言いながらゼロはパソコンから目を離した。
「どうだった?」
「相変わらず。
連絡寄こせって」
その言葉にゼロはただ笑った。
「会わなくていいから顔見せろ、とも言われたな」
「なるほどな」
その言葉は頭に入れておいてもいいかもしれない。
決行することはないだろうが。
「そうそう、萩原の家に行ったら女の子がいたんだ」
この話は、伝えておかなくてはと思った。
「女の子?
萩原の彼女?」
まぁ、普通に言えばそうなるだろう。
俺もそう思った。
「それがさ、萩原が卒業してすぐに爆弾事件に巻き込まれてただろ?
あの時の被害者なんだって」
「ホォ」
「妹みたいな感じで仲がいいらしい」
「…萩原の傍にいたら危ないんじゃないか?」
言いたい気持ちもわからないでもない。
でも。
「ないと思うよ」
「ん?」
「あの爆発事件の時に、表向きは警察が助けた一般市民、だけど。
萩原はそうは思ってないみたいだ。
あの子がいたから、助かったんだって」
萩原の、かみさま、なんだって。
「熱烈だな」
「ね。でも、俺も、萩原の気持ちがわかるよ」
「え?」
後半の言葉を聞き取れなかったのか、ゼロは首を傾げた。
なんでもない、と言って誤魔化して、次の言葉を繋げる。
「でさ、その子、同い年らしいんだけど」
「妹みたいなのに?」
「中学の時に事故って植物状態だったらしい。
で、その四年前の事件の日に目覚めたから、年齢感覚バグってるみたいだな」
へぇ、と話半分で頷く。
俺は直接彼女の顔を見たから面影があるなと思ったけど、見てなければ当然その程度の反応だろう。
「ゼロ、覚えてない?
第二中の女子の事故」
「そりゃもちろん、覚えて…。
まさか?」
ゼロの意識が、漸く俺に向いた。
「そのまさか、だったよ」
口をぽかんと開けたままのゼロは珍しい。
無理だとわかっているが写真に納めたくなった。
「…そ、か」
力の抜けた顔に、少し、笑顔が灯る。
わかる。
俺も、嬉しかった。
幼少の頃に関わった事件の被害者が、重体だ、というニュース以降なんの進展もなかった子が、生きて笑っていた。
「記憶喪失らしいけど、事故当時のことは少し思い出してたみたいだったよ。
元気そうだった」
「よかった。
ちゃんと、命を守る手伝いができてたんだな、僕たち」
もちろん、もうひとつの世界の話はしない。
この、ゼロの笑顔を守りたいと思ってくれた子だ。
そして俺の命を守ってくれた子。
萩原だけじゃない。
俺にとっても彼女は、紛れもなく、神様だった。