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それから、私は数日に一度ポアロに通うようになった。
元々私自身常連だったことと、バイトしていたこともあってポアロの常連とは仲がいい。
有難いことに、再会に喜んでくれた。

ある日、用事もなくポアロに向かうと安室さんがサンドウィッチを持って階段を上がろうとしていた。

「お疲れ様です、安室さん」
「ひなさん。お疲れ様です」

あぁ、用事もないのに、私何声かけてるんだろう。
そんなことを頭の片隅で思いながら、返事をくれた安室さんに仕事の邪魔しちゃいけないと思って私はじゃ、とポアロに向かおうとする。

「ひなさん、先日毛利先生たちがひなさんに会いたそうにしていたので、良ければ一緒に上行きませんか?」

そういえば、改めて通うようになってからまだ会ってないかも、と思い至る。
いや、でも正直このタイミングって嫌な予感しかしない。
安室さんがバイトを始めたばかりでサンドウィッチを差し入れに上の階に向かう。
…「探偵たちの夜想曲」では?

ちょっと悩んでいると、彼は首を傾げる。

彼の運転テクニックは気になるが、正直命を縮めるようなところに居たくはない…。

「じゃあ、少しだけ」

もしコロンボに行くようならその前に抜けよう、と思って私は安室さんの後ろを追って探偵事務所へと向かった。

扉をノックして安室さんが挨拶した後、蘭ちゃんは私を視界に入れて頬を綻ばせた。

「ひなちゃん!
久しぶりー!」
「なに!
ひなちゃん!?」

安室さんの後ろに続いて中に入ると、小五郎さんも嬉しそうに笑っていた。
置いてけぼりの名探偵がキョロキョロと大人たちを見上げている。

「ご無沙汰してます」
「今下でひなさんに会ったので。
蘭さんが会いたがっていたなぁと思い出しまして」

声かけちゃいました、と笑う。
ありがとうございます、と笑う蘭ちゃんは可愛い。

「体もう大丈夫?
お店辞めちゃってから会えなかったから、ずっと心配してて…」
「お陰様で。
最近は漸く仕事も慣れてきて余裕出来たんです。
またたまにポアロ来てるから、会えた時はよろしくね」

蘭ちゃんは彼女が幼い頃からの付き合いだった。
立派な高校生になって、というよくわからない親心もあって思わず頭を撫でてしまう。

「ちょ、ちょっとひなちゃん、私もう高校生…!」

顔を赤くして私の手を握って回避する蘭ちゃんが可愛い。
私のこの手、ひねり上げるの容易いんだろうなぁ、なんて既に猛者である彼女に若干の冷や汗だ。
彼女が勘違いするような背後からの攻撃は止めよう。

ちらりと視界に入れた名探偵にあれ、と呟く。

「蘭ちゃん弟いましたっけ?」

小五郎さんへの問いも含めて問うと、ちげぇよ、と小五郎さんがジトっとした目で見てくる。

「コナン君は、新一の親戚なの。
訳があって今ウチで預かってて…」
「新一って工藤新一君?
確かに、ちょっと面影あるね」

新一君はあまりポアロには来なかったから、名前と外見を知っているくらいだ。
彼自身も、ポアロにこんな人いたかも、くらいの認識だろう。

「江戸川コナンです。
よろしくお願いします」

やたら子供らしく挨拶をした彼に目線を合わせて、よろしくね、コナン君、と声をかける。
如何に公安と接点があるとはいえ、元々はポアロの店員だ。
私自身新社会人、その直前に事故という大義名分があったから、暫くの間来れなかったことは誤魔化せるだろう。

でも、これから先もそうだとは限らない。
あまり安室さんとは仕事以外で話さないに越したことはないだろう。

これからコロンボに行くという彼らと別れようとじゃあ、と言葉を紡ぐ。

「お仕事の邪魔はできませんし、私はこれで」

そう言った私の腕を抱き締めて、蘭ちゃんがひなちゃん、と声をかける。
あぁ、可愛い、けど、嫌な予感。

「一緒に行こう?
ひなちゃんと話したい!」
「え、えぇぇ…」

今お暇しようとしてたの解ってたよね?
解ってるからこうして腕に抱きついてるんだよね?
私がこうされたら拒否できないの解ってて!

助けてもらおうと小五郎さんと安室さんをチラリと見ると、どうやら二人とも助けにはなってくれなさそうに満面の笑みでいる。
嘘じゃん、そんなことある?
私、部外者ですけど?

よし、決めた。
コロンボ。
コロンボを出た時こそ。

その決意は、もちろん儚く散った。



案の定事件に巻き込まれた私は、現場で初めて伊達さんと出会った。

「ひなちゃんじゃねぇか」

そう声をかけられて、こんばんは、と返す。
他の刑事さんたちとはほぼ初めましてだったので、私と伊達さん以外のほぼ全員が首を傾げていた。

「俺が事故った時に庇ってくれた子ですよ」

目暮警部に紹介するような言葉に、それぞれ合点がいったとでも言うように頷く。

「あの時の…!
僕、何も出来なくて…ありがとうございました!」
「とんでもない、私は何も出来てないですよ。
周りに迷惑かけるばっかりで、」

と言ったところで背筋が凍る感覚が走った。
方向としては降谷さん。
ちらりと視界に入れると、ニコニコと笑顔なのに、とにかく怖い。
なんでだろう、まだ数回しか会っていないし、基本的ににこにこと当たり障りない会話しかしたことがないのに…。
その視線には気付かないフリをして、私は逃げるように蘭ちゃんのそばに寄った。

伊達さんは当たり前だけど班に馴染んでいて、目暮警部とは違った安心感がそこにあった。
降谷さんとの距離感も当然“安室さん”としてのもので、傍から見ると小五郎さんたちよりも距離がある。
少し寂しいが、本来ならこんな時間もなかったことを考えると、それすらも幸せに思える時間だった。