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被害者の圭さんを送ったあとで私を送り届ける、という名目で車に乗せられた。
蘭ちゃんの膝の上にコナン君。
太ももか、頭に当たる胸の感触か、コナン君の頬が染まっているのは気のせいではないだろう。
白のRX-7に乗れた奇跡は嬉しいが、後部座席は確実に定員オーバーだ。
いいのか、警察官、と心の中で訴える。

彼女の家だというマンションにやってきたところで、コナン君が御手洗を所望する。
演技力に改めて感心した。
その流れで部屋に入ったあと、盗聴器の気配を察知した降谷さんによって、盗聴器探しをすることにした。
下着を片付ける、と言って去った彼女は戻らないし、コナン君も姿を見せないがひとまず盗聴器を探しつくそうということで乱獲を始める。
最後に私室の扉を開けた時点で、家に入った時からしていた悪臭が立ち込める。

「う…」

反射で袖で鼻から下を覆う。

目の前で繰り広げられる言動は全て知っている。
ベッドの下にスーツケースがあるのも、その中に盗聴器があるのも、それを開けてしまうことも、その中に入っているものも。

違うことなく入っていた死体に、叫ぶ余裕すらなく私は部屋から逃げ出した。
吐き気を催したが、どうにか戻すことだけは耐えて、玄関の方で縮こまる。
物語をいくら知っていても、五感で感じるこの世界はやっぱり現実なのだ。
故に震えは止まらない。

きっと既に私は、この世界に、片足どころかどっぷり浸かってしまっているのだろう。

その後誘拐されたコナン君を追うこととなり、私は助手席に、後部座席に毛利親子が乗ることになった。
今後の降谷さんのカーチェイスを知る身としては、今回はまだまだ生温いと分かっているが、震えが止まらない。

怖い。
スピードとか、圧とか、そういう話ではない。
もし、この先に誰か人が出てきたら。
そう頭のどこかで思い浮かんでくるもしもが、怖い。

ぎゅ、と目を瞑っていると、降谷さんが私と蘭ちゃんにシートベルトを外すよう指示をする。
あぁ、この時が来てしまった。
蘭ちゃんは小五郎さんに、私は降谷さんに抱えられる。
初めて触れる彼の体温は私よりも高く、しがみついた体は筋肉質なのがありありとわかった。
これが平素であれば頬も赤く染まるところだが、正直そんな余裕はない。
事務所に帰ってきた時から私の顔面の色は青か白の二択のみだ。
あまりの怖さに目を固く瞑ると、耳元で彼は呟いた。

「大丈夫」

そのすぐ後に車体への衝撃。
その衝撃は、車の中と外の差はあれど確かに私は過去に受けた衝撃と変わらなかった。

「ひっ」

フラッシュバックしたのは、誰の眼差しか。

「あむ…ろ、さ」

呟いたところで、私の意識はブラックアウトした。






目を覚ました時、そこは見知らぬ寝室だった。
意識がブラックアウトするのは今までにも定期的にあったが、病院ではないのが珍しい。
極端に荷物の少ないこの部屋に心当たりは二つ。
降谷さんか諸伏さんか、どちらかのセーフハウスだろう。

ぎ、という音を立ててベッドから這い出ると、扉が開いた。

「ひなちゃん、大丈夫?」

答えは諸伏さんだった。

「あ…はい」
「ったく、ゼロのやつ…。
ひなちゃんが事故ったって知ってるだろうに」

どうやらことの顛末は聞いているらしい。

「まだ顔色悪いな。
朝まで寝てな。
明日用事は?」

口を開くのもだるくて、私は頭を振る。
ベッドへと促されて、たった今出てきたベッドに戻る。
頭を撫でられている内に、私はまた意識を闇の中へ、どろりと溶かした。



翌朝起きた時にも諸伏さんにそうそうに気付かれて、彼はしっかりとした朝食を振舞ってくれた。
流石降谷さんのプロトタイプ(料理)。
美味しすぎる。

「ゼロに、ひなちゃんが中学の事故の子だって伝えてあるから」

唐突に言われて、私はふぇ、と変な声が出た。

「まぁ、気付いたみたいだから頷いただけなんだけど」

特に話した訳では無いが、どこかで気付いた原因があったらしい。
やっぱり、隠し事は向いてないのかもなぁ、なんて他人事に思った。

朝食を終えたあと、家まで送ってくれた諸伏さんに感謝して、家のソファに座る。
初めての原作軸事件は、非常に疲れた。
その一言だった。