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当日の朝、自宅の前に止まった白のRX-7に改めてこの日が来てしまった、と思う。
一応諸伏さんには流れで降谷さんと行動することになった旨は伝えている。
皆の目がある時の言動だけ気を付けるよう言われただけで済んだが、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
安全運転するように伝えておくね、と言われたことに対して何卒お願いしますと即答したのは許して欲しい。
あの事件以来、降谷さんと二人きりで会うのは初めてだ。
「おはようございます」
「おはようございます、ひなさん」
車から出てきて微笑む彼。
持っていた荷物をさらりと奪われて、後部座席に置かれる。
どうぞ、と促された助手席に座りながら、流石安室さんはスパダリだな、なんて思った。
運転席に戻ってきた彼によろしくお願いします、と言うと、彼は安全運転で行きますね、と笑って返してくれた。
またお願いします、と即答してしまったけれど彼は苦笑だけで流してくれた。
「ひなさんはテニスやるんですか?」
降谷さんに問われて、私はいえ、と頭を振る。
園子ちゃんに誘われた顛末を説明すると、クスクスと笑われてしまう。
「ひなさん、本当に蘭さんに弱いですね」
自覚はしている。
なんせ前回事件に巻き込まれたのも、大元は蘭ちゃんのお願いを断れなかったからだ。
こちらでの私は、人付き合いが薄い。
長年眠り続けたせいで幼少の頃の友とは連絡をとっていないし、今とれたとしてもすぐ疎遠になるだろう。
大学の友人もいるが、環境が変わってまで連絡を取り続けるような仲には発展しなかった。
今頻繁に連絡をとっているのは、研にぃみたいに、向こうから一生懸命連絡をしてくれた一部のひとたちだけだ。
そのせいか、蘭ちゃん、梓ちゃんみたいに慕ってくれる人からの無茶ぶりに弱い自覚はある。
「安室さんからの無茶振りは全力で避けたい所存です」
「えぇ、僕はだめなんですか?」
心外、とでも言うように肩を竦める。
いや、ここで私が「安室さんのためなら!」って言っても特にアクション起こす気ないくせに、と言わずともわかる反応に私は運転する彼の横顔を見つめた。
「安室さん、ポアロの客層変わったのわかります?」
「え」
私が働いていた頃には居なかった女性の群れ。
それはJKだけではない。
OLさんもママ友軍団も、とにかく若い女性が増えたのだ。
「私のこと元従業員って知らない人多いんですよ。
炎上はゴメンです」
梓ちゃんと同じ理由を付けて、どうにか適切な距離を保とう、と私は心に決めた。
ふふ、と笑うのは降谷さんだ。
「炎上ですか…。
僕たち、人には言えない仲なんですから…気をつけなくちゃいけませんね?」
「ほんとに!
その誤解しか生まない表現外でしないでくださいね?
安室さんが平気でも私が変なことしちゃったら意味無いんですよ!?」
人には言えない仲。
えぇ、そうでしょう。
公安警察とその協力者だなんて誰にも言えませんけども。
実際に降谷さんがそんなヘマをするわけが無いと分かってはいるが、言わずにはいられなかった。
先に言っておくが、私は私に自信が無い。
「もちろん、ひなさんに迷惑かけたくありませんから。
気をつけますね」
いけしゃぁしゃぁと爽やかな笑みを浮かべたほっぺたをつねりたくなったのは秘密だ。