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園子ちゃんたちより早く着いたらしく、まだ皆はいなかった。
じっと待っているのもつまらない、ということで私は降谷さんに少し先に教わることにした。
早速動きやすい格好に着替える。
テニスウェアなんて持っていないのでポロシャツとショートパンツだ。
簡単な打ち方を習って、ラリーを二人でしている。
流石ジュニア大会とはいえ優勝経験者。
私がとんでもない球を打っても綺麗に返してくれるので、私もストレスなく楽しめた。
園子ちゃんたちが着いた時、やはり物語同様何も聞いていなかったコナン君が目を丸くしていて、そしてそんな状況下で何故か降谷さんの弾丸サーブを迎え打とうとしてる。
いや、おかしくない?なんて物語を見ていた時から思っていたが、目の前で起きてもやっぱり謎は謎だった。
コナン君の腕で受けたら骨折れちゃいそう、なんて思ったのは秘密だ。
そして、唐突にやってくる。
コナン君の頭部にラケットがぶつけられて、彼は意識をブラックアウトさせた。
飛んできたラケットの持ち主が利用している別荘に連れていく。
保護者が良しとする以上、私が事を荒立てるわけにもいかず、傍で流れに身を任せていた。
当然とばかりに事件は起きて、探偵たちの活躍によって終結した。
今回、降谷さんが壁になってくれたお陰で私は死体を目にしていない。
予定通りそのあとは園子ちゃんの別荘で一泊した。
夕食は降谷さんが振舞ってくれた。
食欲のなくなった私用にわざわざお粥まで作ってくれて、申し訳ない気持ちで一杯になる。
「ごめんなさい、安室さん…」
そう言うと、彼はいえ、と微笑む。
「蘭さんたちは、先生に着いて回ることが多く慣れもあるかと思いますが、ひなさんはそんなことないでしょう?
それに、こんな事には慣れない方がいいんです。
気にしないでください」
そう言って貰えると、少し心が洗われる。
「ありがとうございます」
両手を合わせてお粥を口に含む。
温かさと優しい味が胃を温めて、心の緊張まで解くようだった。
翌日、降谷さんの車で送ってくれたのは自分の家ではなく諸伏さんの家だった。
前は私の家を知らなかったのだから理解出来るけれど、今は知っているはずだ。
「安室さん、どうして…?」
「落ち着くかと、思いまして」
そう言った彼に首を傾げる。
「…あの」
まさか、とは思うけれど、勘違いされていないだろうか。
いつ、どこで、どうしてそんな勘違いに発展されたのかはわからないけれど。
「私、緑川さんとは付き合ってないですよ」
「え」
目をきょとん、とさせる彼は少し珍しい表情で、私こそきょとんとしてしまった。
本当に、この人はそんな勘違いをしたのか。
少し気まずそうに頬をかく。
「あの、安室さん?」
「すみません、勘違いしました」
ですよね、と頷く。
「…自宅、帰られますか?」
こて、と首を傾げる彼に、少し悩んだあと、逆に問いかける。
「貴方は、私が車を降りた場合、帰っちゃいます?」
「そうですね」
ナイとはわかりつつ言外に一緒に諸伏さんに会う可能性を示唆してみるが、さらりと頷かれてしまった。
ならば、私も今日は帰ろう。
一番の友を差し置いて何度も会うのも忍びないし、結局のところ私は自宅以外では落ち着けないのだ。
「じゃ、お手数お掛けしますが、自宅までお願いしてもいいですか?
…あ、このあとお仕事とかあるならここの最寄りの駅まででも」
「いえ…お送りします」
少し硬い声で言った彼は、サイドブレーキを外し、シフトレバーを切り替えて車を動かし始めた。
「ありがとうございます」
そのシフトレバーの触れ方が、少しあの映画を彷彿とさせて、私は手のひらで口元を覆った。
アニメよりも節立つ男性らしい手すらもが愛しくて、恥ずかしくて、車の中にいることを選んだのは自分なのに今すぐ降りたくなったのは秘密だ。