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水曜の夜、研にぃに誘われて私は松田さん、伊達さんと飲むことにした。
今回も研にぃの家だったが、伊達さんは今回ノンアルコールだった。
「ひなちゃんは仕事どう?
さすがにもう慣れた?」
研にぃに問われて頷く。
「通常業務はね。
大分ひとりでこなせるようになったよ。
突発でなにか来るとまだ焦っちゃうけど…」
「焦りは禁物だぞ」
松田さんに言われてはーい、と頷く。
「にしても、仕事始めたからか、ひなちゃんも年相応になってきたな」
伊達さんに、頭をぐりぐりと撫でられる。
そうかな、と首を傾げると三者三様に頷いてくれる。
「じゃあ、これで立派な同い年だね」
社会人一年目だけど、と笑うと調子乗んなよ、と松田さんにデコピンをされる。
「んなぺーぺーと一緒にすんな」
そう言われて、その通りだと思って笑う。
いくら前の世界で社会人経験があったって、私がこの人たちに追いつけるわけが無いのだ。
命を賭してこの国を守る、この人たちに。
「そういえば伊達さん、ナタリーさん元気?」
「?…あぁ…実は最近、体調が良くないみたいでな」
「え?大丈夫なの?」
あぁ、と上の空な伊達さん。
「病院とかは?」
「今日行く、とだけ。
昼過ぎに連絡があって…。
どこか悪い所があった訳じゃないみたいなんだが、詳しくは家帰ってから話すと」
「帰んなくていいわけ?」
研にぃがビール片手に問うと、元々約束してたんでしょう、とこっちを優先するよう言われたようだ。
それは。
もしかして。
研にぃをちらりと見るが、案外気付いていなさそうだ。
すぐに気付きそうなのに、ちょっと意外。
「伊達さん、今日早めに帰った方がいいと思う」
「え?どうして?」
「ナタリーさんの話、聞いてあげて」
彼の上着を持って手渡す。
伊達さんと松田さん揃って目が点だが、もう知らない。
研にぃは察したのか、そうだな、ナタリーちゃんによろしく!とウィンクをかましている。
「安全運転でね!」
そう言って伊達さんを見送ったあと、研にぃと二人目を合わせて笑う。
「いいなー、楽しみだなー。
会いに行こー」
「ひなちゃんもやっぱ、願望あるの?」
「うん…まぁ、多少は?
相手探しからだけどねー」
そんな話をしていると、未だ状況についていけない松田さんから盛大な舌打ちを貰って、研にぃと私は大爆笑した。
その後、家に帰ってナタリーさんの話を聞いた伊達さんから連絡がきた。
想像通りおめでたの連絡だ。
勿論まだ安定期ではないので、他の人には言わないようにお願いされたので、もちろん、と頷いた。
幸せって、どこまで積み重なっていくんだろうか。
生きてるみんなを見れるだけで幸せだったのに、これ以上があるなんて、信じられなかった。
仕事のあと、百貨店に行ってお礼の品を探す。
消えものは外食は大丈夫だけど作ったのがダメで…なんて考えているうちに何が良くて何がダメなのかわからなくなったので、諦めた。
だが、消え物がダメとなると一気にハードルが上がるのが現実だ。
アクセサリーってタイプでもないし、服は回転が早そうだし。
「詰んでる〜」
ひとり呟いて、それでも負けじと店舗を巡る。
降谷さんって電子タイプっぽそうだから万年筆とかもなぁ。
そう思いながら散策した結果たどり着いたのは、食器屋さんだ。
“安室さん”の家になら、食器はそれなりの数あるはず。
そう思って、私は購入を決めた。
金曜夜、お礼を持ってポアロに行く。
降谷さんはひとりでカウンターの向こうに立っていた。
「こんばんは、ひなさん」
「こんばんは。
今日は梓ちゃんは?」
「お休みですよ」
そう言いながら、彼は私がよく座る席へと案内してくれた。
「カルボナーラとカフェラテお願いします」
メニューは開かずに伝えると、彼ははい、と微笑んだ。
食事を終えてカフェラテを飲んでのんびりしていると、閉店一時間前、お客さんが居なくなった。
「あの、安室さん」
声を掛けると、彼は片付けの手を止めて近くまで来てくれた。
「どうしました?」
こて、と首を傾げる彼は同い年とは思えないくらいに幼い。
流石ベビーフェイス。
「先日はありがとうございました。
トラックの…」
「あぁ、気にしないでください。
その後、お身体は大丈夫でしたか?」
「はい、お陰様で」
よかった、と笑う。
病院と中々縁が切れない私としては、大事にされずに助かったのも事実だ。
「コレ、大したものではないんですが、お礼です」
鞄の中から包みを取りだして渡すと、彼は少し困ったように笑う。
「本当に、そんなお礼なんて頂くほどのことはしていないんですが…」
「いえ!
私の気が治まらないので!」
と半ば無理やり押し付ける。
彼はありがとうございます、と言いながら渋々受け取ってくれた。
「開けてもいいですか?」
「はい」
ペリペリと包装紙に貼ってあるセロテープを剥がし綺麗に開けていく。
…安室さんならそうするだろうし、降谷さんなら…どうだろう、少し雑なのかな。
そんな事を思いながら、その手を見ていた。
包装紙を外して、箱を開けて彼は目を見張った。
「これ、は…」
「あの…箸置き、なんです」
五個セットの桜の箸置きだ。
「いつか、使って頂けたらなと」
今は無理でも。
いつか。
五人で。
降谷さんは、ふわり、と笑った。
「ありがとうございます。
必ず、使わせていただきますね」
ドクリ、と心臓が飛び跳ねたのは、気のせいではない。