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ポアロで働いていた時に、大尉の首輪に着いていたという紙を梓さんに渡されたが、受け取る前に紙は宙へ浮いた。そのまま風に飛ばされていくのを二人で見送る。
一度はそのまま仕事に戻ったが、それがレシートであること、corpseの文字に見えるよう他の文字が消えていたことを聞いた。
次いでコナン君が関わっていそうなこと、レシートが冷たかったことを聞くと決していい情報ではないと察しがつく。
ポアロの仕事を早退して、僕はレシートを探すために駆けた。
阿笠邸、工藤邸の前に止まる配達トラックの中に子供たちがいることを見つけて、配達員のひとりを殴りKOさせた。
ガムテープで拘束しようと来るから持ち出したところで、コナン君が安室さん、と焦ったように僕を呼ぶ。
どうしたのかと顔を上げると、コナン君はトラックの中を指さして叫んだ。
「ひなさんが、低体温症を発症してるんだ!」
そう言われて、僕は目を見張った。
「ひなさんが乗っているのかい!?」
ガムテープを子供たちに渡して、トラックの奥に乗り込む。
荷物で隠れたところに意識を失くした彼女を見つけて僕はひなさん、と声を荒らげた。
冷えきった彼女の体を抱き上げてトラックの外に出る。
「救急車、」
そう言った光彦君の言葉をいや、と遮る。
「このまま僕の車で連れていくよ。
犯人達を頼めるかい?」
子供たちだけで無理なら近くの大人を頼るだろう。
そういうことが出来る子達だ。
「うん、ひなさんのこと…よろしくね」
もちろん、とコナン君に返して僕は急いで車に乗り込んだ。
トランクに入れていたブランケットを彼女にかけて、エアコンの温度を上げて車を走らせる。
少し悩んだが、行先は彼女の家だ。
病院よりも近い。
運転をしつつ、ヒロに番号にかける。
「もしもし?」
イマホンから流れてくるその声を聞いて、僕だ、と端的に告げる。
「ベガがクール便のトラックに閉じ込められて低体温症だ。
ベガの家が一番近いからそこに行く。
部屋の番号わかるか?」
オンラインで彼女の事を話す時はベガと呼び名をつけていた。
万一盗聴されていた時のために備えてだ。
ヒロはすぐに部屋番号を答えてくれる。
「カイロ…いや、湯たんぽだな。
用意して向かう」
「あぁ」
要件だけ伝えて通話を終える。
いくらもしない内に彼女の家について、鞄の中から鍵を拝借する。
ブランケットごと抱き抱えて部屋に入り、早急に風呂を入れて彼女を湯船に入れた。
服は申し訳ないが後で脱がすしかない。
人命救助だ、許してもらおう。
少しだけ、と風呂場を離れて寝室のエアコンを入れに行く。
すぐに戻って彼女が溺れてないことを確認して、僕はようやく一つ息をついた。
鍵を閉めた玄関が開く音が聞こえる。
ヒロがピッキングしたのだろう、ゼロ、と僕を呼ぶ声が聞こえて、僕は風呂場から声を掛ける。
「ひなちゃんは!?」
「一先ずは大丈夫だ」
慌てた様子のヒロにひなさんの様子を見ててもらうよう頼んで、僕は彼女の部屋着を取りに向かう。
わかりやすい所にモコモコとした素材のワンピースがあって、それと下着を手に風呂場に戻った。
何があったのか問うヒロに事の次第を話すと、ヒロは脱力した。
「この子、いつの間にこんな事件に巻き込まれるようになったんだ…」
「今まではなかったのか?」
「全くない訳では無いけどね。
こんな頻繁ではなかったよ」
成程。
ということならば、やはり先日ヒロと相談していた発信機の件は早急に進めた方がいいな。
風見に用意させていたものを持ってくるよう指示して、ひなさんの身体を風呂から持ち上げた。
あまり長時間水に浸かるのも体力を失うだけだ。
「ヒロ、着替え頼めるか?」
付き合っていないと聞いていたが、出会って間もない僕よりは知り合いのほうが良いだろう。
そう思って頼むとヒロはわざとらしくあ、と呟いた。
「湯たんぽの準備して来るから、ゼロよろしく!」
「え、あ、おい!」
声をかけたのも虚しく台所へ逃げたヒロに心中舌打ちした。
このまま湯冷めさせる訳にも行かないのでタオルで拭いてカットソーは切らせてもらう。
…お気に入りやブランド物でないことを祈るばかりだ。
ワンピースを着せた後に、下着とスカートを脱がせ、下だけだが下着も着せた。
細身の女性と言えど意識のない人間は重たいもので、なかなかの重労働である。
彼女を抱き上げて、ベッドの中に寝かせ布団をかける。
トラックの中で抱き上げた時よりも人の体温を取り戻していて一安心だ。
ふう、一息着いたところで大量の湯たんぽを持ったヒロがベッドルームに入ってきた。
「…お前なぁ」
着替えのことと、湯たんぽの量。
二つの意味で呟くと、まぁまぁ、と笑う。
足元に両側二つ、腰の傍に二つ、肩の傍に二つ。
計六つを持ってくればどんな冷え性でも温まらないということはないだろう。
僕達は雑談をしながら彼女が目を覚ますのを待っていた。
だが、僕は彼女が目を覚ます前に呼び出しが入ってしまい、そのまま家を後にした。
夜メールを確認するすれば、彼女が目を覚ましたと連絡が入っていた。
よかった、と僕は肩の力を抜いた。