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とある金曜日、夜。
今日は昼過ぎからポアロのシフトに入っていた。
いつも通り来客のベルが鳴ったから顔を向ければひなさんがにこりと笑っていた。
その笑顔に笑顔を返して、彼女を迎える。

「こんばんは、ひなさん」
「こんばんは。
今日は梓ちゃんは?」
「お休みですよ」

彼女の問に答えつつ、彼女がよく座るカウンターの端に案内する。

「カルボナーラとカフェラテお願いします」

座りながら注文をした彼女に頷いて、僕は調理の準備を始めた。



閉店一時間前を迎えた頃、ひなさん以外客が居なくなった。
安室であることに変わりは無いが、事情を知っている彼女とふたりというのは気を張らずに済むから楽だ。

「あの、安室さん」

不意に声をかけられて、僕は雑務を止めて彼女のそばまで行く。

「どうしました?」
「先日はありがとうございました。
トラックの…」

どうやら、あの事件の日の事のようだ。

「あぁ、気にしないでください。
その後、お身体は大丈夫でしたか?」

あの日、彼女が目を覚ます前に僕は仕事で去ってしまった。
身体の体温は戻っていたし、ヒロからも追求はなかった。
恐らく問題ないだろうが…。

「はい、お陰様で」
「よかった」

直接言葉で聞けると安心するのは人間である限り仕方ないだろう。
もちろん、気遣い屋の彼女のことなので問題があっても言ってくれない可能性は高いが。

「コレ、大したものではないんですが、お礼です」

そう言いながらカバンの中から包みを取り出す彼女に思わず眉尻を下げた。

「本当に、そんなお礼なんて頂くほどのことはしていないんですが…」

人命救助は、職務のひとつだ。
もちろん僕は一よりも百を守る部署なので、必ずしも彼女を一番に守れる訳では無い。
でも、だからこそ、せめて彼女を第一に守れる時は守り抜きたかった。

「いえ!
私の気が治まらないので!」

辞退しようと思ったが、彼女は僕の手に包みを握らせた。
そこまでされて辞退するのもな、と。
大人しく受け取ることにした。
警官はそういうものを貰っては行けないとか、今は考えないこととする。
だって、彼女は市民であると同時に、協力者…つまり仕事を共にするひとでもあるのだから。

「開けてもいいですか?」

そう聞くと、彼女ははい、と頷いてくれた。
ペリペリと包装紙に貼ってあるセロテープを丁寧に剥がす。
無事綺麗に包みを開けられてほっとした。
ネクタイが入っていそうな細長い包みだが、サイズ感と重さからネクタイでは無いことがわかる。
なんだろうかと思って蓋を開けると、五つの桜が並んでいた。
思わず目を見張る。

「これ、は…」
「あの…箸置き、なんです。
いつか、使って頂けたらなと」

彼女は萩原たちとも接点がある。
当然、僕たちが五人でつるんでいた事も知っているだろう。
そして今、気軽に会えないことも。

あぁ、これだから、彼女が気になってしまうのだ。
思わず頬の筋肉が緩むのがわかる。

「ありがとうございます。
必ず、使わせていただきますね」

そう告げると、彼女は嬉しそうに笑った。