3



その後、解散するのかと思えば“安室さん”の部屋へと向かった。
部屋について早々に諸伏さんは変装を解いてしまう。
私はダイニングへ座るように促されて、三人は立っている。

いや、気まずいですけど?
みんなで床に座りませんか?

私がそう思ってるのをわかっているのだろう。
諸伏さんは肩をすくめるが、降谷さん上司だもんね、仕事が絡んだら何も言えないのだろう。

「ヒロが多少動けるようになるからな。
こちらも体制を整えたい」

彼の言葉に、諸伏さんと風見さんが仕事モードに入ったので、私も理解は及ばないだろうけどまじめに聞く。
その、前に。

「…あの、大丈夫だと思うんですけど、それは、私が聞いていて問題のない話ですよね?」

私がいるときに重要な話をするとは思えないが、念のため片手を挙げて問う。

「ひなさんに聞かれて困る話はしない」

ならば、と手を下げてお願いします、と頭を下げた。

「基本的に、今まで通り君にはヒロと僕の連絡役を頼みたい。
風見でも構わないが…ヒロはまだ生存を公にしていないし、どこに目があるかわからないしな」

そう言われて、私は頷く。

「今、組織の動きがやや活発化していることも含めて、これから依頼することが増えると思うが…。
安室と君はあくまで喫茶店の店員と客。
ここも変更はない」

こく、と再び頷く。

「ヒロは危険な時期はひなさんの護衛を頼む。
有事の際は自己判断で動いてくれ」
「オーケー」
「君たち二人は適度に一緒に過ごす時間を増やしていこう。
設定はどうする?」

ちらりと諸伏さんを見ると、悩んだ風に顎に手を当てる。

「いざ護衛となると、恋人が一番楽なんだけど…」
「恋人!?」

今までいたことなぁい!!
思わずびく、と飛び跳ねると、諸伏さんがあはは、と笑う。

「そんなリアクションする?」
「いえ!?
普通、こんなイケメンと顔突き合わす機会なんてあまりないんですよ。
皆さんに言えることですけど、ご自身がイケメンだって自覚持ってもらえませんか?」

私の自己主張中ひたすら爆笑で過ごす諸伏さんは、たぶん、私の話を聞く気がない。
くそう、とジト目をしていると、風見さんは苦笑、降谷さんは呆れている。

「ひなさんと緑川は中学の時に図書館で会っていたことがある。
緑川は当時から片思いをしていた。
そのあとひなさんは事故に遭って記憶を失っていたが、昨年の事故をきっかけに記憶を思い出した。
その矢先に仕事の関係で緑川と再会。
現在は緑川が交際を申し出ている最中でお互いを知るために稀に一緒に出かけるようになった。
異論は?」

安室さんではありえない圧をひしひしと感じで私は壊れた人形のように頷く。
たぶん、頷かなかったら殺される。
降谷さんが一般人を殺すことはまずないとは思うけど、そんな勘違いをしそうなほどの圧だ。

諸伏さんは気楽に頷いてらっしゃる。
これくらいの降谷さんの圧は慣れっこなのだろう。

「ヒロと風見は今まで通りで問題ないか?」
「仕事関係は問題ないな。
他はどうする?」

風見さんが!ため口だ!
この世界線、降谷さんは上司だけど諸伏さんは部下か同僚なのか、と気付きに心中にやにやする。
長野がメインのあの映画では知らなさそうな素振りだったのに。
でも、諸伏さんが生きていて、降谷さんの右腕だから知ってるのか、と納得させた。

「そうですね…変装に慣れるためにも、できるだけ私生活は自分でこなそうかな、と。
風見さんはゼロに集中してください」

諸伏さんの言葉に降谷さんと風見さんが揃って頷く。

「僕とヒロは今まで通り、ひなさんを介してのやりとりとオンラインのみ」

その言葉に諸伏さんも頷く。
あぁ、ということは、この二人がこうして同じ部屋にいるのは奇跡なんだなぁ、なんて少し寂しい。

「降谷さん、今日はこちらの仕事は構いません。
二城さんのフォローをお願いできますか」

そう言って、風見さんが席を立つ。

「待て。
風見、お前も念のため彼女と番号交換しておけ」
「え、自分もですか?」

そう言われて、私の電話番号は口頭で伝える。
風見さんの名前は偽名の飛田さんで登録した。

「風見とひなさんの連絡は僕、ヒロ両方と連絡が取れなかった場合、かつ緊急時のみだ」
「はい」

風見さんと声を合わせて頷く。

「あまりお会いすることもないでしょうが、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

では、と今度こそ部屋を出る風見さん。

「ひなさん、今日は予定は?」

その後降谷さんに問われて終日空いていることを告げる。

「良かった。
申し訳ないが、あまり他人を入れてるところを見られたくないんだ。
暗くなるまでこの部屋にいてほしい」

暗くなるまで。
今は、午前中、しかも中々早い時間に集合した結果、まだ九時ですけど。
今の季節だと、暗くなるのは六時頃ですね?
つまり九時間!

「…諸伏さんも一緒です?」
「一緒だね」

思わず助けを求めてしまった。

「…なら、大丈夫です」
「…僕と二人きりだと何か困るのか?」
「しいて言うなら私の精神衛生上イケメンと二人きりってのが困ります」

イケメンと、というよりも、降谷さんと、っていうのが正解だけど。
正直諸伏さんと二人きりも結構困るので間違いではない。

「え?待って?
イケメン二人と一緒ってもっと無理じゃないですか?
帰ってもいいですか?」
「だめだね」
「だめだな」

聞くと、即答で返されてしまって思わず舌打ちをした。