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諸伏さんと時折デートという名の関係作りをするようになって、研にぃからの着信が増えた。

「もしもし、ひなちゃん?
今どこにいるの?」
「…ショッピングモールの前にいるけど」

そう答えると、わかった、と言われてガチャ切りをされた。
通話終了の画面を少し睨んだあと、諸伏さんに視線を移す。

「ごめんなさい、また来そう」
「人気者だね、ひなちゃん」

そう言って苦笑する諸伏さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
先にショッピングモールの中に入る諸伏さんを見送ってから、最近はよく会う女性警官がこちらに向かってくるのが見えた。

「ハーイ、こんにちはー」

長い髪を流しているのは由美さんだ。
私が研にぃと同い年と知っているのか、フランクなイメージの彼女からは敬語で話しかけられることが多い。

「こんにちは。
研にぃにリークするの止めて貰えませんか?」
「えー、リークすると飲みに連れてって貰えるんですよ?」

でへ、とアルコールを楽しみにする彼女に一回くらい舌打ちしても許される気がする。
しないけど。

そう。
研にぃと仲のいい交通課の女性陣は、外回りの時に私が怪しい男と居ないか確認するよう頼まれていたそうだ。

詳細を聞けば怪我の有無もチェック項目にあったようなので、伊達さんの事故がきっかけもしれないが、それは今考えないこととする。

今までは誰かと外出することもなかったけれど、最近は諸伏さんとよく出掛けるから目をつけられたようだ。
緑川さんの特徴は諸伏さんと異なるから、研にぃの中でイコールにはならないだろう。

研にぃのことは、今は兄のように慕っているし、キャラクターとしても好きだったが、私生活を監視されるとなると話は別だ。
私は自由が欲しい。

「萩原さんに紹介しちゃえばいいんじゃないですか?」

そう聞かれてイヤ、と答える。

「私が誰と遊ぼうと付き合おうと結婚しようと、研にぃには関係ありません!」

実際結婚となったら紹介するだろうが、今、これでも怒ってるんです。
ぷい、と顔を背けた。

「研にぃにそう伝えてください」

最後に言い残して、私はショッピングモールの中へと入った。

モールの中の、いちばん近い柱のそばに諸伏さんは立っていた。
………諸伏さんでも、スコッチでもない立ち振る舞いだ。
つまり、一言で言うと、緑川さんはチャラい。
警察学校組の話のちょりーすを素でやりそうな雰囲気。

今まで男性と付き合ってこなかった私が、そんな男性と二人で歩いている。
それを心配してることはわかってる。
わかってはいるが、これでも二十九歳なのだ。
そういう心配はほどほどにして頂きたい。
しかも仕事中の同僚を使っての監視まがいな行為は、常識から逸脱している。

「お待たせ」

そう声をかけると、大丈夫、と彼は笑った。

「妹は大変だなぁ」

頭をぐりぐりと撫でられて、私はそれを軽く払った。

「妹離れするように伝えてよ」
「本当に問題ないひとと付き合うようになったら伝えてやるよ」

そんな日は、きっと来ない。
誰かと結婚する自分なんて、とても想像できなかった。
そう思ったことが諸伏さんもわかったのか、またぐりぐりと頭を撫でられたので私はそれを払った。



翌日、職場の前に研にぃが居た。
いつもなら傍に寄るが、今日はわざと無視して家路を進む。

「ちょっと、ひなちゃん」

そう言って後を着いてくる研にぃに返事はしない。

「怒ってる?」

その長い足は簡単に私に追いついて、隣りを悠然と歩き始めるが、目もくれないと彼は寂しそうな声でごめん、と呟いた。

「ひなちゃんが嫌がってたのに、ごめんな」

その言葉を聞いて、私はちらりと彼の顔を覗いた。
いつも自信満々な眉が八の字に下がっている。

「私が、嫌がってるのわかってたんだよね」
「うん。
心配してる、なんて俺の勝手な都合だよな」

しゅん、とした表情はまるで動物のようで可愛い。
ここで可愛いと思ってしまう私はやっぱりこの人たちを決して嫌いになれないし、雑に扱うことだって出来ないのだ。
道行く人の邪魔にならないように、道の端っこで立ち止まる。
研にぃも同じように立ち止まり向かい合った。

「私は、研にぃに言う必要があることなら言うよ」
「うん」
「…彼とは付き合うことは無いし。
でも、中学からの知り合いなの。
懐かしくて会ってるだけだから」

そう言うと、研にぃは表情を綻ばせた。

「そっか、中学の…」

嘘じゃないけど嘘をついてる身としては申し訳ないが、事実を研にぃに言う訳にもいかない。

「だからね。
…研にぃ、お腹空いた」

言外に仲直りを告げると、研にぃは破顔した。
そして勢いのまま、よし、と私の手を握って歩き出す。

「おにーさんが美味しいお店連れてったげる!」
「私の好きなものある?」
「モチのロン!」

図らずも、萩原と言えば、な台詞が聞けて私も笑う。

「今はね、研にぃたちと話したり、仕事してるのが楽しいの。
それ以外はいらないんだよ」

組織に関わる全てが終わった時、私はもしかしたら皆と居られないかもしれない。
だからせめて、全てが終わるまでは、皆と笑っていたい。
貴方たちの命を、見ていたいの。